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     司法試験:国際関係法(私法系)


本サイトの趣旨〕〔2021年・2022年度司法試験〕〔2023年度司法試験


■本サイトの趣旨

2023年春に退職するまでは、毎年、法科大学院協会から司法試験に関するアンケートがあり、また講義やゼミ(最後の数年は開店休業とはいえ)は、司法試験の内容を踏まえて実施していました。

退職後は、もう司法試験に直接関わる仕事はありませんが、拙著『国際財産法』および『国際家族法』の改訂作業では、司法試験を全く無視するわけにはいかないので、引き続き毎年の問題文・出題趣旨・採点実感をウオッチし続けることにしました。

ただし、問題文の論点に関するチャート図を公表するのは、憚られるので、あくまでも私個人の訓練(ボケ防止)のために秘蔵することにします。また、便宜上、私家版司法試験ガイドに掲載していた退職前(2021年・2022年)の司法試験に関する雑感をこのページに移しました。

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■2021年・2022年度司法試験

・出題趣旨と採点実感
司法試験制度の初期の段階では、国際私法の出題趣旨や採点実感を読んでも、おおむね納得できることが多かったのですが、ここ数年は、首を傾げることが多くあります。とくに不法行為準拠法を問う問題であるにもかかわらず、通則法22条の特別留保条項にも言及せよとか、国際的裁判管轄を問う問題であるにもかかわらず、民訴法3条の9の特別の事情による訴えの却下にも言及せよというのは、疑問です。本来の準拠法の決定や国際的裁判管轄の決定をしっかり書くべきであるのに、単なる行数稼ぎになってしまうのではないかと懸念されます。

・国籍法に関する不正確な記述
2021年および2022年の第1問(家族法)では、国籍法に関する不正確な記述があり、出題者のレベルを疑うような出来事がありました。まず2021年は、「現時点まで、Cは国籍法第14条の国籍の選択をしていないものとする」、「この時点において、Cは国籍法第14条の規定に基づいて、日本の国籍を選択していたものとする」という記述がありました。しかし、国籍法14条は、日本国籍の選択方法として、外国国籍の離脱および日本国籍の選択宣言(戸籍法104条の2)の二つを挙げており、問題文がいずれを意味するのかは明らかでありません。また2022年は、「出生時は甲国と日本の重国籍者であったが、既に甲国籍を選択した」という記述がありました。しかし、これでは、甲国の国籍法に日本の国籍法14条と同様の国籍選択の規定があり、甲国国籍の選択宣言をしたことにより、日本国籍を失ったのか(国籍法11条2項)、それとも日本国籍の離脱届をして、日本国籍を失ったのか(国籍法13条)、いずれを意味するのかは明らかでありません。結論には、影響しないとはいえ、出題者がこのように不正確な記述をするのは、受験者を惑わすものであり、大いに問題であると思います。

・長文化の意図
2021年までは、おおむね第1問(家族法)が1頁、第2問(財産法)が1頁半くらいでしたが、2022年は、第1問が1頁半、第2問に至っては、3頁に増大しました。試験時間は、同じく3時間です。単に長いだけでなく、私も、当事者の関係や時系列の図を作成して、ようやく出題の趣旨が分かるような内容でした。あるいは、受験者が国際私法を甘く見ていることに対する警告の意味があったのかもしれませんが、採点結果がどのようになるのか、これで昨年と変わらないとしたら、よほど下駄をはかせたのではないかと疑ってしまいます。現に以前は、学生の再現答案を見たら、大体これくらいの点数かなと予測できましたが、最近は、予想より点数が高くつけられている気がします。

・2022年度司法試験の採点実感

これを読むと、事態は、ますます悪化していることが分かります。
https://www.moj.go.jp/content/001382906.pdf

条文解釈を間違えるのは、いつものことですが、今年は、とくに問題文に書かれた事実を勘違いし、間違った事実をもとに書いた答案、「各問は独立した問いである」とか、「反致については検討を要しない」とか、「ウィーン売買条約の適用がない」といった注意事項を無視した答案が一定数あったそうです。

