1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約を改正する1992年の議定書


平成7年9月19日条約第18号
発効平成8年5月30日外務省告示第534号  
改正平成15年12月9日外務省告示第476号

この議定書の締約国は、
1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約及び同条約の1984年の議定書を考慮し、
適用範囲の拡大及び賠償の拡充について定める同議定書が効力を生じていないことに留意し、
油による汚染に関する責任並びに賠償及び補償の国際的な制度を存続させることが重要であることを確認し、
1984年の議定書の内容ができる限り速やかに効力を生ずることを確保することが必要であることを認識し、
1971年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約について関連する改正が行われることに伴い特別の規定が必要であることを認識して、
次のとおり協定した。

第1条
 この議定書が改正する条約は、1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(以下「1969年責任条約」という。)である。1969年責任条約の1976年の議定書の締約国については、「1969年責任条約」というときは、同議定書によって改正された1969年責任条約をいうものとする。

第2条
 1969年責任条約第1条を次のように改正する。
1 1を次のように改める。
 1 「船舶」とは、ばら積みの油を貨物として輸送するために建造され又は改造された海上航行船舶及び海上用舟艇(種類のいかんを問わない。)をいう。ただし、油及び他の貨物を輸送することができる船舶については、ばら積みの油を貨物として現に輸送しているとき及びその輸送の後の航海中(その輸送による残留物が船舶内にないことが証明された場合を除く。)においてのみ、船舶とみなす。
2 5を次のように改める。
 5 「油」とは、原油、重油、重ディーゼル油、潤滑油等の持続性の炭化水素の鉱物油をいい、船舶により貨物として輸送されているかその船舶の燃料タンクにあるかを問わない。
3 6を次のように改める。
 6 「汚染損害」とは、次のものをいう。
 (a) 船舶からの油の流出又は排出(その場所のいかんを問わない。)による汚染によつてその船舶の外部において生ずる損失又は損害。ただし、環境の悪化について行われる賠償(環境の悪化による利益の喪失に関するものを除く。)は、実際にとられた又はとられるべき回復のための合理的な措置の費用に係るものに限る。
 (b) 防止措置の費用及び防止措置によつて生ずる損失又は損害
4 8を次のように改める。
 8 「事故」とは、いずれかの出来事又は同一の原因による一連の出来事であつて、汚染損害をもたらすもの又は汚染損害をもたらす重大なかつ急迫した脅威を生じさせるものをいう。
5 9を次のように改める。
 9 「機関」とは、国際海事機関をいう。
6 9の次に10として次のように加える。
 10 「1969年責任条約」とは、1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約をいう。同条約の1976年の議定書の締約国については、「1969年責任条約」というときは、同議定書によつて改正された1969年責任条約をいうものとする。

第3条 1969年責任条約第2条を次のように改める。
 第2条 この条約は、次のものについてのみ適用する。
 (a) 次の区域において生ずる汚染損害
 (i) 締約国の領域(領海を含む。)
 (ii) 国際法に従つて設定された締約国の排他的経済水域。排他的経済水域を設定していない締約国については、その締約国の領海に接続しかつその締約国が国際法に従つて決定する水域であつて、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えないもの
 (b) (a)の汚染損害を防止し又は最小限にするための防止措置(とられた場所のいかんを問わない。)

第4条 1969年責任条約第3条を次のように改正する。
1 1を次のように改める。
 1 2及び3に規定する場合を除くほか、事故の発生の時又は事故が一連の出来事から成るときは最初の出来事の発生の時における船舶の所有者は、その事故の結果その船舶から生ずる汚染損害について責任を負う。
2 4を次のように改める。
 4 汚染損害の賠償の請求は、この条約に基づく場合を除くほか、所有者に対して行うことができない。5の規定に従うことを条件として、汚染損害の賠償の請求は、この条約に基づくものであるかどうかを問わず、次に掲げる者に対して行うことができない。
 (a) 所有者の被用者若しくは代理人又は乗組員
 (b) 水先人その他船舶のために役務を提供する者で乗組員以外のもの
 (c) 船舶の傭船者(裸傭船者を含み、名称のいかんを問わない。)、管理人又は運航者
 (d) 所有者の同意を得て又は権限のある公の当局の指示に基づき救助活動を行う者
 (e) 防止措置をとる者
 (f) (c)から(e)までに掲げる者の被用者又は代理人
 ただし、(a)から(f)までに掲げる者が汚染損害をもたらす意図をもつて又は無謀にかつ汚染損害の生ずるおそれがあることを認識して行つた行為(不作為を含む。)により汚染損害が生じた場合は、この限りでない。

