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中東欧地域における私法の根源と近年の変革

奥田安弘 マルティン・シャウアー 編
奥田安弘 訳
中央大学出版部
2014年11月15日 初版第1刷発行
A5判 204頁
定価:本体 2,400円(税別)
ISBN 978-4-8057-0371-7

Geschichtliche Wurzeln und Reformen in mittel- und osteuropäischen Privatrechtsordnungen

Herausgeber: Yasuhiro Okuda / Martin Schauer
ISBN: 978-3-214-01170-3
Verlag: MANZ'sche Wien
Format: Flexibler Einband X, 144 Seiten, 2014


訳者はしがき

 本書は、Yasuhiro Okuda/Martin Schauer (Hrsg.), Geschichtliche Wurzeln und Reformen in mittel- und osteuropäischen Privatrechtsordnungen, MANZ'sche Wien, 2014 を翻訳したものである。
 わが国では、英米独仏といった主要国の法については、多数の研究書および翻訳書が出版されているが、中東欧諸国の法の研究は、相対的に少ない。西欧法の伝統を受け継ぎ、大部分の国は、社会主義法の歴史があるが、ソ連邦崩壊後は、再び西欧法に回帰し、特に最近は、EU加盟を済ませたり、将来の加盟に向けて、ますます西欧法に近くなったという印象があるかもしれない。しかし、それは、日本法が欧米諸国の法と同じであるという位に間違った印象である。
 中東欧諸国の法は、もともと独自の文化を有しており、一時期は、社会主義法圏に編入されたが、その間も、独自の文化を完全に捨て去ったわけではない。現在は、EU加盟のためにEU法の受容が進められているが、それと同時に法体系全体のバランスや伝統的な法文化との関係について、それぞれの国が独自の工夫をこらしている。これらの事実を紹介することは、わが国の法学研究への貢献および中東欧諸国との学術交流にとって、大きな意義があると思われる。
 本書は、もともと翻訳書の計画が先にあったが、すべての原文が公表されているわけではなかったので、シャウアー教授の尽力により、ウィーンのマンツ社に出版を引き受けてもらった。奥田は、本来の専門が国際私法であるうえ、テーマからみても、編者に相応しくないと考えたが、本書の発案者であり、かつ原稿の依頼や点検などの作業に従事したので、編者の一人として名前を出すことにした。その他の経緯については、「原著編者はしがき」を参照して頂きたい。
 なお、翻訳にあたっては、原文のスタイルが筆者によって多様であることを考慮し、訳文のスタイルや訳語の選定について、臨機応変に対応したことをご了承頂きたい。また文献の引用において、英独仏の原語は、そのまま残したが、その他の言語については、書名(論文タイトル)の日本語訳を付した。
 最後に、本書の編集作業については、小島啓二さんおよび関口夏絵さんのお世話になった。ここに記して、御礼申し上げたい。

2014年7月

奥 田 安 弘


原著編者はしがき

 中東欧は、正確に定義できる概念ではない。本書は、北欧および西欧を除く幾つかの国の法を対象とする。これらの国々の一部は、アジアと境界を接するが、すべて欧州評議会の構成国である。一部は、すでに欧州連合の構成国にもなっているし、他の国も、遅かれ早かれそうなる可能性がある。
 法律的な観点から見れば、これらの国々には、共通点がある。ハンガリーおよびクロアチアは、まずオーストリア一般民法典の強い影響を受け、その後は社会主義法圏に属したという過去がある。後者の点は、ブルガリアおよびグルジアにも当てはまる。すべての国は、どの程度に法を欧州化すべきであるのか、どの程度に自国の伝統的な法を維持すべきであるのか、どの程度に民法の法典化を進めるべきであるのか、どの程度に現代的な問題を様々な特別法によって解決すべきであるのか、という課題に直面している。ハンガリー、クロアチア、オーストリアの著者は、これらの課題を包括的に論じている。グルジア、トルコ、ブルガリアの著者は、どちらかといえば別の側面、すなわち、19世紀以前の法史、スイス民法の継受、非占有担保権の比較法的考察に特化している。さらに、日本の著者は、日本における東欧法研究を概観する。すべての論文は、主に私法を取り上げるが、必要に応じて、他の法分野にも言及している。
 本書のきっかけは、編者の奥田安弘がハンブルクのマックス・プランク外国私法国際私法研究所に客員として滞在していた頃に、これらの欧州の著者たちと知り合ったことにある。奥田は、同僚の伊藤知義教授と一緒に、ヴェーカーシュ教授、ヨシポヴィッチ教授、シャウアー教授、ツェルツヴァーゼ教授の東京講演を企画した。この講演会の原稿が、本書に収録された原稿の元になっている。バイサル教授およびコザロヴァ氏は、後から本書の企画に加わった。さらに本書は、日本と関係の深い企画であったので、伊藤教授の推薦により、奥田が渋谷教授に原稿を依頼した。編者両名は、これらの著者全員に対し、素晴らしい原稿の御礼を申し上げるとともに、ウィーン大学のセバスティアン・ライター助手に対しては、綿密な編集作業の手伝い、また出版社のマンツに対しては、本書の出版を引き受けて頂いたことに厚く御礼申し上げたい。

