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   退職に関するメモ


退職挨拶〕〔後任の紹介〕〔交渉力の差〕〔手続完了のご報告〕〔反省と不満


退職挨拶(2023年3月15日)

小林先生、私の経歴をご紹介頂き、有難うございます。また、花束やフェロー称号記を頂戴し、有難うございます。マスクなしで顔出しをしたかったので、オンラインで失礼いたします。今日夕方の懇親会も、諸般の事情により、欠席させて頂きます。

私は、法科大学院発足時に、ちょうど50歳で北海道大学から移籍したので、本来の定年は、来年の3月末ですが、昨年3月の教授会でご紹介頂いた様々な理由から、1年早く「みなし定年」ということで退職させて頂くことにしました。それでも、北大は15年であり、中大は19年ですから、北大よりも長く在籍させて頂きました。

前半の10年間は、色々楽しい経験をさせて頂きました。その頃のゼミ生を中心として、今でも連絡を取り合う修了生が10名近くいて、講義やゼミは、本当に充実していました。東京の弁護士の方々との交流も多く、国籍裁判などの個人の事件だけでなく、国際取引についても、裁判所に意見書を提出する機会をたくさん頂きました。国籍裁判では、3回最高裁で勝訴し、うち2回は逆転勝訴であり、うち1回は、違憲無効判決を得たことは、忘れ難い思い出となっています。また海外の研究者との交流も深まり、ドイツ・スイス・フランスの雑誌に論文を書くようになったのも、この頃です。

後半は、体調を崩すことが多く、苦しい9年間でしたが、『国際家族法』や『国際財産法』といった体系を俯瞰する本を出版することができたのは、何よりも十分な研究時間を与えて頂いたお蔭です。本の出版という面では、比較法研究所から、研究叢書として論文集が2冊、翻訳叢書が1冊、資料叢書として、裁判意見書集や外国の立法・条約の資料集を出版し、他では得難いチャンスを与えて頂きました。

ただ残念であるのは、カリキュラム改正により、学生がゼミを履修する余裕がなくなったことです。また期末試験でも、学生が全く答案構成をしなくなり、当事者の関係図や時系列図を書かずに、いきなり答案を書くものですから、事実関係を完全に読み違えて、そのために低い評価をつけるありませんでした。これでは、在学中受験どころではありません。留年が多い現状を見るにつけ、そのような感想を抱くことになったのは、残念なことです。

最後になりましたが、本学の皆様には大変お世話になり、有難うございました。大学行政の面では、全くお役に立つことができませんでしたが、退職後も研究を続け、本や論文を公表し続けたいと考えておりますので、引き続きご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。以上をもって、私の退職の挨拶とさせて頂きます。

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後任の紹介(2023年4月1日)

私の後任の中林啓一教授が無事着任しましたので、ご紹介いたします。

中林教授は、私よりちょうど20歳年下であり、立命館大学法学部を卒業後、同大学院に進学されました。就職は、若干遅く、2002年から1年だけ同大学助手を務めましたが、2005年から今年3月までの広島修道大学が本務校でした。同大学では、法学部の授業だけでなく、かつて法科大学院があった頃は、その授業も担当し、同大学の法科大学院が廃止になった後も、広島大学の法科大学院の授業を担当していたので、国際私法の教育歴5年以上という要件は十分に満たしています。

研究面では、仲裁法の分野に偏っている傾向がありますが、「ユニドロワ国際商事契約原則と国際私法」(2004年)や「シンガポール調停条約と国際私法」(2021年)などもあります。ただ中央大学法科大学院において、国際私法Ⅰ(財産法)および国際私法Ⅱ(家族法)の両方を担当する以上は、財産法の研究分野をもっと広げること、家族法分野の論文も書くことが望ましいと考えております。

2021年秋に後任候補とすることを打診した当時と比べ、法科大学院では、文科省の大学自治への介入が一段と厳しくなり、学部からの早期入学(いわゆる2+3)や法科大学院在学中の受験が始まりました。入学者の減少、カリキュラムの改悪、留年率の上昇→修了生の減少など、教育面では、私が中林教授に話した状況とは大きく異なってしまったので、若干心苦しく感じています。

