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           家族と国籍

             国際化の安定のなかで

                         奥田安弘 著




出版社:明石書店
ISBN:9784750345444
判型・ページ数:四六判・264ページ
出版年月日:2017/07/20
価格:本体2,500円+税


はしがき

 1980年代後半のバブル経済を背景として、日本を訪れる外国人の数が飛躍的に増大し、日本人との結婚などで定住する外国人の数も増えた。当時生まれた子どもたちが各界で活躍し、家族関係の国際化は、いよいよ安定期を迎えたといえる。
 ところが、この安定期に入って、日本の国籍法の不備が多数見え始めた。現在の国籍法が大きく改正されたのは、昭和59年(1984年)であるが、まさにその頃から家族関係の国際化が進み始めたからである。
 今や国際結婚は珍しくもなく、「単一民族国家」という言葉は、近いうちに死語となるだろう。それにもかかわらず、いまだに「国籍唯一の原則」を掲げ、重国籍を防止せよというのは、時代錯誤とさえ思われる。また、婚外子差別の撤廃が各方面で進み、わが国初の国籍法違憲判決により婚外子の国籍取得の規定が改正されたが、残された課題は多い。さらに、「アンデレ事件」が無国籍児訴訟として話題になったのは、遠い過去のように思われるが、今でも各地の児童養護施設には、国籍の問題を抱える子どもが多数いる。
 本書は、これらの問題を「家族と国籍」という視点から解説するものである。これらの背景にあるのは、家族関係の国際化であり、その進展期から安定期に入って、どのような不都合が日本の国籍法に生じているのかを考えていきたい。
 本書では、まず「国籍の基礎知識」という章を設けた(第1章)。そこでは、通常の解説書のように、国籍法を体系的に記述するのではなく、そもそも国籍とは何かという問題意識に沿って、そこから派生する諸問題を考えてみた。続いて、「重国籍の防止と容認」(第2章)、「国籍法上の婚外子差別の撤廃」(第3章)、「無国籍の防止」(第4章)という三つの問題を取り上げた。これらは、まさに家族関係の国際化に伴って、わが国が直面している課題である。
 私は、1990年代前半から、アンデレ事件など多数の国籍裁判に関わった経験を踏まえ、かつて『家族と国籍――国際化の進むなかで』(有斐閣、1996年初版、2003年補訂版)を出版した。その後、国籍法違憲訴訟に関わり、2008年に最高裁大法廷の違憲判決を得た当時は、改訂など考えもしなかったが、2016年9月以降の国会での重国籍問題の議論、およびそれに関するメディアからの取材に刺激を受けて、明石書店から本書を出版することにした。
 『家族と国籍』という書名を維持しながらも、前著の初版から20年以上、補訂版からも10年以上経っていることを踏まえ、サブタイトルは、「国際化の安定のなかで」と変更した。もちろん内容も、この間に私が公表した著書や論文などを取り入れて、全面的に改訂した。目次だけを見たら、あまり変わらないと思うかもしれないが、内容を読めば、それに気づくだろう。ただし、本書は一般の読者を対象とするから、なるべく平易な言葉で書くという方針は、前著のままである。
 私が学術研究とは別に本書を出版することにしたのは、取材を申し込んでこられた記者の皆さんや、意見書を依頼してこられた弁護士の皆さんとの交流の賜物である。これらの皆さんにはもちろんのこと、本書の出版を引き受けてくださった明石書店、企画を担当してくださった深澤孝之さん、編集を担当してくださった遠藤隆郎さんに対し、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

2017年3月
奥田安弘


目次

はしがき
凡例・略語

第1章 国籍の基礎知識
 第1節 国籍とは何か
  家族関係の国際化/人権としての国籍/個人にとっての国籍/家族にとっての国籍/
  家族法の適用を決定する国籍
 第2節 国籍の決定基準
  血統主義と生地主義/日本人のルーツ/国籍に関する男女平等
 第3節 残された諸問題
  重国籍の防止/婚外子の国籍/父母不明の子どもの国籍
 第4節 国籍と戸籍の関係
  虚偽の届出と国籍/出生未登録の子どもの国籍/残留孤児の国籍
 第5節 国籍をめぐる誤解
  市民権/忠誠義務/血統主義と生地主義の優劣/国籍唯一の原則
 第6節 未承認国(政府)の国籍法の適用
  日台関係の国籍問題/日中国交回復/政府承認と国籍法の適用/中国国籍の取得と喪失/
  法務省の対応/家族法の適用との比較/パレスチナとの比較

第2章 重国籍の防止と容認
 第1節 国籍選択
  重国籍の原因/国籍選択のルーツ/国籍選択の方法/国籍選択の誤解/制度の致命的欠陥/
  韓国の教訓
 第2節 国籍留保
  国籍留保のルーツ/国籍留保の拡大/国籍留保の困難
 第3節 帰化とは何か
  日本に帰化する外国人/法務大臣の許可/普通帰化/簡易帰化・大帰化/国籍確認に代わる
  帰化申請?
 第4節 帰化における重国籍防止条件
  ガントレット事件/王京香事件/重国籍防止条件の緩和/日本人になりきる?
 第5節 外国への帰化と日本国籍の喪失
  ノーベル賞学者は日本人でなかった/外国人と結婚した日本人/日本国籍の喪失を知らなかった
  ケース/国家間協力の欠如/外国国籍の選択
 第6節 重国籍の弊害
  重国籍の国会議員は失格か/戦前の帰化人との比較/外交的保護権の衝突?/
  国際的な重婚の発生?
 第7節 ヨーロッパ諸国の立法

第3章 国籍法上の婚外子差別の撤廃
 第1節 婚外子の国籍
  婚外子差別撤廃の動き/婚外子の国籍取得/婚内子の国籍取得との比較/旧国籍法上の
  認知による国籍取得/昭和59年改正後の父母の婚姻要件
 第2節 国籍法違憲判決
  先行訴訟の存在/提訴の経緯/立法裁量の限界/日本社会との結び付き/社会通念や社会的
  状況の変化/立法動向の変化/違憲の効果
 第3節 国籍法改正
  改正の経緯/父母の婚姻に代わる要件/国籍取得届の手続/受付後の調査
 第4節 残された課題
  胎児認知の重要性/認知届の受付拒否/嫡出推定との抵触/平成10年通達/平成11年通知
 第5節 ヨーロッパ諸国の立法
  国籍の安定化/認知制度と国籍取得の連動

第4章 無国籍の防止
 第1節 アンデレ事件
  無国籍児が生まれる背景/アンデレの出生/国籍確認訴訟の提起
 第2節 「父母がともに知れないとき」
  捨て子(棄児)/その他のケース/アンデレ事件の争点
 第3節 逆転勝訴の最高裁判決
  立証責任の一般的ルール/立証責任の転換/最高裁判決の意義と限界
 第4節 児童養護施設の無国籍児
  父母の状況と国籍認定/児童相談所職員の認識/子どもの処遇
 第5節 ヨーロッパ諸国の立法

付録1 国際結婚をした家族の声
付録2 自由人権協会講演

判例索引
先例索引
事項索引