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 法科大学院生の勉強のあり方(私家版司法試験ガイド) 

  ―国際関係法(私法系)を中心として―

2022年6月15日(最終更新同年7月22日)
奥田安弘


本サイトの趣旨〕〔制度に対する誤解〕〔国際私法に対する誤解〕〔勉強方法に対する誤解〕〔答案の書き方に対する誤解〕〔国際私法の問題文に対する疑問〕〔就職に対する誤解


本サイトの趣旨

このサイトは、私が20年近く法科大学院で授業をしてきた経験をもとに、法科大学院発足当初の2004年と現在との間で、法科大学院生の勉強方法が大きく異なるように思い、改めて法科大学院生のあるべき姿を問い直すものである。

とくに国際関係法(私法系)については、大きな誤解が広まっているようであり、それは、インターネット情報に表れている。主要なものを挙げれば、次のとおりである。なお、国際関係法(私法系)といっても、実際に出題されるのは、大部分が狭義の国際私法(抵触法)および国際民事手続法を含む広義の国際私法であるから、以下では、単に「国際私法」という。

・国際私法の出題範囲は狭い。
・条文の趣旨を必ず書くべきである。
・答案の型が決まっている。
・国際私法の教材は少ない。

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■制度に対する誤解

・暗記で通用するのは学部だけ
一般の人は、法律の勉強は暗記だと思い込んでようであるが、法科大学院生が同じでは困る。暗記で足りるのであれば、AIにデータを入力して、処理させたほうが格段に優れていることは明らかである。法科大学院も、司法試験も、弁護士や裁判官も、すべて不要となる。授業や教科書の内容を暗記して、そのまま答案に書けば通用するのは、学部で終わりであり、法科大学院では、全く異なる勉強方法が必要となる。

・法律の条文を読み解く
法律の条文は、誰でも理解できるのが理想であるが、現実は異なる。なぜなら、様々な利害が対立して、ある人が正義と思っていることは、他の人にとっては、むしろ悪となるからである。そこで、法的紛争が起きるのであるから、法律家の卵である法科大学院生は、そのような利害の対立に思いを馳せ、法律の条文は、様々な読み方ができることに気づくのが第一歩である。そのうえで、広い視野に立って、あるべき法解釈を示す必要があるから、単なる暗記ではなく、幅広い教養が求められる。

(注)これに関連して思うのは、なぜ裁判に負けたら、「不当判決」という垂れ幕を掲げるのかである。「勝訴」という垂れ幕も同じである。メディアが求めていると思っているのかもしれないが、法律のプロとしては失格である。そもそも見解の相違があるからこそ、裁判が起きるのであり、原告は、敗訴を不当と思っても、被告は、裁判所が正当な判断をしたと思うであろうし、逆もまた真なりである。そういう垂れ幕を掲げるような裁判には、私は関わりたくない。

・判例などの取扱い
司法試験の出題趣旨や採点実感では、最高裁判例を踏まえていることが求められることがあるが、最高裁判例の暗記が求められていると勘違いする者がいる。最高裁判例は、その結論に至る論理過程を理解しなければ、無意味である。そして、問題文に記述された事実関係のもとで、その論理によって良いのか否かを自分で判断し、場合によっては、それとは異なる結論に至ったとしても、その過程が論理的である答案は評価され、最高裁判例の結論に飛びついたにすぎない答案は評価されない。通説などの学説も、同様である。

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■国際私法に対する誤解

・国際私法の出題範囲は狭いのか?
かつて学部の授業において、年次配当が厳格に決まっていた頃は、国際私法は、4年後期に配当されていた。すなわち、他の実定法科目の勉強をすべて終えた後に、法哲学や法制史などのように、法律の基本ができている者が国際私法の受講資格を有すると考えられていた。実際のところ、日本法も分からないのに、国際私法を理解できるはずがない。司法試験でも、とくに家族法では、外国法の内容が試験問題に掲載され、準拠法の適用結果まで問われることがあるが、日本法との違いは、当然に分かっていることが前提とされている。その外国法も、問題文では、架空の法とされているが、実際の外国法がモデルとされているから、少なくとも諸外国の法の傾向くらいは、知っている必要があり、私も、そのような授業をしている。

