油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約


昭和51年7月15日条約第9号  
発効昭和51年9月1日外務省告示第164号
改正平成6年9月14日条約第9号(平成6年11月22日施行)
改正平成7年9月19日条約第18号(平成8年5月30日施行)
廃棄平成10年5月15日外務省告示第223号  

この条約の締約国は、
ばら積みの油の全世界にわたる海上輸送がもたらす汚染の危険を認め、
船舶からの油の流出又は排出による汚染によつて生ずる損害を被つた者に対し適正な賠償が行われることを確保することが必要であると確信し、
責任についての問題を解決し及び、そのような場合において、適正な賠償を行うことについての統一的な国際的規則及び手続を採用することを希望して、
次のとおり協定した。

第1条
 この条約の適用上、
1 「船舶」とは、ばら積みの油を貨物として現に輸送している海上航行船舶及び海上用舟艇(種類のいかんを問わない。)をいう。
2 「者」とは、個人若しくは組合又は、法人であるかどうかを問わず、公法上若しくは私法上の団体(国及びその行政区画を含む。)をいう。
3 「所有者」とは、船舶の所有者として登録されている者又は、登録がない場合には、船舶を所有する者をいう。ただし、国が所有する船舶であつて、その国においてその船舶の運航者として登録されている会社が運航するものについては、「所有者」とは、その会社をいう。
4 「船舶の登録国」とは、登録されている船舶についてはその船舶が登録されている国をいい、登録されていない船舶についてはその船舶の旗国をいう。
5 「油」とは、原油、重油、重ディーゼル油、潤滑油、鯨油等の持続性油をいい、船舶により貨物として輸送されているかその船舶の燃料タンクにあるかを問わない。
6 「汚染損害」とは、油を輸送している船舶からの油の流出又は排出(その場所のいかんを問わない。)による汚染によつてその船舶の外部において生ずる損失又は損害をいい、防止措置の費用及び防止措置によつて生ずる損失又は損害を含む。
7 「防止措置」とは、いずれかの者が汚染損害を防止し又は最小限にするため事故の発生後にとる相当の措置をいう。
8 「事故」とは、いずれかの出来事又は同一の原因による一連の出来事であつて、汚染損害をもたらすものをいう。
9 「機関」とは、政府間海事協議機関をいう。

第2条
 この条約は、締約国の領域(領海を含む。)において生ずる汚染損害及びそのような損害を防止し又は最小限にするためにとられる防止措置についてのみ適用する。

第3条  
1 2及び3に規定する場合を除くほか、事故の発生の時又は事故が一連の出来事から成るときは最初の出来事の発生の時における船舶の所有者は、その事故の結果その船舶から流出し又は排出された油によつて生ずる汚染損害について責任を負う。
2 所有者は、次のことを証明した場合には、汚染損害について責任を負わない。
(a) 当該汚染損害が戦争、敵対行為、内乱、暴動又は例外的、不可避的かつ不可抗力的な性質を有する自然現象によつて生じたこと。
(b) 当該汚染損害が、専ら、損害をもたらすことを意図した第三者の作為又は不作為によつて生じたこと。
(c) 当該汚染損害が、専ら、燈台その他の航行援助施設の維持について責任を有する政府その他の当局のその維持についての過失その他不法の行為によつて生じたこと。
3 所有者は、汚染損害が、専ら又は部分的に、汚染損害を被つた者の作為若しくは不作為(損害をもたらすことを意図したものに限る。)又は過失によつて生じたことを証明した場合には、その者に対する責任の全部又は一部を免れることができる。
4 汚染損害の賠償の請求は、この条約に基づく場合を除くほか、所有者に対して行うことができない。汚染損害の賠償の請求は、この条約に基づくものであるかどうかを問わず、所有者の被用者又は代理人に対して行うことができない。
5 この条約のいかなる規定も、所有者の第三者に対する求償権を害するものではない。

第4条
 油が二以上の船舶から流出し又は排出され、それによつて汚染損害が生じた場合には、それらのすべての船舶の所有者は、前条の規定に基づいて責任を免れる場合を除くほか、合理的に分割することができない汚染損害の全体について連帯して責任を負う。

