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ここ数年、その年によって好不調の波が激しい感じのする中学の部ではあるが、しかし、トップに君臨する学校は、やはり着実にレベルアップを図っているようだ。銀賞受賞団体の11団体中、8団体が初出場校で、金賞団体には初出場校が1校も無いという結果からも、それは明らかだ。前半の部で最も印象に残っているのは、市岡中学校。個人的に数年前から応援し続けて来た学校だが、昨年の初出場金賞は、少々荒々しさも残っている演奏だったが、今年のそれは、実に見事なアンサンブルの勝利という感じだった。課題曲の詰めがもうひとつだったのが惜しいが、これは、中学の部全体に言える事で、課題曲はやはり、余裕を持って披露してもらいたいものだ。もうひとつは、北海道の永山南中学校。課題曲の完成度も高く、自由曲のアンサンブルも中学の部の中では秀逸で、個人的には金賞を取らせてあげたかった演奏だ。また福島の小高中学校は、2年連続の朝一の無念さを一気に晴らした形で、課題曲自由曲共に、完成度の高い演奏を残した数少ないバンドだった。そして午後の部では、地震による中断をものともせずに、4ビートを大人顔負けの抜群のリズム感で演出した出雲第一中学校のあくまでも落ち着き払ったかのような安定したサウンドと演奏が圧巻だった。特に、出雲一中は、会場に入って、演奏をし、表彰式が終わり退出するまでのマナーが素晴らしい。「金賞」とアナウンスされても、喚声をあげないというのは、生徒たち自らの意志で行っているそうだが、会場でのオーディエンスとしてのマナーも含めて、コンクールにやってくる全ての人々に、参考にしてもらいたいマナーの良さである。というわけで、中学の部も、年々流行を追いかけ、音楽を追及するというよりは、曲芸的なテクニックを追及する傾向もあったりするが、中学生というキャパシティの中で、音楽を表現する力を追及する事に重きを置いて欲しいような気がする。そうした姿勢を最も感じたのは、市岡中学校の演奏だったと思う。いまの吹奏楽シーンでは、レトロ的扱いとなる楽曲を取り上げ、今の時代の解釈で聞かせるという、指導者の音楽的センスは、賞賛に値する。来年は、今年の金賞団体中、3校がお休みとなるが、どんな新たな個性がまた飛び出してくるのか、楽しみだ。
1: 東北支部 福島県代表 いわき市立錦中学校吹奏楽部 (指揮 : 浅尾剛弘) 初出場 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
道化師の朝の歌(M.ラヴェル/仲田守)福島の中学のバンドは、誠実な音楽を奏でるバンドという印象があるが、このバンドも、朝一から、しっかりと組み立ての出来たサウンドと音楽を聞かせてくれた。ただ、朝早いからなのか、若干硬質なサウンドで、鳴りそのものはいいんだけど、いまひとつ旋律が前に出てこないために、音楽の流れが散漫になってしまったのは残念だった。決めるところでの縦の線もいまひとつ。自由曲では、ピッチの不揃いを露呈する形で、ラヴェルの潤いのあるハーモニーを演出する事が出来なかった。また自由曲では、やや打楽器の音量が大きくなりすぎ、全体のバランスを崩してしまっていた。やはりこの時間に楽器のコンディションを合わせるのは、至難の技なのだろう。
2: 西関東支部 埼玉県代表 川口市立北中学校吹奏楽部(指揮 : 平澤佳都子) 初出場 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
「ミス・サイゴン」より 序曲、我が心の夢、サイゴン陥落、今がこのとき(C.M.シェーンベルク/宍倉晃)朝から非常に存在感のあるサウンドが鳴り響いてくる。が、やはり早い時間だからなのか、やや乾燥したサウンドになってしまったために、音楽に情緒的なものが不足してしまっていたのが惜しい。また、アンサンブルがいまひとつ乱れるために、統一感が感じられなかったのも残念だった。また、課題曲自由曲を通して、中域低域が強すぎるために、広音域の細かいフレーズや主旋律がかき消されてしまう場面もしばしば見受けられた。サウンドの将来性はあるバンドなので、今一度バランスや、サウンドに艶を持たせる努力をすれば、飛躍的に伸びると思う。ミュージカル的なシーンの演出では、この日「ミス・サイゴン」を演奏した団体の中でも秀逸だったと思う。
3: 関西支部 大阪府代表 大阪市立市岡中学校吹奏楽部(指揮 : 南 由賀) 2年連続2回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
呪文と踊り(J.B.チャンス)昨年初出場ローマの祭りで初金賞に輝いた市岡中学校。今年は、オールド吹奏楽ファンには嬉しいチャンスの曲を選んで、堂々の金賞をゲット。課題曲前半は、午前の早い時間からか、いまひとつ安定さを書いていたが、後半にいくにしたがって、このバンドの持ち味のひとつ、きらびやかな金管が大活躍して、曲全体を締めた。自由曲は、課題曲とはうってかわって、細かいニュアンスまでしっかりと神経を張り巡らせた音楽作りで、聴衆を圧倒した。特にブラス系のハーモニーは、重量感もあって非常に心地よい。トゥッティでもピッチが乱れないのは、頼もしいの一言に尽きる。一糸乱れぬアンサンブルもお見事で、テンポ設定がやや安全運転の感はあったものの、自分達のやりたい、伝えたい音楽を、終始落ち着いて再現していたという感じだった。これで3年連続出場と3年連続金賞に王手をかけた形になる。