ただ研究時間だけは、前任校と比べれば、大幅に増えるはずですから、上記の研究分野の拡大を実現してくれるものと期待しています。中林教授は、当面は飛行機で毎週授業などに通い、生活の本拠は、まだ広島に残ったままとなりますが、いずれ東京(またはその近辺)に引っ越してもらえることも期待しています。縁起の悪い話ですが、私の身に何かあった際は、国際私法学会、比較法アカデミー、独日法律家協会、そしてサイトの更新案内の宛先の方々に連絡をしてもらう役割も託しております。

皆様の温かいご支援を祈念して、中林教授の紹介とさせて頂きます。

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交渉力の差(2023年5月3日)

退職後1か月が過ぎて、最近思うのは、実社会で生きていくためには、どんな仕事であれ、「交渉力」が重要だということです。世間では、「粘り」とも言います。

実際のところ、私が最高裁で3回勝訴し、1件では、違憲無効判決が得られたのも、私に意見書を依頼してこられた弁護士の方々の粘りがあったからだと思います。他の裁判も含め、最初に依頼があった時は、私の方が「そんな裁判は無理だ」と尻込みすることのほうが多かったように思います。もちろん、そのとおりに敗訴することもありましたが、予想に反して、勝訴する喜びを味わえたのは、これらの弁護士の方々の粘りがあったからこそです。

これに対し、法科大学院では、学生の粘りのなさを感じることが少なくありませんでした。今なお連絡の取れている10名近くは、比較的粘りがあったほうだと思いますが、多くは、私の方が「何でも相談するように」と繰り返し言っても、自分で諦めてしまうので、救いの手を差し伸べようがないという状況でした。こんなことでは、仮に司法試験に合格し、弁護士や裁判官などになっても、一人前になれないのではないかと心配になってきます。

法科大学院の創設当時は、比較的事務手続が緩やかであり、私は、時間割の関係でゼミをとれない学生のために、別の曜日に二つのゼミを開講することもありました。それぞれ数人しか履修者がいませんでしたが、そういうことが可能な時代もあったのです。今は、そもそもゼミを履修する余裕さえないような有様ですが。

ちなみに、研究者に裁判の意見書を頼むと、論文のようなものしか書かないことが多いようですが、私は、全く違っています。むしろ相手方の書面に直接反論することに全力を尽くすので、依頼人(弁護士)のなかには、私の意見書をそのまま自分の準備書面として引用してしまう人もいました。それは、私の『国籍法・国際家族法の裁判意見書集』などを参照して頂けば、すぐに分かることです。日本の判例や学説で何が通説であるかとか、ましてや外国法を紹介したところで、裁判に勝てるはずがありません。日本の裁判官をどうすれば説得できるのかを考えて、直接的な議論をする必要があります。

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■手続完了のご報告(2023年6月17日)

その後も、様々な書類が各所から届き、その度に手続の必要があるかどうかを確認しなければならず、神経をすり減らしました。

まず、私学共済の退職年金請求の手続をしろというので、国家公務員共済や国民年金のほうは、手続の必要がないのか、中央大学に問い合わせました。そうしたところ、数年前までは、個別に退職の手続が必要でしたが、最近は、私学共済の手続だけで、他も連動しているそうであり、特段の手続は必要なく、ただ次回の年金支給日に異常があったら、私学共済に問い合わせるように言われました。数日前に年金改訂通知書が届き、一昨日の年金支給日にもきちんと改訂額が入金されていたので、一安心した次第です。

つぎに、特別区民税・都民税の特別徴収(給与・退職金からの天引き)が終わったので、税額決定・納税通知書が届きました。ただ説明がやたら分かりづらいので、ウェブで郵便局の相談予約をして、納付手続と口座振替の手続を済ませました。昨年の収入にもとづいて税額が決定されるので、べらぼうな額でしたが、退職金はそのためにあるのだと実感しました。

さらに、税務署からインボイス制度の案内が届きました。最初は、何かの間違いだと思いましたが、過年度の確定申告の控えを確認したところ、印税や原稿料は、雑所得(業務)となっているので、さらに調べたところ、下記のサイトを見つけました。
 https://funguild.jp/support/invoice/
 https://kaikeizine.jp/article/32602/2/

要するに、印税や原稿料で生活している人には、関係するようですが、取引先=出版社に問い合わせろ、ということですので、念のため、メールで問い合わせてみました。一社からは、すでに返事があり、「特段の対応は必要ない」とのことですが、他はまだ返事がありません。同業者の方には、同様の案内が来ていると思うので、念のため確認されることをお勧めします。

