著作一覧に戻る



           国際財産法


                         奥田安弘〔著〕

出版社:明石書店
ISBN:9784750347936
判型・ページ数:A5・376ページ
出版年月日:2019/02/20
価格:本体4,600円+税

はしがき

 本書は、渉外的要素のある財産関係の全体について、いずれの国の法を適用すべきであるのかを決定する狭義の国際私法(抵触法)を中心に据え、さらに国際的裁判管轄や外国判決の承認執行などの国際民事手続法を含めた広義の国際私法を考察するものである。わが国では、「国際取引法」や「国際ビジネス法」というようなタイトルの本は、国際私法よりも主に実質法を対象とするので、それらと区別するために、『国際財産法』というタイトルにした。
 本書は、『国際家族法』(明石書店、2015年)と対をなす。そこでも述べたとおり、国際私法のルールは、財産法と家族法とで大きく異なる。そこで、財産法だけを切り取り、現行法の解釈を詳しく論じた新たな体系書を目指すことにした。それによって、海外での交通事故から国際ビジネスに至るまでのあらゆるケースにおいて、まず考えるべき問題を提示するものである。
 本書の内容は、かつて中央大学法科大学院の授業で配布した教材をベースにしたが、法科大学院とはいえ、学部で国際私法を受講したことのない者が大部分であるため、教材は、自ずと限定的な内容にせざるを得なかった。本書では、研究者としての立場から、さらに多くの論点を取り上げ、かつ議論を深めるように努めた。
 その際に、拙著『国際私法と隣接法分野の研究』(中央大学出版部、2009年)、『国際取引法の理論』(有斐閣、1992年)などの研究書の内容も多く取り入れた。むろんその後の研究を経て、説を改めた箇所も少なくない。主要なものは、その旨を明記するよう努めたが、煩雑さを避けるために、あえて網羅しなかったことをご了承頂きたい。
 国際財産法というひとつのまとまった分野を一人で執筆するにあたり感じた限界も、『国際家族法』と同様である。
 第1に、国際私法に関する判例や学説は、相当な量にふくれあがり、しかもその内容は百花繚乱である。今や通説、多数説、有力説、少数説などの分類は不可能な程である。したがって、これらを網羅的に取り上げることは断念し、取り上げるべき資料を厳選した。
 第2に、わが国では、とくに欧米諸国の立法・判例・学説を参照して、立法論を展開することが多いが、これらの情報も膨大な量にふくれあがっており、網羅的に調査するには、有能な研究者を多数動員する必要がある。そこで本書では、必要に応じて、外国の立法動向も紹介するが、全体としては、わが国の現行法の解釈に重点を置くことにした。
 第3に、国際財産法といっても、それ自体が厳密に定義できるものではない。その意味では、本書は、狭義の国際私法(抵触法)や国際民事手続法の各分野から、財産法の部分を切り取ったにすぎない。それぞれの分野の基本概念は明らかにしたつもりであるが、国際私法の全体像を理解するためには、『国際家族法』も参照して頂きたい。
 最後になったが、本書の執筆にあたり、民事訴訟法を専門とする同僚の佐藤鉄男教授に大部分の原稿を読んで頂き、有益なご教示を頂いた。また山口修司弁護士には、運送法に関する部分を読んで頂き、実務家の立場からご意見を頂いた。むろん文責は、私ひとりにある。さらに明石書店には、本書のような法律専門書の出版を引き受けて頂き、編集作業については、遠藤隆郎さんに担当して頂いた。この場を借りて、お世話になった皆様に厚く御礼申し上げたい。

2018年10月
奥田安弘

*本書は、2018年9月末までの施行法令にもとづく。ただし、民法などについては、平成29年法律第44号による改正後の条文により、商法などについては、平成30年法律第29号による改正後の条文による。略語表4「日本の法令」参照。

目 次

はしがき
略語表

序章 概説
1 渉外的財産関係を規律する法 2 狭義の国際私法 3 国際私法の法源 4 国際私法規定の構造
5 例外条項 6 連結政策 7 補則との関係 8 手続法上の問題 9 国際私法上の公序
10 強行的適用法規の特別連結 11 実質法統一条約の適用

第1章 契約
1 単位法律関係 2 当事者自治 3 客観的連結 4 準拠法の変更 5 方式 6 消費者契約の特例
7 労働契約の特例 8 実質法統一条約 9 代理

第2章 法定債権
1 単位法律関係 2 一般不法行為 3 生産物責任の特例 4 名誉・信用毀損の特例
5 特別例外条項 6 準拠法の変更 7 特別留保条項 8 事務管理・不当利得 9 実質法統一条約

第3章 債権債務関係
1 対象範囲 2 相殺 3 債権者代位権・取消権 4 債権の移転 5 外国金銭債権
6 損害賠償額の算定

第4章 物権
1 単位法律関係 2 有体物に関する物権 3 無体物に関する物権 4 物権的法律行為の方式

第5章 知的財産権
1 単位法律関係 2 保護国法主義 3 職務発明に伴う権利 4 著作権の原始的帰属

第6章 法人
1 抵触法と外国人法 2 法人の従属法 3 法人格の否認 4 認許・監督・権利享有
5 擬似外国会社 6 法人格のない団体

第7章 国際的裁判管轄
1 用語および概念 2 被告の住所地管轄等 3 事件類型ごとの管轄 4 弱者保護 5 合意管轄
6 応訴管轄 7 併合管轄等 8 専属管轄 9 特別の事情による訴えの却下 10 その他の共通問題
11 民事保全事件の管轄 12 その他の法源

第8章 外国判決の承認執行
1 承認執行の意義 2 承認要件 3 執行要件 4 訴訟競合と判決競合 5 その他の法源

第9章 仲裁・倒産
1 仲裁 2 倒産 3 その他の責任制限手続

判例索引
事項索引