4: 東関東支部 千葉県代表 柏市立酒井根中学校吹奏楽部(指揮 : 吉村一彦) 3年連続3回目 銅賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
歌劇「トスカ」第三幕より(G.プッチーニ/飯島俊成)冒頭から、非常に流麗で繊細なサウンドが聞こえてくるが、いまひとつ響いてくるというまでに至らないのは、少々欲求不満を感じてしまわないでもなかった。課題曲では、全体が鳴っている時は、艶のあるサウンドになるものの、サックスのアンサンブル等、音が薄くなる部分では、感情を押し殺したような響きになったり、全体としての統一感もいまひとつ。また、しっかりと旋律を聞かせるという音楽の基本が横に追いやられてしまっていたのも残念。また終始メゾ・フォルテで停滞し続けている感もあり、もっとダイナミックレンジを広く使った音楽作りが望まれる。それは自由曲においても同じで、楽曲の高揚感が演出されなかったのが残念だった。潜在能力は高いバンドなので、巻き返しに期待。
5: 中国支部 山口県代表 岩国市立平田中学校吹奏楽部(指揮 : 進藤健一) 初出場 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
組曲「マ・メール・ロア」より(M.ラヴェル)初出場という事で緊張もあったのか、課題曲の冒頭からピッチが揃わず、各楽器のバランスの取り方もいまひとつで、不本意な滑り出しとなった。中盤以降もピッチの不安定さは致命的で、ティンパニーのチューニングも合わず、最後まで立て直すには至らなかったのが残念。自由曲でもラベルの美しいハーモニーを、きらびやかに演出していたが、やはりピッチの不揃いが、音楽としての存在感を邪魔していた。個々の演奏能力は高く、アンサンブル力もあるので、勿体ない。ピッチを揃え、聞き合うという基本的な事に重点をおけば、見違えるように変身すると思われる。その状態でぜひもう一度聞いてみたいバンドだ。
6: 関西支部 兵庫県代表 伊丹市立天王寺川中学校吹奏楽部 (指揮 : 椋尾 豊) 2年ぶり5回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
「ミス・サイゴン」より 序曲、我が心の夢、サイゴン陥落、今がこのとき(C.M.シェーンベルク/宍倉晃)サウンド的に突出したものを持っているわけでもなく、また突き抜けたテクニックを見せつけるというわけでもなかったが、音楽の基本をきっちりと再現するという姿勢が金賞に繋がったのだろうと思う。課題曲では、サウンド全体がやや透明感に欠けるためか、旋律がいまひとつ前に出てこない部分もあったが、日ごろ丁寧に音を積み重ねているのだろうという努力が、それを上回った感じだった。特に後半は、アンサンブル力も秀逸で、安定したサウンドの上に、スピード感と躍動感のある極上の世界を作り出していた。自由曲は、今年最も流行った曲のひとつ。ここでも奇をてらうことなくオーソドックスな曲作りと曲運びで、旋律と対旋律を実に鮮やかに対比させるなど、地道な努力が実った感じだった。ミュージカルのシーンを彷彿とさせるような演出には至らなかったのは、調を下げたためだろうか。しかし、そんな中でもアンサンブル力の高さは、ハイレベルなものを提示していた。
7: 中国支部 岡山県代表 岡山市立高松中学校吹奏楽部(指揮 : 土師孝法) 初出場 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
交響詩「ローマの祭」より チルチェンセス、主顕祭(O.レスピーギ/仲田守)ここも初出場の緊張からか、課題曲の冒頭からピッチがいまひとつ安定しない。特にこの課題曲3は、ハーモニーの積み重ねで進んで行く楽曲なので、ピッチの不安定さは致命的と言えるだろう。演奏そのものには、大きな問題は見られず、ピッチの問題は非常に残念だ。楽器同志のフレーズの受け渡しにももっと神経を払ってスムーズにやって欲しかった。代わって自由曲は、奔放に演奏しているのが微笑ましかったが、いまひとつサウンドに明瞭さを欠いていたために、レスピーギのもつ色彩感豊かな世界を演出するには至らなかった。個々の演奏能力とパワーは素晴らしいものがあるので、今一度音楽的な基本をしっかりと見つめなおし、積み上げて行って欲しい。
8: 西関東支部 埼玉県代表  久喜市立久喜中学校吹奏楽部(指揮 : 齋藤靖利) 初出場 銀賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