第5条 1969年責任条約第4条を次のように改める。
 第4条 二以上の船舶が関係する事故が生じ、それによつて汚染損害が生じた場合には、それらのすべての船舶の所有者は、前条の規定に基づいて責任を免れる場合を除くほか、合理的に分割することができない汚染損害の全体について連帯して責任を負う。

第6条 1969年責任条約第5条を次のように改正する。
1 1を次のように改める。
 1 船舶の所有者は、この条約に基づく自己の責任を、一の事故について、次のとおり計算した金額に制限することができる。
 (a) トン数5000単位を超えない船舶については、451万計算単位
 (b) トン数5000単位を超える船舶については、それを超える部分についてトン数1単位当たり631計算単位で計算した計算単位と(a)の計算単位とを合算した計算単位
 ただし、この金額は、いかなる場合にも、8977万計算単位を超えないものとする。
2 2を次のように改める。
 2 所有者は、汚染損害をもたらす意図をもつて又は無謀にかつ汚染損害の生ずるおそれがあることを認識して行つた自己の行為(不作為を含む。)により汚染損害の生じたことが証明された場合には、この条約に基づいて自己の責任を制限することができない。
3 3を次のように改める。
 3 所有者は、1の制限の利益を享受するためには、第9条の規定に基づいて訴えが提起される締約国のうちいずれかの締約国の裁判所その他の権限のある当局に、又は訴えが提起されない場合には同条の規定に基づいて訴えを提起することができる締約国のうちいずれかの締約国の裁判所その他の権限のある当局に、自己の責任の限度額に相当する額の基金を形成しなければならない。基金は、その金額を供託することにより、又は基金が形成される締約国の法令によつて認められかつ裁判所その他の権限のある当局が十分と認める銀行保証その他の保証を提供することによつて形成することができる。
4 9を次のように改める。
 9(a) 1にいう計算単位は、国際通貨基金の定める特別引出権とする。1に規定する金額は、当該国の通貨が3に規定する基金の形成の日に特別引出権に対して有する価値に従つて、当該通貨に換算する。国際通貨基金の加盟国である締約国の通貨の特別引出権表示による価値は、国際通貨基金がその操作及び取引のために適用する評価方法であつて換算の日において効力を有しているものにより計算する。国際通貨基金の加盟国でない締約国の通貨の特別引出権表示による価値は、その締約国の定める方法により計算する。
 (b) 国際通貨基金の加盟国でなく、かつ、自国の法令により(a)の規定を適用することのできない締約国は、この条約の批准、受諾若しくは承認若しくはこれへの加入の時に又はその後いつでも、(a)にいう計算単位を15金フランに等しくすることを宣言することができる。この(b)にいう金フランとは、純分1000分の900の金の65.5ミリグラムから成る単位をいう。金フランの通貨への換算は、当該国の法令の定めるところにより行う。
 (c) (a)第4段に規定する計算及び(b)に規定する換算は、(a)第1段から第3段までの規定を適用したならば得られたであろう1に規定する金額と可能な限り同一の実質価値が締約国の通貨で表示されるように行う。締約国は、(a)に規定する計算の方法又は(b)に規定する換算の結果を、この条約の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の時に寄託者に通知する。当該計算の方法又は当該換算の結果が変更された場合も、同様とする。
5 10を次のように改める。
 10 この条の規定の適用上、船舶のトン数は、1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約附属書Iに定めるトン数の測度に関する規則に従つて計算される総トン数とする。
6 11後段を次のように改める。
 この基金は、所有者が2の規定に基づき自己の責任を制限することができない場合にも形成することができるものとするが、この場合においては、所有者に対する債権者の権利は、その基金の形成によつて害されることはない。
(平成15年告示第476号改正)