・条文の趣旨を必ず書くべきであるのか?
司法試験の出題趣旨や採点実感において、条文の趣旨の記述が求められことがある。しかし、それは、単に条文の趣旨さえ書いておけば足りるという意味ではない。法性決定や連結点の確定などの条文の解釈に結びつけなければ、何の意味もない。逆にいえば、いついかなる場合も、必ず条文の趣旨を書く必要があるわけではなく、必要性があるときにだけ書くのであるが、多くの学生は、単に一般論として暗記した条文の趣旨を丸写しにするだけであり、それが条文の解釈に結びついていないから、評価の対象とはならない。

・答案の型は決まっているのか?
狭義の国際私法では、法性決定・連結点の確定・準拠法の決定という三段階の問題があることは、初回の授業で教えるが、答案で必ず法性決定から書き始める者が多いのには、困ってしまう。期末試験や司法試験では、問題文は、幾つかの枝問に分かれ、一つの枝問で答えるべきであるのは、通常、三段階のいずれか一つであるから、いずれが問われているのかを良く考える必要がある。さらに毎年同じような問題が出ているという誤解もあるが、出題者は、膨大な時間を費やして、試験問題を考えているのであり、同じように見えても、実は問われていることは全く別である、ということに気づく必要がある。

・国際私法の教材は少ないのか?
他の選択科目と比べて、たしかに体系書と呼ばれるものは少ないかもしれないが、今でも山田鐐一『国際私法〔第3版〕』(2004年)や溜池良夫『国際私法講義〔第3版〕』(2005年)を踏まえた出題がなされることがある。これらの本は、通則法の制定前に出版されたものであるが、明らかに条文が異なる場合を除き、裁判実務では、今でも参照されることが多い。そこで、拙著『国際財産法』(2019年)および『国際家族法〔第2版〕』(2020年)でも、山田・溜池両先生の本を中心としつつ、問題提起を試みたが、あまり法科大学院生には歓迎されていないようである。学生がハンディな教科書を好むのは、むしろ「国際私法の出題範囲は狭い」とか、「答案の型は決まっている」という思い込みによるのではないかと疑っている。
2022年度授業用参考文献 リンク

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■勉強方法に対する誤解

・マーカーのお絵描き
今の学生は、ハンディな教科書に様々な色のマーカーを塗るだけであり、何も書き込もうとはしない。教科書がハンディであれば、なおさらそこに書き込むことがあるはずなのに、何も書き込むことを思いつかないのかもしれない。対面授業では、当事者の関係図や時系列表をホワイトボード一杯に書いて、それを何回も繰り返していたが、学生は、それを書き写すのがやっとであり、ゼミで学生に報告をさせても、全く図を書けないことが多かった。予習や復習の段階で、自分で図を書く訓練を積んでいないからだと思われる。インターネット情報では、答案構成用紙は、時間の無駄だから使わないという意見をよくみるが、とんでもないことであり、私たち研究者でも、具体的な事案は、必ず図を書いている。

・教科書に頼りすぎ
教科書というものは、それぞれの著者が一定の立場から自分の見解を述べているだけであり、様々な解釈の可能性を考えるべき法科大学院生にとっては、むしろ有害となることがある。いずれにせよ、法科大学院を修了した後、5月の試験までは、基本科目の復習に追われ、国際私法の勉強などする余裕はないであろう。そのような者が教科書の暗記に頼る勉強をしていたら、司法試験の本番では、その教科書に書かれていたことを思い出すこともできず、問題文と条文を丸写しにしたような答案しか書けないであろう。

