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*コメントが多いので、今後は年度ごとにウェブページを設けることにします。
〔試験問題〕〔合格発表〕〔出題趣旨〕〔採点実感〕〔弁護士の地位〕
■試験問題
退職2年目の司法試験が実施されました。法科大学院が創設され、(新)司法試験が開始した当初は、司法試験の実施がメディアで大きく報道されていましたが、いつの頃からか、もはや一般向けに報道されることはなくなりました。考えてみれば、他にも国家試験は多数あり、士業に関するものだけでも、公認会計士・司法書士・弁理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・土地家屋調査士の試験があるわけですから、受験者にとっては、一世一代のことであっても、ことさら司法試験だけを報道する必要はないでしょう。ついでに、大学入試の報道もやめてしまえばよいと思います。
このサイトでは、国際関係法(私法系)のみを取り上げますが、2022年以降の長文化の傾向は若干緩和され、第1問(財産法)は1頁強、第2問(家族法)は2頁となっています。全体の内容としては、基本的知識を確認するものがある一方で、応用能力を求めるものがあり、これは、致し方ないところでしょう。なぜなら、ハンディな教科書に書いてあることで足りるのであれば、弁護士も裁判所も不要となってしまうからです。ただし、受験者が幅広い勉強をしているのかといえば、それとは程遠い現実があり、2023年度と同様に、とんでもない下駄をはかせるしかないのだろうと危惧します。
第1問(財産法)は、まず裁判管轄と準拠法を問うものであり(設問1小問1)、一見したところ、楽勝と思われるかもしれませんが、問題文を注意深く読むことが求められています。同様のことは、小問2にも当てはまります。設問2は、仲裁合意の準拠法を問うものであり、最高裁判例のケースを若干アレンジしていること、訴え却下という結論がすでに示されていることがミソでしょう。
第2問(家族法)は、まず養子縁組あっせんや特別養子適格の確認の申立てというように、ハンディな国際私法の教科書では書かれていない言葉が並び、不勉強な受験者は惑わされるかもしれません。設問1の小問1~3は、いずれも養子縁組の成立要件を問うものですが、隠れた反致・試験養育・実子の同意という難問が並んでおり、受験者を困らせるでしょう。設問2では、録画遺言や遺留分侵害額請求という一見したところ受験者を驚かせる内容ですが、冷静に読めば、基本を問うものであることが分かります。ちなみに、録画遺言は、欧米で盛んに議論されており、一部の国はこれを取り入れています。韓国でも、録音遺言が有効とされています。
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■合格発表
在学中受験が昨年から始まり、今年の合格発表は11月6日(水)でした。
まず、新聞報道を見ると、
司法試験、最年少は17歳 合格1592人で政府目標上回る(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE055560V01C24A1000000/
という好意的報道がある一方で、
司法試験に17歳が合格、18年間で最年少…合格者全体は1592人で前年より189人減(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20241106-OYT1T50189/
という辛口の論評もあります。
17歳が合格したのは、予備試験のお蔭であり、これでますます早く合格した者が優秀であるかのような風潮が広まることになります。
弁護士ドットコムは、法科大学院別の合格者数を掲載していますが、見出しは、
2024年の司法試験 合格者は1592人 最年少は17歳、最年長は70歳
https://www.bengo4.com/c_18/n_18112/
ということで、こちらは、最年長も挙げています。ただし、70歳で合格しても、裁判官・検察官はもとより、おそらく弁護士として雇ってもらったり、一人で開業することは不可能と想像できるので、趣味の域を出ないと思われます。
中大ローは、合格率45.86%と大躍進を遂げ、曙橋から駿河台(御茶ノ水)に移転した成果があったかのように思いますが、法務省の資料によれば、
https://www.moj.go.jp/content/001427119.pdf
