著作一覧に戻る 国際取引法の理論奥田安弘 著有斐閣 1992年2月25日発行 A5判 352ページ 定価 5,670円(本体 5,400円) ISBN 4-641-04585-2 はしがき 本書は、国際取引法に統一化傾向と分裂化傾向があることを明らかにし、これを理論的に分析しようとするものである。すなわち、国際取引法の法源は、一方において各種の統一法条約の成立により国際的な統一へと向かっているが、他方において独禁法、貿易管理法などのように、国家間の利害が鋭く対立し、国毎に相異なる方向へ進んでいる分野もある。たとえば、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)が作成したウィーン国際売買条約に注目が集まると同時に、アメリカ法の「域外適用」が新聞記事などでも取り上げられるほどになっている。このような現状にある国際取引法の法源がいかなる範囲で適用されるべきかという問題について、国際私法の立場から、理論的説明を試みることが本書のテーマである。 本書は、私がこの十年間に大学紀要および学会誌などに発表した論文をベースとしている。しかし、本書に一貫性を持たせるために、これらの論文を大幅に書き換えるとともに、かなりの書き下ろしを行った。 第一部の第一章から第三章までは、香川法学二巻二号、四巻一号、四巻二号および五巻三号に掲載されたものが部分的にベースとなっているが、ほとんど痕跡を止めないほどに加筆修正するとともに、外国法の紹介の部分を割愛した。第四章および第五章は、それぞれ国際法外交雑誌八六巻五号および北大法学論集四一巻二号に掲載されたものを一部修正した上で、再録した。第二部の第一章および第二章は、それぞれ北大法学論集四一巻五・六合併号および香川法学六巻三号に掲載されたものを一部修正した上で、再録した。第三章は、国際法学会の一九九一年度春季大会の報告原稿を一部修正したものである。本来は、国際法外交雑誌に掲載すべきところを、編集委員会の御了解を得て、本書に収録することにした。第四章および第五章は、完全な書き下ろしであるが、第五章のテーマについては、四国経済法研究会において報告したことがある。付録(条文仮訳)の一および五・六は、それぞれ戸籍時報三七四号から三七九号までに連載したもの、および香川法学六巻三号に掲載したものを一部修正して、再録した。二・三・四・七は、新たに翻訳したものである。 なお、本書の全体にわたり、論文初出以降の状況の変化をなるべくフォローするように努めたが、最新情報の提供が本書の目的でないことを御了解頂きたい。また、国際私法の専門家でない方々にも読んで頂けるように、基礎的事項についても、説明を行うよう心掛けた。巻頭の参考文献・略語表および巻末の索引なども御活用頂きたい。 本書の出版にあたり、まず神戸大学在学中に御指導頂いた二人の先生に改めてお礼申し上げたい。窪田宏先生は、私に研究者としての道を開いて下さると同時に、海商法の研究指導を通じて、研究方法の基礎を築いて下さった。また、本書のテーマである国際取引法の統一化傾向と分裂化傾向は、まさに海商法の領域に端を発しており、その意味で、私の国際海商法の研究は本書の出発点でもあった。西賢先生は、国際私法の研究指導を通じて、学問の厳しさを教えて下さると同時に、多くの実銭的アドバイスも与えて下さった。たとえば、私のドイツ留学は、先生のお勧めによるものである。 次に立教大学の津木敬郎先生は、その著『国際私法入門』を通じて、研究のヒントを与えて下さった。本書のテーマである国際取引法の統一化傾向と分裂化傾向についても、『国際私法入門』に同じ趣旨のことが書かれていたことがヒントになっている。先生御自身が常々、『国際私法入門』は確かに入門書であるが、多数の博士論文のテーマが隠されていると述べられていたところ、たまたま私が興味のおもむくままに執筆してきた論文を一冊にまとめるにあたり、そこから示唆を頂いたことになる。 さらに、私は一九八一年から八二年までドイツ学術交流会(DAAD)の奨学金によりドイツのハンブルクにおいて、また八八年から八九年まで日本学術援興会の特定国派遣研究員としてスイスのローザンヌおよびフリブールにおいて、在外研究の機会を与えられた。この二回の在外研究は、私の研究の進展に欠くことができないものであった。これらの機会を与えて頂いたことにお礼を申し上げたい。 その他にも、本書の出版にあたり、直接・間接にお世話になった北海道大学法学部のスタッフの皆様にお礼申し上げたい。なお、本書の直接出版費の一部として、文部省より平成三年度科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の交付を受けた。 