第5条  
1 船舶の所有者は、この条約に基づく自己の責任を、一の事故について、その船舶のトン数につきトン当たり2000フランで計算した金額に制限することができる。ただし、この金額は、いかなる場合にも、2億1000万フランを超えないものとする。
2 所有者は、事故が所有者自身の過失によつて生じた場合には、1の制限を援用することができない。
3 所有者は、1の制限の利益を享受するためには、第9条の規定に基づいて訴えが提起される締約国のうちいずれかの締約国の裁判所その他の権限のある当局に、自己の責任の限度額に相当する額の基金を形成しなければならない。基金は、その金額を供託することにより、又は基金が形成される締約国の法令によつて認められかつ裁判所その他の権限のある当局が十分と認める銀行保証その他の保証を提供することによつて形成することができる。
4 債権者の間における基金の分配は、確定された債権の額に比例して行う。
5 所有者、その被用者若しくは代理人又は所有者に保険その他の金銭上の保証を提供する者は、基金の分配が行われる前に当該事故の結果として汚染損害について賠償額を支払つた場合には、その支払つた額を限度として、その賠償額の支払を受けた者がこの条約に基づいて有したであろう権利を代位によつて取得する。
6 5に規定する者以外の者も、その支払つた汚染損害についての賠償額につき、5に規定する代位の権利を、関係国内法令によりそのような代位が認められる範囲内で行使することができる。
7 所有者又は他のいずれかの者が、基金の分配が行われる前に支払われたならば5又は6の規定に基づいてそれらの者が代位の権利を有したであろう賠償額の全部又は一部の支払を後に強制されることがあることを証明した場合には、基金が形成された国の裁判所その他の権限のある当局は、それらの者が後に基金に対して自己の権利を行使することを可能にするため十分な金額を暫定的に保留することを命ずることができる。
8 所有者が汚染損害を防止し又は最小限にするために自発的に負担した相当の経費及び自発的に払つた相当の犠牲に係る権利は、基金に対し、他の債権と同一の順位を有する。
9 この条にいうフランは、純分1000分の900の金の65.5ミリグラムから成る単位とする。1に規定する金額は、基金が形成される国の通貨に、基金の形成の日にその通貨がこの9に定義する単位に対して有する公定の価値に従つて、換算する。
10 この条の規定の適用上、船舶のトン数は、純トン数の決定に当たり機関室の容積として総トン数から控除した容積を純トン数に加えたトン数とする。トン数測度に関する通常の規則に従つて測度することができない船舶については、船舶のトン数は、その船舶が輸送することができる油の重量をトン(2240ポンド)で表したものの40パーセントとする。
11 保険者その他金銭上の保証を提供する者は、この条の規定に従い、所有者が形成する場合と同一の条件でかつ同一の効果を有するものとして基金を形成することができる。この基金は、所有者自身の過失がある場合にも形成することができるものとするが、この場合においては、所有者に対する債権者の権利は、その基金の形成によつて害されることはない。

第6条  
1 所有者が事故の発生後に前条の規定に従つて基金を形成しており、かつ、自己の責任を制限することができる場合には、
(a) 当該事故によつて生じた汚染損害に係る債権を有する者は、その債権に関し、所有者の他の財産に対していかなる権利をも行使することができない。
(b) 締約国の裁判所その他の権限のある当局は、当該所有者が所有する船舶その他の財産であつて当該事故によつて生じた汚染損害に係る債権に関して差し押さえられたものの差押えの解除を命じなければならず、また、そのような差押えを免れるために提供された保証その他の担保をも同様に取り消さなければならない。
2 もつとも、1の規定は、基金を管理する裁判所における手続に当該債権者が参加することが可能であり、かつ、基金がその者の債権の弁済のために実際に用いることができるものである場合にのみ適用する。