(注)正確には、採点実感は、「ウィーン売買条約の適用について詳細に論じた答案」があったことを問題としているのであり、同条約の適用を全く論じないでよいわけではありません。現に問題文では、甲国が同条約の締約国でないことが示されているだけであり、私自身も試験直後には、「ウィーン売買条約1条1項a号・b号の要件不成立→甲国契約法Q条」というメモを作成していました。ただ私の経験上、学生の答案では、しばしば同条約1条1項a号・b号の条文を丸写しにし、その要件の不成立を長々と書いて、肝心のこと(本件では民訴法3条の3第1号の解釈)をほとんど書いていないことがあり、おそらく採点実感は、そのことを問題にしているのだと推測されます。なお、以上の点は、ある人のご指摘を受けて、加筆しました。

また、成年後見の開始の審判や後見人選任の審判の国際的裁判管轄が問われているのに、家事事件手続法の国内裁判管轄規定や民訴法の規定によった答案、国際的裁判管轄を書く際に、「手続は法廷地法による」ことをわざわざ書いた答案、事案とおよそ関係しそうもない管轄原因を長々と書いた答案も一定数あったそうです。

最後に「受験生と今後の法科大学院教育に求めるもの」として、「いずれの国の法を適用すべきか」という問いは、準拠法の決定を尋ねているのであるから、準拠法がどうなるかを答えればよいとか、条文を引用する際に、規定の趣旨も必ず記述するような答案があったとか、他人が読んで分かる文章を書く能力も評価の対象であるといったことを書いているのは、それだけ常識外れの答案が多かったことを窺わせます。

以上のような答案は、私の期末試験でも見られるものであり、最近は、その傾向が酷くなっているなと思っていましたが、司法試験の採点実感に書くほどですから、相当酷いのでしょう。それにもかかわらず、採点結果が例年と大きく異ならないように見えるのは、採点が甘くなっていることの証左です。
https://www.moj.go.jp/content/001379928.pdf

これらは、法科大学院でゼミをきちんと実施していれば、ある程度は防ぐことができますが、本学だけではなく、他大学の法科大学院でも、ゼミがあまり実施されていないのでしょう。その責任は、各法科大学院だけでなく、文科省などの各関係機関にもあります。私は、退職後も、司法試験問題や出題趣旨・採点実感をウオッチして、苦言を呈し続けたいと思います。

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■2023年度司法試験

・試験問題に対する感想

まず財産法の試験問題は、いきなり相殺の自働債権に国際的裁判管轄が必要かというものであり、驚きました。たしかに、実務上重要であり、わが国の下級審判決や欧州司法裁判所の判決などがありますが、市販の普通の教科書には書かれていない問題であり、基本知識の確認という司法試験の趣旨からは、大きく外れているように思います。

問題文も、「A社の主張が認められるか否かについて、そのように考えた根拠を挙げて論じなさい」というのは、受験生を悩ませるところでしょう。答案に理由が必要であるのは、当然のことであり、これでは、肯定説・否定説を並べて、行数稼ぎをする者が増えるのではないかと心配です。要するに、問題の趣旨が曖昧であり、出題者が何を求めているのか、それ自体が明らかでないと言わざるを得ません。

つぎに家族法のほうは、比較的オーソドックスな問題文ですが、認知無効確認の訴えにおいて、血縁上の父の本国が事実主義を採用しているという設定であること、その血縁関係の証明がある場合とない場合に分けて論じるよう求めるのは、やはり受験生を悩ませると思います。

・合格者数について

11月8日(水)に合格発表がありました。在学中受験の初年度ということで、昨年と今年を比較してみると、昨年は受験者数3,082人・合格者数1,403人に対し、今年は受験者数3,928人・合格者数1,781人となっています。

この数字をどのように読むのかは、人によって異なるでしょうが、私としては、まず法科大学院の定員を考えれば、受験者数がそれほど増えていない気がします。すなわち、留年などにより、在学中受験の要件を満たさない者が多かったということです。

その割に合格者数が多いのは、在学中受験の成果であるのかといえば、それも疑問に思います。たとえば、国際私法をみる限り、問題文の難易度が上がっているのに、合格率がそれほど変わらないのは、下駄をはかせているとしか思えません。

何よりも、司法試験に合格したからといって、法曹になれるとは限りません。司法修習についていけなくて、研修所を脱走する者がいるのは、毎年のことです。また、二回試験に通っても、就職がうまくいかず、かといって即独をしても、弁護士会費を払えそうもないため、結局、弁護士登録を諦める人もいると聞きます。