これで一段落ついたのだと思います。毎日、主夫業と本の執筆に追われ、忙しい日々を過ごしています。3週間に1回、ワインと日本酒の仕入れに出かけ、カートンで配達してもらっています。たまに馴染みの店にも行けるようになりました。やはり授業と会議がない以外は、退職前とあまり生活は変わりないようです。

(2023年6月22日補足)
インボイス制度について、さらに調べたところ、エンタメ業界の人たちは、大変なことになっていることが分かりました。
 https://www.businessinsider.jp/post-261968

記事は、2022年11月18日付けですが、状況は変わっていないと思います。要するに、演劇、漫画、アニメ、声優の人たちは、2割が廃業せざるを得ないというのです。

マイナ保険証の問題は、連日のようにマスコミで報じられ、私もマイナカードは作成しながら、保険証への紐づけを見送っていますが、それだけではないようです。

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■反省と不満(2023年7月22日)

退職から4か月が過ぎて考えてみれば、最後の数年は、反省すべき点が多数あったと思います。

まず、私の本来の定年は2024年春であり、従来の慣例によれば、定年前5年以内は、サバティカルをとれない決まりになっていましたが、2019年に1年間のサバティカルを申請し、他に申請者がいなかったこともあり、認めて頂きました。

中央大学では、サバティカル期間中も、授業手当や入試手当以外は、通常どおりの給与が支払われるので、定年前5年以内にサバティカルをとるというのは、本当は遠慮すべきであったのかもしれません。ただ妻の具合が悪く、そのサバティカル期間中に2か月の入院などがあり、大学から特別予算を頂いていたのに、結局、半分以上は返上することになってしまいました。

その入院前数か月は、私が妻の介護のため、椅子に座ったまま眠るような日々が続き、また入院中は、2日に1回、電車で1時間、バスで30分かかるような遠い病院まで通っていました。それでも、家内がまだ入院中の2020年1月には、『国際家族法〔第2版〕』600頁以上の原稿を出版社に送り、その時は、本当に死ぬかと思いました。

妻が2020年1月末に退院して、しばらく後にコロナが広まったので、2020年後期からは、妻の介護を理由にオンライン授業にしてもらいました。教授会もオンラインです。あとは、ロージャーナルの編集員会がオンラインで開催されていましたが、ほとんど出席していませんでした。それらは、2023年3月末の退職まで同じでしたから、世間的には、「給料泥棒」といわれても、仕方ありません。

2021年8月末には、骨折の大けがをして、研究科長からは、「休職したらどうか」ともいわれましたが、オンライン授業ということもあり、9月末からの授業は実施していました。かつて腰痛のため、毎週タクシーで授業に通っていた教員もいましたので、それを思えば、オンライン授業は、本当に助かりました。

国際私法Ⅰ(財産法)と国際私法Ⅱ(家族法)の講義以外に、本当は、テーマ演習Ⅱ(実践国際私法=実態は司法試験の過去問の答案作成をし、それをもとに議論をする形)と研究特論(リサーチペーパーの作成指導)を名目上は担当していましたが、他のところで散々ほやいたとおり、カリキュラムの改悪のおかげで開店休業状態でした。こんな「給料泥棒」でも雇われていたのは、中央大学の懐の広さといってよいのかもしれません。

2023年4月からキャンパスが御茶ノ水(駿河台)に移転し、今は、原則としてオンライン授業が認められなくなりました。定年の1年前に退職しましたが、おそらくあと1年はもたなかっただろうと思います。その1年のための研究室の引っ越し、カリキュラムへの不満、学生の勉学意欲への不満など、たくさんの不満を抱えていたことも事実です。

このような反省と不満の入り混じった状態でも、退職を認めて頂き、名誉教授の称号、法科大学院フェローの称号、比較法研究所の名誉所員の称号など、たくさんの肩書を頂き、中央大学には感謝しています。また北海道大学についても、他のところで散々不平不満を書きましたが、名誉教授の称号を頂き、同様に感謝しています。どちらも、今は大学図書館のデータベースを使わせて頂き、自宅からアクセスして、『国際財産法』の改訂作業に勤しんでおり、それをもって細やかな恩返しとなれば幸いに存じます。

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