第7条  
1 締約国に登録されており、かつ、2000トンを超えるばら積みの油を貨物として輸送している船舶の所有者は、この条約に基づく汚染損害についての自己の責任を担保するため、第5条1に規定する責任の制限を適用して決定される額の保険又は銀行保証若しくは国際的な補償基金によつて交付される証明書のような他の金銭上の保証を維持しなければならない。
2 保険その他の金銭上の保証がこの条約に従つて効力を有していることを証明する証明書が、各船舶に対して発行される。その証明書は、船舶の登録国の権限のある当局により、1の要件が満たされていることが確認された後に、発行され又は公認される。その証明書は、附属書に示す様式によるものとし、次の事項を記載する。
(a) 船名及び船籍港
(b) 所有者の氏名又は名称及び主たる営業所の所在地
(c) 保証の種類
(d) 保険者その他保証を提供する者の氏名又は名称及び主たる営業所の所在地並びに、適当な場合には、保険契約又は保証契約を締結した営業所の所在地
(e) 証明書の有効期間。その期間は、保険その他の保証の有効期間を超えるものであつてはならない。
3 証明書は、それを発行する国の公用語で作成する。用いられる言語が英語又はフランス語のいずれでもない場合には、その証明書には、それらの言語のいずれかによる訳文を記載する。
4 証明書は、船舶内に備え置くものとし、その写しは、当該船舶の登録簿を保管する当局に寄託する。
5 保険その他の金銭上の保証は、2に規定する証明書に記載された保険その他の保証の有効期間の満了以外の理由により、4にいう当局に対して終了の通知が行われた日から3箇月の期間を経過する前に効力を失うことがあるものである場合には、この条の要件を満たすこととはならない。ただし、当該期間内において証明書が4にいう当局に引き渡され又は新しい証明書が発行されたことを条件として効力を失う場合は、この限りでない。この5の規定は、保険その他の保証がこの条の要件を満たさなくなるような変更についても同様に適用する。
6 登録国は、この条の規定に従うことを条件として、証明書の発行要件及び効力要件を定める。
7 締約国の権限に基づいて発行され又は公認された証明書は、他の締約国により、この条約の適用上承認され、それらの締約国が発行し又は公認した証明書と同一の効力を有するものと認められる。締約国は、証明書に記載された保険者又は保証提供者がこの条約によつて課される義務を履行する資力を有しないと認める場合には、いつでも船舶の登録国に対し協議を要請することができる。
8 汚染損害の賠償の請求は、保険者その他汚染損害についての所有者の責任を担保する金銭上の保証を提供する者に対して直接に行うことができる。この場合には、被告は、所有者自身の過失があるかどうかを問わず、第5条1に規定する責任の制限を援用することができる。被告は、また、所有者自身が援用することができたであろう抗弁(所有者の破産及び清算を除く。)を援用することができる。被告は、更に、汚染損害が所有者自身の悪意によつて生じたことの抗弁を援用することができるが、所有者により被告に対して提起される訴えにおいて援用することができたであろう他のいかなる抗弁をも援用することができない。被告は、いかなる場合にも、所有者が訴訟手続に参加することを要求する権利を有する。
9 1の規定に従つて維持される保険その他の金銭上の保証によつて提供される金額は、この条約に基づく債権の弁済にのみ充てる。
10 締約国は、自国の旗を掲げる船舶でこの条の規定に該当するものについては、2又は12の規定に従つて証明書が発行されていない限り、運航を許してはならない。
11 この条の規定に従うことを条件として、各締約国は、自国の領域内の港に入港し若しくはそこから出港し又は自国の領海内にある沖合の施設に到着し若しくはそこから出発する船舶(登録の場所のいかんを問わない。)であつて2000トンを超えるばら積みの油を貨物として現に輸送しているものにつき、自国の国内法令により、1の要件を満たす保険その他の保証が維持されることを確保する。
12 締約国が所有するいずれかの船舶について保険その他の金銭上の保証が維持されていない場合には、この条の関係規定は、その船舶については適用しない。もつとも、その船舶は、その船舶の登録国の権限のある当局が発行する証明書であつて、その船舶がその国の所有するものでありかつその船舶の責任が第5条1に規定する制限の範囲で担保されている旨を明記しているものを備え置かなければならない。その証明書は、できる限り2に規定する様式に従うものとする。

第8条 この条約に基づいて賠償を請求する権利は、損害が生じた日から3年以内にこの条約に基づいて訴えが提起されない場合には、消滅する。ただし、訴えは、いかなる場合にも、損害をもたらした事故の発生の日から6年を経過した後は、提起することができない。事故が一連の出来事から成る場合には、その6年の期間は、最初の出来事の発生の日から起算する。

第9条  
1 事故が一若しくは二以上の締約国の領域(領海を含む。)において汚染損害をもたらし、又は当該領域(領海を含む。)における汚染損害を防止し若しくは最小限にするため防止措置がとられた場合には、賠償の請求の訴えは、当該締約国の裁判所にのみ提起することができる。その訴えについては、被告に対し相当の通告を行う。
2 各締約国は、自国の裁判所が1に規定する賠償の請求の訴えについての管轄権を有するようにする。
3 第5条の規定に従つて基金が形成された後は、基金が形成された国の裁判所は、基金の割当て及び分配に関するすべての事項について決定を行う排他的権限を有する。

第10条  
1 前条の規定に従い管轄権を有する裁判所が下した判決で、その判決のあつた国において執行することが可能であり、かつ、再び通常の方式で審理されることがないものは、次の場合を除くほか、いずれの締約国においても承認される。
(a) その判決が詐欺によつて得られた場合
(b) 被告が相当の通告及び自己の主張を陣述するための公平な機会を与えられなかつた場合
2 1の規定に基づいて承認された判決は、各締約国において、その国において必要とされる手続がとられたときは、執行力を付与される。その手続は、事件の本案の審理を許すものであつてはならない。

第11条  
1 この条約は、軍艦又は国によつて所有され若しくは運航される他の船舶で当該期間において政府の非商業的役務にのみ使用されているものについては、適用しない。
2 締約国によって所有されかつ商業的目的に使用されている船舶に関しては、各締約国は、第9条に規定する管轄権の下での訴訟に服し、かつ、主権国家としての地位に基づくすべての抗弁の権利を放棄する。

(第12条~第21条略)