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  国籍法・国際家族法の裁判意見書集

               奥田安弘〔著〕


出版社:中央大学出版部
発行年月:2010年3月
ページ数:383
版型:A5
ISBN:9784805704080
価格:¥5,040(税込)


はしがき

 本書は、この10数年間に裁判所に提出した意見書を編集して、収録したものである。ただし、『国籍法と国際親子法』(2004年、有斐閣)に収録済みの国籍裁判(アンデレちゃん事件、国籍法2条1号違憲訴訟)、および『国際私法と隣接法分野の研究』(2009年、中央大学出版部)に収録した中国戦後補償裁判に関するものは除いた。本書は、その他の裁判のうち、国籍法および国際家族法に関するもので、かつ内容的に重要と思われるものだけを収録した。収録にあたり、事実の概要、判旨、解説を書き加え、さらに意見書も若干の加筆修正を行ったが、基本的には、原文のままである。
 筆者が本書をまとめようと思ったきっかけは、2008年6月4日の最高裁大法廷判決である。まさか国籍法の合憲性を争った訴訟において、勝訴できるとは思っていなかった。しかし、その他の裁判も、それぞれ意義深いものばかりである。本書は、実際に外国人関係の裁判に携わる実務家だけでなく、法律研究者にとっても参考になるであろうし、さらに法律以外の分野(社会学など)の研究者やその他、広く外国人問題に関心を持つ方々の参考になることを願っている。
 注意して頂きたいのは、裁判の意見書が学術論文とは大きく異なることである。本書に収録された意見書を読まれると、「奥田は何と偏った意見の持ち主だ。相手(多くは国)の立場を全く理解していない」と思う人がいるかもしれない。しかし、これは、裁判というものが分かっていない人である。筆者が依頼人の立場で意見書を執筆するのは当然のことである。相手の立場を理解して弁護するのは、相手方の代理人の仕事である。相手の立場に理解を示すような意見書は、自滅を招くだけである。同様に、判決の結論が筆者の意見書と同じであっても、判決理由が異なるのは当然である。その訳は、改めて説明するまでもないであろう。
 裁判を通じて、多くの弁護士とお付き合いをさせて頂いた。そこで感じたのは、とても筆者には務まりそうもない、ということである。外国人関係の裁判は、受任前の相談から、事実関係の調査、依頼人のケアに至るまで、大変なことばかりに思えた。一方、筆者のほうも、文献にほとんど書かれていない論点を含む事件が持ち込まれ、意見書の執筆は難航を極めた。もともとそういう事件しか引き受けるつもりがないのであるから、自業自得とはいえ、本来の研究時間をこれほど犠牲にしてよいのだろうか、と何度も自問した。しかし、このようにお互い犠牲を払いながらも、それぞれに無いものを補い合って、よい協力関係が築き上げられたと思う。
 筆者を信頼して意見書の執筆を依頼して下さった弁護士の方々には、厚く御礼申し上げたい。ただし、お名前は、一部の方だけを挙げるわけにはいかないので、割愛させて頂く。また、本書の編集作業については、関口夏江さんと小川砂織さんのお世話になった。ここに記して、御礼申し上げたい。

2009年10月 奥田安弘


目次

はしがき
凡例・初出一覧


第1章 国籍法3条違憲訴訟
 事実の概要/判旨/解説/意見書1/意見書2/意見書3/意見書4/意見書5/
 意見書6

第2章 胎児認知受付拒否訴訟
 事実の概要/解説/意見書

第3章 例外的生後認知国籍確認訴訟
 事実の概要/判旨/解説/意見書1/意見書2/意見書3/意見書4

第4章 中国残留邦人訴訟(その1)
 事実の概要/判旨/解説/意見書1/意見書2

第5章 中国残留邦人訴訟(その2)
 事実の概要/判旨/解説/意見書1/意見書2

第6章 台湾残留邦人婚姻無効確認事件
 事実の概要/判旨/解説/意見書1/意見書2/意見書3/意見書4

第7章 パキスタン人養子縁組事件
 事実の概要/審判要旨/解説/意見書

第8章 台湾人相続事件
 事実の概要/審判要旨/解説/意見書