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グローバル化する戦後補償裁判

奥田安弘・山口二郎 編
信山社、2002年9月
形態 viii, 124p ; 19cm
定価:980円(税別)
ISBN-10: 4797231106
ISBN-13: 978-4797231106


はしがき

 日本とアジア諸国との間に横たわる壁、戦後補償が裁判で争われるようになって久しい。その戦後補償裁判が今、大きな転換点を迎えている。アメリカでの多数の訴訟、その結果としてのドイツの基金設立、日本における劉連仁判決(2000万円の賠償命令)、さまざまな戦後補償立法の提案、国際刑事裁判所の設立、民事賠償への期待など、新しい動きがみられる。
 これに対して、わが国の政治の場では、ナショナリズムの側からの巻き返しが起きている。すなわち、1990年代の前半は、非自民連立の細川政権が誕生し、わが国の首相が初めて先の戦争を「侵略戦争」であったと明言した。続いて、自民・社会連立の村山政権が誕生し、元慰安婦を救済するために、アジア女性基金が設立された。これらの動きも、アジアの人々を納得させるには十分ではなかったが、現在では、保守的な政権が続くようになり、戦後補償や謝罪の要求に対しては、むしろ反発の声が高まっている。それは、昨今の教科書問題や靖国問題などをみれば分かるであろう。
 この状況において、日本の戦争責任は、どのように理解されて、どのような形で果たしていくべきであるのか、その際に、現在も続いている多数の裁判は、どのような役割を果たすことができるのかという問題意識から、昨年10月、「戦後補償裁判の過去・現在・未来」というシンポジウムを開催した。本書は、その報告と討論を記録したものである。
 このシンポジウムは、北海道大学大学院法学研究科に付属する「高等法政教育研究センター」の主催で開催された。同センターは、高度な先端領域での斬新な共同研究や実務・地域社会との連携を図るため、2000年4月から発足したが、そのさまざまな活動のうち、公開シンポジウムは、数多く開催されてきた。戦後補償に関連するものとしては、すでに金子勝・慶応義塾大学教授と高橋哲哉・東京大学助教授を招いて開催したシンポジウムがあり、その記録は、「グローバリゼーョンと戦争責任」(岩波ブックレット)として出版されている。
 今回の「戦後補償裁判の過去・現在・未来」というテーマのシンポジウムと本書は、その続編とも言うべきものである。本書を読んで頂ければ、それが法律学と政治学の融合を目指したものであることがお分かりになるであろう。報告者は、法律の研究者であるが、形式的な法解釈論の枠内にとどまらず、きわめてプラクティカルに戦後補償問題の解決方法を考えた。またコメンテーターは、政治学・歴史学の研究者と弁護士であるが、法的な枠組みを意識しながら、今後の方向性を議論した。本書は、戦後補償問題について、新しい視点と展望を与えるものと自負している。
 最後になったが、シンポジウムの開催にあたり、裏方の仕事を手伝って下さった助手や大学院生の皆さん、センター事務局の田中みどりさん、さらに聴衆としてお越し下さった多数の皆さんに御礼申し上げたい。また本書の出版を快く引き受けて下さった信山社の袖山貴さん、編集を担当して下さった有本司さんにも御礼申し上げたい。

2002年4月
奥田安弘 山口二郎


目次

はしがき

第1章 なぜアメリカで裁判をするのか?
     ―米国における戦後補償裁判―
                  〔ケント・アンダーソン〕

第2章 日本政府の優位は崩せるのか?
     ―日本における戦後補償裁判―
                        〔奥田安弘〕

第3章 将来の戦後補償裁判は大丈夫か?
     ―国際刑事裁判所への提訴の可能性―
                        〔古谷修一〕

第4章 討論
                     司会 〔山口二郎〕