第7条 1969年責任条約第7条を次のように改正する。
1 2第1段及び第2段を次のように改める。
 保険その他の金銭上の保証がこの条約に従つて効力を有していることを証明する証明書が、1に規定する要件が満たされていることが締約国の権限のある当局により確認された後に、各船舶に対して発行される。締約国に登録されている船舶については、その証明書は、船舶の登録国の権限のある当局により発行され又は公認される。締約国に登録されていない船舶については、その証明書は、いずれかの締約国の権限のある当局により発行され又は公認されることができる。
2 4を次のように改める。
 4 証明書は、船舶内に備え置くものとし、その写しは、当該船舶の登録簿を保管する当局又は当該船舶がいずれの締約国にも登録されていない場合にはその証明書を発行し若しくは公認した国の当局に寄託する。
3 7前段を次のように改める。
 2の規定に従い締約国の権限に基づいて発行され又は公認された証明書(いずれの締約国にも登録されていない船舶について発行され又は公認されたものを含む。)は、他の締約国により、この条約の適用上承認され、それらの締約国が発行し又は公認した証明書と同一の効力を有するものと認められる。
4 7後段中 「船舶の登録国」を「その証明書を発行し又は公認した国」に改める。
5 8第2段を次のように改める。
 この場合には、被告は、所有者が第5条2の規定に基づいて自己の責任を制限することができないときにおいても、同条1に規定する責任の制限を援用することができる。

第8条 1969年責任条約第9条を次のように改正する。
 1を次のように改める。
 1 事故が一若しくは二以上の締約国の領域(領海を含む。)若しくは第2条に規定する水域において汚染損害をもたらし、又は当該領域(領海を含む。)若しくは当該水域における汚染損害を防止し若しくは最小限にするため防止措置がとられた場合には、賠償の請求の訴えは、当該締約国の裁判所にのみ提起することができる。その訴えについては、被告に対し相当の通告を行う。

第9条 1969年責任条約第12条の次に次の2条を加える。
 第12条の2 経過規定
  事故の発生の時にこの条約及び1969年責任条約の双方の締約国である国については、次の(a)から(d)までの経過規定を適用する。
 (a) この条約に基づく責任は、事故がこの条約の対象とされている汚染損害をもたらした場合において、その責任が1969年責任条約の下でも生ずるときは、その範囲で履行されたものとみなす。
 (b) 事故がこの条約の対象とされている汚染損害をもたらし、かつ、当該国がこの条約及び1971年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約の双方の締約国である場合には、(a)の規定が適用された後履行されずに残る責任は、汚染損害が1971年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約が適用された後補償されずに残る範囲でのみ、この条約に基づいて生ずる。
 (c) 第3条4の規定の適用に当たり、「この条約」とは、適宜、この条約又は1969年責任条約をいうものと解する。
 (d) 第5条3の規定の適用に当たり、形成される基金の額は、(a)の規定に基づいて履行されたものとみなされた責任に相当する額を減じたものとする。

 第12条の3 最終規定
 1969年責任条約を改正する1992年の議定書第12条から第18条までの規定をこの条約の最終規定とする。この条約において「締約国」というときは、同議定書の締約国をいうものとする。

第10条 1969年責任条約附属書に示す証明書の様式をこの議定書の附属書に示す様式に改める。

第11条 
1 1969年責任条約及びこの議定書は、この議定書の締約国の間において、単一の文書として一括して読まれ、かつ、解釈されるものとする。
2 この議定書によって改正された1969年責任条約第1条から第12条の3までの規定(証明書の様式を含む。)は、1992年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(1992年責任条約)と称するものとする。

(最終規定・附属書略)