一九九二年一月六日 奥田安弘 目次 はしがき 第1部 統一法条約と国際私法の関係 第1章 国際取引法の統一 1 統一の必要性 2 統一の歴史と方法 (1)援用可能統一規則の歴史 (2)統一法条約の歴史 3 統一法条約の対象分野 (1)法律分野における限定 (2)渉外的法律関係への限定 (3)事項的適用範囲の限定 4 締約国の数と分布 (1)全世界的法統一の困難 (2)条約の抵触 5 場所的適用範囲の限定 6 解釈の不統一 第2章 統一法条約と国際私法総論の関係 1 国際私法の定義 (1)渉外抵触法 (2)渉外実質法 (3)統一法条約 (4)特別抵触規定の構造 2 法律関係の性質決定 (1)問題の概要 (2)事実関係の側からの観点と法規の側からの観点 3 連結点 (1)問題の概要 (2)統一法条約における連結点 4 抵触法上の指定 (1)問題の概要 (2)特別抵触規定における指定の対象 5 準拠法の適用 (1)問題の概要 (2)統一法条約の適用 6 国際私法における公序 (1)問題の概要 (2)統一法条約と公序 第3章 統一法条約と国際私法各論の関係 1 契約債権の準拠法 (1)当事者自治の原則 (2)客観的連結 2 不法行為債権の準拠法 3 海上物品運送条約 (1)1924年の船荷証券条約 (2)1968年のブラッセル改正議定書 (3)1978年の国連海上物品運送条約 4 船主責任制限条約 (1)船主責任制限制度の概要 (2)船主責任制限の準拠法 (3)船主責任制限条約の適用範囲規定 5 国際動産売買条約 (1)ハーグ統一動産売買法条約 (2)ウィーン国際動産売買条約 6 その他の統一法条約 (1)手形・小切手法条約 (2)船舶衝突条約・海難救助条約・国際航空運送条約 第4章 統一法条約の解釈 1 問題の所在 2 ウィーン条約法条約の適用可能性 3 統一法条約における解釈規定 4 統一法条約の解釈に関する内外の判決 (1)フォザギル事件 (2)オック事件 (3)船荷証券条約に関する判例 第5章 統一法条約の国内立法への受容 1 問題の所在 2 スイスおよびドイツの国際私法立法における条約の受容 (1)1987年のスイス国際私法 (2)1986年の改正ドイツ国際私法 3 国際法上の制限 (1)ハーグ国際私法条約 (2)契約債務準拠法条約に関するEC委員会の勧告 (3)EC委員会の勧告に対する反論 (4)EC委員会の勧告後における状況の変化 4 国際私法の立法政策上の問題点 (1)スイス方式の長所・短所 (2)ドイツ方式の長所・短所 5 わが国における統一法条約の受容 第2部 域外適用問題 第1章 域外適用問題のルーツ 1 基本的な概念の相違 2 アメリカ抵触法の古典的学説 3 属地主義のルーツ (1)ホームズ判事の抵触法理論 (2)アメリカン・バナナ事件 4 効果理論のルーツ (1)ハンド判事の抵触法理論 (2)アルコア事件 5 裁判所のジュリスディクション 6 わが国の法概念との比較 第2章 海運同盟に対するアメリカ法の域外適用 1 同盟政策の対立 (1)王立海運同盟調査委員会とアレキサンダー委員会 (2)アメリカの1916年海上運送法 2 海運同盟に関するアメリカの判例 (1)海上運送法制定以前の判例 (2)1916年から59年までの状況 (3)1960年から67年までの判例 (4)1968年以降の判例 3 他国の対抗措置 (1)海上運送の情報交換に関するOECD合意議事録 (2)二重運賃契約の認可基準新設に対する共同抗議 (3)イギリスの1964年海上運送契約・商業文書法 (4)イギリスの1980年通商利益保護法 4 同盟政策の調整 (1)域外適用問題に対する認識の変化 (2)1986年の同盟規制に関するEC理事会規則 (3)アメリカの1984年海上運送法 第3章 過剰管轄問題 1 域外適用問題との共通点 2 EC・EFTAの裁判管轄条約 (1)問題の所在 (2)ブラッセル条約およびルガノ条約における過剰管轄の排除と拡張 (3)域外居住者の不利益除去の可能性 3 過剰管轄に対する擁護論と反対論 (1)直接管轄としての過剰管轄 (2)外国過剰管轄判決の承認執行 4 問題解決への展望 第4章 シベリア・パイプライン事件 1 問題の所在 2 事件の背景 3 オランダ裁判所の判決 4 特別連結論の意義 第5章 ノボ・インダストリー事件 1 事件の概要 2 本件審決および判決の意義 (1)本件審決の意義 (2)本件判決の意義 付録(条文仮訳) 1 1987年のスイス国際私法(抄訳) 2 ECの契約債務準拠法条約の施行に関するデンマーク法 3 ECの契約債務準拠法条約の施行に関するドイツ法 4 1986年の改正ドイツ国際私法とECの契約債務準拠法条約の条文対照表 5 イギリスの1964年海上運送契約・商業文書法 6 イギリスの1980年通商利益保護法 7 EC・EFTAの裁判管轄および判決の執行に関するルガノ条約 索引 |
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