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フィリピン家族法の逐条解説

奥田安弘〔著〕


出版社:明石書店
ISBN:978-4-7503-5221-3
判型・ページ数:A5・368ページ
出版年月日:2021年6月30日


はしがき

 フィリピンでは、家族法は、極めて重要な地位を占めている。現にコラソン・アキノ大統領は、その就任直後に制定した1987年憲法において、第15章「家族」を設けるなど、家族について詳しく規定するだけでなく、民法から家族法を切り離し、独立の法律として「フィリピン家族法」を制定した。旧宗主国のスペインや米国の影響を受けたとはいえ、独自の家族観を反映し、今なお離婚禁止を原則とするのは、世界でも稀である。本書は、そのようなフィリピン家族法の主な条文233か条を逐条的に解説するものである。
 本書の逐条解説は、現地の専門書および200件以上の最高裁判例にもとづく。さらに各章の冒頭には、「比較法の視点」という項目を設け、主に日本法との比較を試みた。また日本の裁判において、フィリピン家族法がどのように適用されるのかを明らかにするため、「国際私法の視点」という項目を設けた。フィリピン独自の家族観に戸惑っているのは、国際結婚をした日本人当事者だけではないであろう。そのような独自の家族観を反映した家族法を通して、多くの人にフィリピン社会を理解して頂きたいと考え、本書を執筆した。
 かつて筆者は、社会学を専門とする高畑幸さん(現・静岡県立大学教授)に一部の作業を分担してもらい、J・N・ノリエド著『フィリピン家族法』2000年版の抄訳を2002年に出版し、2007年には、同じく2000年版を底本としながらも、訳文を全面的に見直した第2版を出版した。その後、原書の2009年版を入手したので、訳書の第3版を企画したが、すでに原著者が亡くなっており、高畑教授や小林洋幸さん(明石書店編集部、故人)にご尽力頂きながらも、相続人と連絡をとって、出版の許諾を得るには至らなかった。
 当時は、フィリピンにおいて、どのような本が出版されているのかさえ、情報が十分に入ってこなかったが、今では、現地の出版社がウェブサイトに新刊書を掲載している。またフィリピンの判例についても、かつては東京大学の外国法文献センター(現在は、法学部研究室図書室の外国法令判例資料室)の地下書庫に眠る判例集を利用するしかなかったが、今は複数の検索サイトがあり、キーワードでの検索が可能なものもある。そこで、訳書の二倍以上の条文を取り上げ、現地の専門書とは異なる独自のスタイルで、逐条解説を書き下ろすことにした。
 本書の編集作業は、いつものように遠藤隆郎さんに担当して頂き、筆者の細かな注文に応えて頂いた。この場を借りて、厚く御礼申し上げたい。

2021年2月
奥田安弘


目次(抄)

凡例
略語表

序章
 フィリピン家族法の歴史 全体の概観

第1章 婚姻
前注 比較法の視点 国際私法の視点
第1節 婚姻の要件
第2節 許可証の要件が免除された婚姻
第3節 婚姻の無効および取消し

第2章 法的別居
前注 比較法の視点 国際私法の視点

第3章 夫婦間の権利義務
前注 比較法の視点 国際私法の視点

第4章 夫婦の財産関係
前注 比較法の視点 国際私法の視点
第1節 通則
第2節 婚姻贈与
第3節 完全共同体制
第1款 通則
第2款 共同体の財産の構成
第3款 完全共同体の負担および債務
第4款 共同体の財産の所有、管理、利用および処分
第5款 完全共同体制の解消
 第6款 完全共同体の資産および債務の清算
第4節 婚姻所得共同体
 第1款 通則
 第2款 各配偶者の特有財産
 第3款 婚姻共同体の財産
 第4款 婚姻共同体の負担および債務
 第5款 婚姻共同体の財産の管理
 第6款 婚姻共同体の解消
 第7款 婚姻共同体の資産および債務の清算
第5節 婚姻中における夫婦間の財産の分離および配偶者の一方による共同体財産の管理
第6節 別産制
第7節 内縁関係の財産制

第5章 家族
前注 比較法の視点 国際私法の視点
第1節 制度としての家族
第2節 家族のホーム

第6章 親子関係
前注 比較法の視点 国際私法の視点
第1節 嫡出子
第2節 親子関係の証明
第3節 非嫡出子
第4節 準正子

第7章 養子縁組
前注 比較法の視点 国際私法の視点

第8章 扶養
前注 比較法の視点 国際私法の視点

第9章 親権
前注 比較法の視点 国際私法の視点
第1節 通則
第2節 代行親権および特別親権
第3節 子の人身に対する親権の効力
第4節 子の財産に対する親権の効力
第5節 親権の停止または終了

判例索引
事項索引