そういう状況で、司法試験合格者が増えたというニュースを流すメディア報道には、首を傾げます。また、粗製濫造をする司法試験委員会の無責任さにも、あきれかえります。

・大学別合格者数

これについても、昨年と今年を比較したいと思います。
2023年度:https://www.bengo4.com/c_18/n_16740/
2022年度:https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/9149

数字だけをみたら、中大ローは、合格者数・合格率ともに大幅に増え、合格者数ランキングでも、二つ上がったので、大いに健闘したと思われるかもしれません。

しかし、京大・東大・慶應のトップ3と比較したら、合格者数・合格率ともに半分です。新司法試験の初年度2006年は、中大ローはビッグ・ロースクールとして定員300人ということもあり、合格率はともかく、合格者数では、全国1位でした。しかし、昨年などは、合格者数50名・合格率26%であり、募集停止になっても不思議ではないほど、落ち込んでいます。今年は、合格率が40%近くに届き、何とか面目を保っていますが、将来は分かりません。

中大ローのホームページには、いまだに「法科の中央」ということが書かれており、このサイトの別のページで書いたとおり、この言葉は、恥ずかしいから削除すべきであると思っています。そもそも法曹界で中大出身者が多数を占めていたのは、私の学生時代(1970年代)の話であり、しかもそれは、学生や卒業生が運営する司法試験勉強会(真法会)のお蔭であり、学部教育の成果ではありません。

今では、その真法会の中で優秀な者は、他の法科大学院に進学する有様であり、上記のとおり、トップ3の半分しか合格者数・合格率がないのであれば、「法科の中央」という看板は外すべきです。もともと看板に偽りがあったわけですから、少なくとも法科大学院の宣伝文句としては、不適切だと思います。

・出題趣旨と採点実感

司法試験の結果に関するサイトでは、合格者の発表と同時に、出題趣旨の公表も行われていたようです。国際関係法(私法系)については、要するに結論だけが述べられており、また判例の表現をそのまま使ったような箇所も見られ、これでは、受験者が安易な答案しか書かないのではないかという懸念があります。

その後、2024年になってすぐに採点実感が公表されたましが、下駄をはかせたという懸念が色濃く滲み出た内容でした。答案自体を読んだわけではありませんが、たとえば、第1問(財産法)の設問1小問1については、「民訴法第3条の6の規定の客観的併合の趣旨や、相殺と反訴が類似するとして、同法第146条第3項の規定の趣旨を類推し、他方当事者の不利益と一括解決の便宜とを的確に比較較量している答案は、相応に高く評価された」とのことです。しかし、外国の専属管轄合意があることにより、日本の裁判所の管轄が否定されているわけですから、これらの規定は、適用が除外されるはずであり、それにもかかわらず、趣旨を類推した答案を高く評価するというのは、どうにも解せません。

また、第2問(家族法)の設問1小問2については、明らかに問題文を読み間違えている不良答案が「無視できない数であったために、やむを得ず、そのような答案も、その読解を前提にして正しく法適用がされている場合には最低限の一定の評価をした」というのですが、これは、まさに下駄をはかせたことを宣言しているようなものです。そのような評価によって司法試験に合格し、法曹実務家になった者が誤った判決を下したり、誤った弁論をしたら、司法試験委員が責任を負うべきではないでしょうか。

客観的に評価をしたら、足切り点にも届かない答案が多数あるため、下駄をはかせなければ、国際関係法(私法系)が敬遠されることになるのを恐れたのではないかと邪推してしまいます。そういえば、今年度から、第1問が財産法、第2問が家族法となったことに気づきました。実際のところ、私が在籍中には、そもそも国際私法の授業を受けないで、国際関係法(私法系)を受験する者が多数いましたが、受講した場合も、財産法のみという者が多かったです。家族法の授業では、訴訟と非訟の違いや附帯処分について、相当詳しく説明しましたが、まるで理解を拒んでいるかのようであり、基本的な間違いをする者が後を絶ちませんでした。そんなことは、実務に入れば自然と覚えるものだと言ってよいのでしょうか。それでは、法科大学院や司法試験は、何のためにあるのでしょうか。



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