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  国際私法・国籍法・家族法資料集

        ―外国の立法と条約―

              奥田安弘編訳


中央大学出版部
2006年6月20日 初版第1刷発行
A5判340頁
定価3,885円(税5%込)
本体3,700円(税抜き)
ISBN 4-8057-0407-1


編訳者はしがき

 本書は、国際私法・国籍法・家族法の分野における外国の立法および国際条約を翻訳したものである。初出一覧から分かるように、ほとんどは、編者がこの15年の間に、あるいは単独で、あるいは他の研究者と一緒に翻訳してきたものであるが、本書への収録にあたり、全面的に訳語の見直しなどを行った。その特徴としては、英米独仏を中心とするわが国の法律学研究からみて、スイス・イタリア・ロシア・韓国・フィリピンというあまりなじみのない国を対象としている点、およびヨーロッパ国籍条約や扶養料取立条約など、これもあまりポピュラーとはいえない国際条約を取り上げている点を挙げることができる。
 これらの立法や条約を翻訳したのは、次のような理由からである。第1に、編者は、原則として外国の研究者の論文などは翻訳しないが、立法や条約は一次資料であるから、細かな条文のニュアンスを理解するためには、翻訳が必要であると考えている。最近は、国際私法の分野でさえも、外国法研究が質量ともに減少してきたという印象を受けているが、わが国の解釈論および立法論を考える際に、十分な外国法研究なくしては、説得力のある議論を展開することはできないであろう。
 第2に、本書の共訳者である様々な研究者との出会いがある。これらの研究者は、共訳者紹介から分かるように、専門が極めて多様であり、訳文の作成において、その専門知識および語学力をいかんなく発揮して下さった。もちろん、私も、英独仏伊など自分が読解できる言語については、すべての資料に目を通し、またロシア語やハングルのように読めない言語の場合も、共訳者に原文の確認を求め、一緒に辞書を眺めて訳文を検討した。そして、最終的な訳文の作成は、すべて編者が行った。しかし、これらの共訳者の皆さんがいなければ、もちろん本書は出版されなかったのであり、その意味で、これらの仲間を得たことは、編者にとって何物にも代えがたい幸運であった。
 第3に、これらの立法および条約は、すべてわが国の立法にとって重要な参考資料となりうるものである。スイスおよびイタリアの国際私法ならびにヨーロッパ国籍条約については、その重要性は容易に理解されるところであろう。またロシアの二国間条約および国籍法は、ロシア以外の共和国に取り残された残留ロシア人の問題に対応している点で、わが国の在日朝鮮人・台湾人(いわゆるオールド・カマー)の問題解決への示唆を与えてくれる。これに対して、韓国の国籍法は、国籍選択制度など、わが国から影響を受けた面があり、ヨーロッパ国籍条約における重国籍容認の姿勢とは対照的であるが、施行令および施行規則における詳細な帰化手続の規定など、日本の国籍法よりも透明性が高い面も見せている。ドイツの外国扶養請求権法ならびにフィリピンおよび韓国の養子法は、扶養請求の取立てが困難であり、かつ国際養子の規制を全く実施していないわが国の現状に対し、警鐘を鳴らすものといえる。フィリピンの家族法は、わが国におけるフィリピン人との婚姻や養子縁組の増加などから、実務上重要な資料であることは明らかである。
 以上のように、本書は、わが国の学界および実務界に十分寄与しうるものと考える。ただし、周知のように、かような翻訳作業に完璧はあり得ない。原文に忠実すぎれば、日本語として読みづらくなり、あまりに意訳をすれば、原文の意味を損なうおそれがある。本書は、かような二律背反の要請のバランスをとったつもりではあるが、翻訳の限界については、読者の皆さんにご理解をお願いしたい。
 最後になったが、本書の出版を引き受けて下さった日本比較法研究所、および編集作業を担当して下さった中央大学出版部の小川砂織さんに対し、厚く御礼申し上げる。

2006年1月
奥田安弘


目次

編訳者はしがき
初出一覧
凡例

第T章 国際私法
1 スイス連邦国際私法(1987年)
2 イタリア国際私法(1995年)

第U章 国籍法
1 ヨーロッパ国籍条約(1997年)
2 ソ連邦崩壊後の国籍および外人法に関する二国間条約
3 ロシア連邦国籍法(2002年)
4 韓国の国籍法
(1) 国籍法
(2) 施行令
(3) 施行規則

第V章 家族法
1 扶養料の取立て
(1) 1956年の外国における扶養料の取立てに関する国連条約
(2) 国連条約に関するドイツの承認法および通達
(3) 1986年のドイツ外国扶養請求権法
2 フィリピンの家族法
(1) 1987年のフィリピン家族法
(2) 1998年のフィリピン国内養子縁組法
(3) 1995年のフィリピン渉外養子縁組法
3 韓国の養子縁組特例法
(1) 養子縁組特例法
(2) 施行令
(3) 施行規則

編訳者紹介

奥田安弘(全章)
 中央大学法科大学院教授
桑原康行(第T章2)
 成城大学法学部教授
館田晶子(第U章1)
 跡見学園女子大学マネジメント学部助教授
伊藤知義(第U章2・3)
 中央大学法科大学院教授
佐藤守男(第U章2・3)
 北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター研究員
岡克彦(第U章4)
 長崎県立大学経済学部教授
高畑幸(第V章2)
 広島国際学院大学現代社会学部専任講師
崔光日(第V章3)
 尚美学園大学総合政策学部教授