在学中受験の合格率が 64.20%、修了者の合格率が 31.00%であり、要領の良い者が合格していることが分かります。
採点結果全体を見ても、
https://www.moj.go.jp/content/001427118.pdf
修了者の合格者数が昨年の半分近くに減り、今年は在学中受験の合格者数が上回り、予備試験の合格者数も昨年より100人以上増えています。予備試験は、経済的理由から法科大学院に入学できない者を救済するはずでしたが、私が現役の頃から、法科大学院生の大部分が予備試験を受けており、合格したら、法科大学院を中途退学します。つまり司法試験合格の「早道」だというわけです。
司法制度改革の当初の理念は、高度な法曹養成だったはずですが、「やぶ医者」ならぬ「やぶ弁護士」が広まってしまうのではないかと心配します。一般の方は、弁護士という肩書に騙されず、ご注意ください。
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■出題趣旨
司法試験の論文式試験の出題趣旨が公表されました。
https://www.moj.go.jp/content/001427191.pdf
しかし、この出題趣旨には、多くの疑問点があるので、以下にそれらを指摘します。
第1問の〔小問1〕〔設問1〕のうち、国際裁判管轄については、問題文を丁寧に踏まえて、これが否定されることを淡々と書くことになるのでしょう。ところが、出題趣旨は、「営業所所在地管轄が日本の裁判所に認められるとの結論になったとしても」、民訴法3条の9を取り上げるべきであるとします。これは、受験生を惑わすことになるでしょう。まず普通に解釈すれば、そのような結論にはならないと思います。むしろ民訴法3条の2や3条の3の関連条文を丁寧に問題文に当てはめるほうが重要であり、それに加えて、片手間のように、民訴法3条の9にも言及すべきであるかのようにいうのは、軽率といわざるを得ません。
契約準拠法については、通則法8条2項の特徴的給付の解釈いかんによって、日本法と甲国法のいずれが最密接関係地法と推定されるのかは、見解が分かれるところですが、いずれの場合も、最終的に最密接関係地法と認定する理由を示す必要があります。ところが、出題趣旨は、日本法が最密接関係地法と推定される場合にのみ、それを覆す要素を書くべきであるという誤解を招きかねません。
〔小問2〕は、わざわざ甲国民訴法の出訴期間の規定を引用しているにもかかわらず、出題趣旨は、直ちに消滅時効の法性決定の問題とし、かつ債権準拠法説を「通説」と断言しています。しかも通説と異なる立場をとる場合に限り、「特に説得的な理由を示すことが必要」とするので、逆にいえば、通説の立場をとれば、それを「通説」と書くだけで足りるかのような誤解を招きかねません。これでは、受験者に対し、「通説」を覚えるよう誘導している点で問題です。また、通則法42条の公序違反とはならないであろうとしますが、そうであれば、「公序違反を検討することを要しない」と明記しておくべきです。
〔設問2〕について、出題趣旨は、最判平成9年9月4日に依拠するが、本判決は、平成15年の仲裁法制定以前の判例であり、仲裁合意を「仲裁契約」というなど、基本的な認識が現行の仲裁法とは全く異なります(奥田・国際財産法〔第2版〕392頁以下)。ところが、出題趣旨は、この誤った認識を出発点としています。また問題文は、本判決と異なり、仲裁地法ではなく、主契約の準拠法と同一の法によるという立場で作成され、出題趣旨は、両方あり得るとしながらも、後者への誘導を画策しているようにも読めます。
第2問の〔設問1〕〔小問1〕は、通則法31条1項および41条の両方の解釈を問うものです。しかし、それは欲張りすぎです。まず出題趣旨は、AC間・BC間それぞれに通則法31条1項を当てはめるのが「通説」であるとしますが、通説であるというだけで済む話ではなく、理由づけは丁寧に行う必要があります。それにもかかわらず、結論だけか、あるいはそれが通説であるというだけで足りるだけのような誤解を招きかねません。一方で、隠れた反致の成否については、「説得的な根拠を示して論じる」ことが求められるとしますが、そうであれば、これらを2問に分けるべきであったと思われます。
〔小問2〕の(1)については、出題趣旨は、「民法第817条の8の要件を満たす必要があり、甲国法②の要件はこれと実質的に同等であることを具体的に示して、同条の要件の履践により満たせばよい」としますが、本問は、養子縁組制度に対する深い理解が求められ、日本の民法と甲国法が実質的に同等であることを示すのは、通常の受験生にとって困難です。ましてや同条の要件の履践により満たすという表現は、具体的に何を指しているのか不明であり、出題趣旨は、あたかも建前を形式的に書けば足りるという誤解を招きかねません。むしろ実体と手続の区別について論じることのほうが重要でしょう。