2014年3月 東京 ウィーン

奥 田 安 弘
マルティン・シャウアー


目次

訳者はしがき
原著編者はしがき
編著者紹介

ラヨシュ・ヴェーカーシュ
遅れてきた私法法典化―新しいハンガリー民法典―
Lajos Vekas
Erfahrungen mit einer verspateten Privatrechtskodifikation: das neue ungarische Zivilgesetzbuch

マルティン・シャウアー
オーストリア一般民法典200年―古い立法との共生―
Martin Schauer
200 Jahre ABGB ? vom Leben mit einer alten Kodifikation

タチアナ・ヨシポヴィッチ
EU法の諸原則と国内私法の発展―2013年7月1日に28番目の加盟国となったクロアチア―
Tatjana Josipovi?
Grundsatze des Europarechts und Entwicklung des nationalen Privatrechts: Erfahrungen
von Kroatien als dem 28. Mitgliedstaat seit 1.7.2013

ギオルギ・ツェルツヴァーゼ
19世紀以前のグルジア法の歴史
Giorgi Tsertsvadze
Geschichte des Georgischen Rechts bis zum XIX. Jahrhundert

バシャク・バイサル
1926年以降のトルコの近代化における西欧法の継受―特にスイス民法典の継受―
Ba?ak Baysal
Die Rezeption des westlichen Rechts im Allgemeinen und des schweizerischen ZGB
im Besonderen im Modernisierungsprozess der Turkei nach 1926

ゲルガーナ・コザロヴァ
ブルガリア法における非占有担保権―担保権取引に関するモデル法および他の東欧EU加盟国法
を参考とした体制転換国の動産担保権の形成
Gergana Kozarova
Besitzlose Pfandrechte im bulgarischen Recht ? Neugestaltung des Mobiliarsicherungsrechtes
eines Transformationslands unter der Berucksichtigung des Modelgesetzes fur Sicherungsgeschafte
und der entsprechenden Regelungen anderer osteuropaischen EU-Lander

渋谷謙次郎
日本における東欧法研究
Kenjiro Shibuya
Die japanische Forschung zum Recht in Osteuropa


編著者紹介

編者(姓のアルファベット順)

奥田安弘(中央大学教授)
Dr. Yasuhiro Okuda, Universitatsprofessor an der Universitat Chuo, Tokyo

マルティン・シャウアー(ウィーン大学教授)
Dr. Martin Schauer, Universitatsprofessor an der Universitat Wien

著者(姓のアルファベット順、編者を除く)

バシャク・バイサル(イスタンブール大学教授)
Dr. Ba?ak Baysal, Associate Professorin an der Universitat Istanbul

タチアナ・ヨシポヴィッチ(ザグレブ大学教授)
Dr. sc. Tatjana Josipovi?, Universitatsprofessorin an der Universitat Zagreb

ゲルガーナ・コザロヴァ(ハンブルク大学法学修士)
Gergana Kozarova, LL.M. (Hamburg), M.E.S.

渋谷謙次郎(神戸大学教授)
Kenjiro Shibuya, Universitatsprofessor an der Universitat Kobe

ギオルギ・ツェルツヴァーゼ(トビリシ国立大学教授)
Dr. Giorgi Tsertsvadze, Associate Professor an der staatlichen Universitat Tiflis

ラヨシュ・ヴェーカーシュ(ブダペスト大学教授)
Dr. Lajos Vekas, Universitatsprofessor an der Universitat Budapest