・論点メモ
来年春に退職する前に、最終年度は、論点メモだけを配ることにした。なぜなら、期末試験や司法試験では、六法だけが手許にあるから、それと同じような状況に慣れておく必要があると思ったからである。論点メモでは、関連する日本の法令の条文番号を挙げ、また判例は、判例集を引用して、自分で確認するよう求めている。ところが、学生は、単に条文や判例を読んでくることだけが「確認」だと思い込んでいるようである。今は、インターネットで何でも調べることができる時代であるから、予習の段階で分からないことがあれば、自分で調べるであろうと思っていたが、授業で説明してもらえるであろうと期待していたようである。そんなことで司法試験に合格したとしても、自立した法律家になるとは思えない。

・ゼミなどの履修者の激減
このような消極的姿勢は、ゼミ(テーマ演習)の履修者の激減にも表れている。リサーチ・ペーパーを書く研究特論の履修者は、すでに何年も前から減っていたが、さらにゼミの履修者まで減ってしまうのでは、法科大学院の存在意義はない。本法科大学院では、選択科目の数が膨大であり、教員は、一定の限度内であれば、自由に特別講義を設けることができるので、学生は、それで修了要件を満たすことができてしまう。数年前までは、私のゼミにも、履修希望者がいたが、周りの学生からは、「そんなことに時間を費やしていたら、司法試験に合格できない」と忠告されていたそうである。結果的には、私のゼミを履修した学生は合格し、そのような忠告をした学生は不合格になったようであるが、訓練や討論に時間を惜しむ学生が増えていることは、私が退職を早める理由の一つともなっている。

■答案の書き方に対する誤解

・ナンバリングと改行
選択科目の試験は3時間である。国際私法は、第1問が家族法であり、第2問が財産法であるから、各1時間半であり、それぞれ答案構成に15分、見直しに15分、枝問が各4つとしたら、枝問一つの答案を書く時間は、15分しかない。私の経験上、1つの枝問の解答は、平均15行であると思われるが、多くの学生は、その間に何度もナンバリングをして、改行をするのである。たかだか15行でそのようなことをしたら、文章はバラバラになり、論理のつながりなどあるはずがない。そう思っていたら、最近の裁判官は、世代が変わったのか、判決文が同じようにナンバリングと改行だらけであり、ますます日本語としての体裁を保てなくなっているのは、嘆かわしい限りである。

・思いつきを何でも書いても良い?
狭義の国際私法の法源である通則法の条文は、解釈の幅が広いため、何を書いても評価されるだろうと誤解する学生が多い。たとえば、契約準拠法については、当事者の法選択がなければ、最密接関係地法による(通則法8条1項)。特徴的給付の理論により最密接関係地法の推定がなされるとはいえ(同条2項)、その推定どおりに最密接関係地法を認定するのか、それを覆すのかは、国際私法のセンスが問われるところであり、何を書いても良いわけではない。また、不法行為の準拠法に関する結果発生地法(通則法17条本文)も、解釈の幅があるが、やはり何を書いても良いわけではない。具体的な事案に即して、国際私法的に意味のある事実だけを取り上げる必要があるが、教科書の丸暗記では、そのような能力は身につかない。

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■国際私法の問題文に対する疑問

・出題趣旨と採点実感
司法試験制度の初期の段階では、国際私法の出題趣旨や採点実感を読んでも、おおむね納得できることが多かったが、ここ数年は、首を傾げることが多い。とくに不法行為の準拠法を問う問題であるにもかかわらず、通則法22条の特別留保条項にも言及すべきであるとか、国際的裁判管轄を問う問題であるにもかかわらず、民訴法3条の9の特別の事情による訴えの却下にも言及すべきであるという。本来の準拠法の決定や国際的裁判管轄の決定をしっかり書くべきであるのに、単なる行数稼ぎになってしまうのではないかと懸念される。