〔小問2〕の(2)は、通則法31条1項ただし書の同意要件を問うものですが、出題趣旨は、養親の10歳以上の嫡出子を「第三者」に含めることができるか否かについて、肯定・否定両方の可能性があるとしながらも、肯定説に立った場合には、公序違反の可能性も論じる必要があるとします。これを読んだ受験生は、否定説で書いたほうが楽だと思うでしょう。また公序違反の可能性は、実質法に関する深い知識を要し(本件と同様のフィリピン法について、奥田・国際家族法〔第2版〕281頁)、片手間で書けるものではありません。「公序違反について論じる必要はない」などの注意書きが求められます。あるいは、裁判所が肯定説に立つことを前提として、公序違反だけを問うことも考えられます。
〔設問2〕は、〔小問1〕および〔小問2〕とも相続・遺言の基本を確認するものであり、それ自体に問題はありません。ただし、ここで事実関係を長々と説明するのは、受験生にとって時間不足を招きかねません。また問題文は、「各小問において反致は成立しない」と明記しているのですから、答案で再びそれを繰り返す必要はないと思われますが、出題趣旨では、「反致は成立しないので、甲国法が適用されるとの結論を示さなければならない」と書かれており、受験生を惑わすことになるでしょう。
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■採点実感
司法試験の論文式試験の採点実感が公表されました。
https://www.moj.go.jp/content/001427191.pdf
しかし、国際関係法(私法系)の採点実感には、違和感を覚えた人が少なくないでしょう。昨年までの採点実感は、受験者がどのような答案を書いて、試験委員がそれをどのように評価したのかを書くものでしたが、今年は、ほとんど出題趣旨の繰り返しであり、受験者が今後どのような勉強をすべきであるのかさえ書かれていません。
憶測の域を出ませんが、受験者の書いた答案があまりに酷くて、評価に値しないこと、しかし、それを採点結果に反映させたら、足切り点に届かない者が続出し、来年以降は、受験者が国際関係法(私法系)を敬遠するおそれがあること、このような配慮が働いた疑いがあります。
出題趣旨に対する疑問は、採点実感にもほぼ当てはまるので、それを繰り返す意味は、あまりないでしょう。あえて付け加えれば、「この点、」という表現が2か所ほど出てきますが、それに対する疑問は、〔生活情報〕の「言葉」という項目において、リンクを貼ったところです。溜池良夫『国際私法講義』にもよく出てますが、あまり感心しません。
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■弁護士の地位 新着
以上のとおり、現在の司法試験は、実務法曹の質の低下を招く危険を孕んでいますが、それを象徴するような事件が2025年2月13日の朝日新聞で報道されています。
https://www.asahi.com/articles/AST2F2JDYT2FUTIL017M.html
記事の全体は、北大や中大のDBによって閲覧可能であり、判決文も、あるいは裁判所のサイトに掲載されるかもしれませんが、それに時間と労力を割く余裕は、私にはありません。ただ上記のサイトが紹介する事実関係によれば、2014年に西村あさひ法律事務所に採用された弁護士が、毎年、契約を更新したところ、2022年に更新しない旨の通知を受け、翌年に別の法律事務所に入ったとのことです。
西村あさひといえば、四大法律事務所のひとつであり、そこに所属していた弁護士がこのような裁判を起こすこと自体がショッキングです。周知のとおり、法律事務所に所属する弁護士は、アソシエイトであっても、独立性が高く、個人事業主とされています。企業の法務部などに所属するインハウス・ロイヤーであれば、労働者としての保護を求めることは理解できますが、かつて西村あさひに所属していた弁護士がその違いを理解していないはずはありません。どういう事情があったのか、今後、控訴や上告といった手段に訴えるのか、法科大学院に勤めていた者にとっては、気になるところです。
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