・国籍法に関する不正確な記述
2021年および2022年の第1問(家族法)では、国籍法に関する不正確な記述があり、出題者のレベルを疑うような出来事があった。まず2021年は、「現時点まで、Cは国籍法第14条の国籍の選択をしていないものとする」、「この時点において、Cは国籍法第14条の規定に基づいて、日本の国籍を選択していたものとする」という記述があった。しかし、国籍法14条は、日本国籍の選択方法として、外国国籍の離脱および日本国籍の選択宣言(戸籍法104条の2)の二つを挙げており、問題文がいずれを意味するのかは明らかでない。また2022年は、「出生時は甲国と日本の重国籍者であったが、既に甲国籍を選択した」という記述があった。しかし、これでは、甲国の国籍法に日本の国籍法14条と同様の国籍選択の規定があり、甲国国籍の選択宣言をしたことにより、日本国籍を失ったのか(国籍法11条2項)、それとも日本国籍の離脱届をして、日本国籍を失ったのか(国籍法13条)、いずれを意味するのかは明らかでない。結論には、影響しないとはいえ、出題者がこのように不正確な記述をするのは、受験者を惑わすものであり、大いに問題であると思われる。

・長文化の意図
2021年までは、おおむね第1問(家族法)が1頁、第2問(財産法)が1頁半くらいであったが、2022年は、第1問が1頁半、第2問に至っては、3頁に増大した。試験時間は、同じく3時間である。単に長いだけでなく、私も、当事者の関係や時系列の図を作成して、ようやく出題の趣旨が分かるような内容であった。あるいは、受験者が国際私法を甘く見ていることに対する警告の意味があったのかもしれないが、採点結果がどのようになるのか、これで昨年と変わらないとしたら、よほど下駄をはかせたのではないかと疑ってしまう。現に以前は、学生の再現答案を見たら、大体これくらいの点数かなと予測できたが、最近は、予想より点数が高くつけられている気がする。

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就職に対する誤解

ネット情報では、うまくいった話ばかり出ているが、私が見聞した範囲では、司法試験に合格しても、就職の際に大変な苦労をすることがある。

合格者のなかには、就職がうまくいかなくても、最終的には、司法修習先の弁護士事務所が雇ってくれると勘違いするものがいる。かつては、飲み会に連れて行ってもらうこともあったので、余計にそのような誤解をするのであろう。しかし、弁護士事務所のほうでは、ボランティア精神で司法修習生を受け入れたにすぎず、司法修習の最終試験(二回試験)に合格したからといって、就職の面倒まで見ることはできない。普通の就職でも同じであるが、フレッシュマンを雇うということは、最初の数年は給料以上の稼ぎがないので、雇い主にとっては、持ち出しとなってしまうからである。

そこで最近では、イソ弁(アソシエイト)ではなく、ノキ弁・タク弁・ケー弁など、様々な勤務形態が表れている。それでは、企業の法務部に雇ってもらうインハウス・ロイヤーを目指せば良いと思うかもしれないが、企業にとっては、他の社員より優遇するわけにはいかないので、大卒の新入社員と同じ待遇になることが多いようである。
 https://reatips.info/isoben-nokiben/

ましてや高齢者の就職は、一般的には困難と思われる。かつてメディアなどでは、「最高齢の司法試験合格者」などと大きく取り上げられることがあったが、そもそも今は、法科大学院でも、(医学部のように)進級要件が厳しくなっており、結局のところ、退学せざるを得ないことさえある。

うまく法科大学院修了(あるいは予備試験合格)→司法試験合格→二回試験合格となっても、高齢者の場合は、それまでのキャリアから、一定のコネクションがない限り、困難が予想される。よく公務員の経歴があれば、高齢者でも大丈夫という話があるが、公務員は、一定の経歴があれば、行政書士や司法書士などの試験免除の特典があり、コネクションという点でも、他の職種の人とは、少し異なるとみたほうがよいであろう。
 https://studying.jp/komuin/about-more/yugushikaku.html

司法試験合格者の就職という面では、何歳くらいからを高齢者とみるべきかという問題があるが、今は、学部卒業後すぐに法科大学院に進学したり、今年から5年一貫教育(いわゆる3+2)が始まったりするので、30歳くらいになったら、困難に直面する可能性がある。ただし、これは、私が見聞した範囲であり、そうでない者がいるかもしれないことをご了承頂きたい。

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