歌劇「トゥーランドット」より(G.プッチーニ/木村吉宏)非常に明るいサウンドからスタートしたが、やや中域低域がバランス的に大きいために、主旋律が全面に出てこないのが残念。中盤、音がやや薄めになる部分では、非常に艶のあるサウンドと音楽を聞かせてくれた。トゥッティでの音作りの再考が望まれる。とはいえ、メリハリを持った、好感の持てる課題曲だった。細かいミスがやや惜しい。自由曲では、プッチーニのオペラの世界を見事に表現していたが、サウンド的にやや低域が重く、繊細な部分での表現がいまひとつ足りなかったのが悔やまれる。しかし、サウンドのダイナミックレンジの広さ、音楽的な訴求など、中学生のバンドとしては、レベルの高いものを持っているバンドであったのは間違いない。
9: 北陸支部 石川県代表 辰口町立辰口中学校吹奏楽部(指揮 : 大嶋直樹)8年ぶり6回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
管弦楽組曲「第六の幸運をもたらす宿」より(M.アーノルド/瀬尾宗利)前回とは指揮者は違うものの、懐かしい名前の学校の登場はやはりコンクールという場を和ませてくれる。課題曲は打楽器群がやや強めで、サウンド的にはバランスを欠いていたが、すべてのフレーズをしっかりと再現して整理している様子が非常に伺われる演奏だった。ただ、中学の部午前の部の出場団体のほとんどが、課題曲にかける情熱がいまひとつ・・・という感じがしたのも事実で、それは金賞受賞団体においてもそうだった。さて、自由曲はやはりこのバンドの本領を発揮する形となった。非常に重厚なサウンドと、流麗な響きを持つ木管楽器が織り成す音世界は、アーノルドの美しい音楽に彩りを添えることになり、またホルンを筆頭にした金管系のサウンドの安定ぶりも見事だった。ただ随所に見られた若干のアンサンブルやザッツの乱れが残念ではあった。
10: 北海道支部 旭川地区代表  旭川市立永山南中学校吹奏楽部(指揮 : 南 裕一) 10年ぶり7回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス(D.ギリングハム)非常に躍動感とはスピード感のある課題曲の滑り出しだった。サウンドのバランスも非常にいい。音像も非常にクリアで、楽曲を構成する要素のひとつひとつが、しっかりと再現されているのが光った。ただ、サウンド全体にもうひとつ艶がないるが残念で、それが音楽そのものに潤いを与える事が出来なかったようだ。しかし、この日の中学の部を通じて、非常に完成度の高い課題曲であったのは確かだと思う。自由曲でも、サウンドのクリアさは健在で、特にこういうオリジナルの楽曲の場合は、その持ち味が非常に生かされることになる。途中でやや打楽器が管楽器を凌駕してしまう場面が見られたが、それは些細な事であり、中盤から後半に向けての盛り上げの演出も見事で、クライマックスにいたっても、サウンドの明瞭さは崩れることはなかった。最後の最後に若干のハーモニーの破綻は見られたが、この日の銀賞団体の中では、最も印象に残った団体のひとつだった。個人的には金賞レベルの演奏だったと思う。
11: 九州支部 鹿児島県代表  姶良町立重富中学校吹奏楽部(指揮 : 坂下武巳) 初出場 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
管弦楽組曲「第六の幸運をもたらす宿」より(M.アーノルド/瀬尾宗利)阿久根中、宮之城中、谷山中、そして吉野中に続いて、またもや、新たな鹿児島のバンドが全国大会に出てきてくれたのは非常に嬉しい。今年は九州大会でも、福岡勢をおしのけて一位通過で出てきたと聞く。さて課題曲の冒頭はやや緊張したのか、アンサンブルや音程等に若干の乱れがあったのが惜しい。しかし後半にいくにしたがって、サウンドも音楽的なスケールもアップして行ったのが良かった。ただ、ややもすると音楽的な表現が作為的に聞こえる部分もあって、いかに自然に演出するか・・・・というのが今後の課題だろう。自由曲では、フルートを筆頭に個々の技量が非常によく生かされた演奏になっていた。がしかし、こうしたひとつひとつのアンサンブルは良く出来ているが、それらをひとつにまとめて大きな音楽として表現するまでにいたっていなかったのが残念。しかし、鹿児島のバンドの可能性の大きさを全国の場で披露してくれたのは非常に頼もしいし、嬉しいかぎりだ。この学校はここ数年、九州大会でいつも代表ギリギリのあたりにいたバンドで、指揮者も生徒も我慢の末に念願が叶って、嬉しさもひとしおだったことだろう。
12: 東海支部 愛知県代表 岡崎市立竜海中学校吹奏楽部(指揮 : 太田智宏初出場 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
バレエ音楽「赤いけしの花」より クーリーの勝利の踊り、ワルツ、ロシア水兵の踊り(R.グリエール/仲田守)課題曲は冒頭から、サウンドがクリアで存在感のある滑り出しだったが、ひとつひとつの音の発音がはっきりしすぎているために、ところどころで流れがせき止められる感じになってしまったのが惜しい。が、木管楽器の音の重ね具合のバランスが見事で、金管と木管のバランスも素晴らしく、これに淀みない音楽の流れが加われば、非常にレベルの高い課題曲になった事だろう。後半は、発音の良さが功を奏していたが、じょじょにスピードアップして行く気持ちはわからないでもないが、クライマックスの部分ではやや暴走しすぎの感もあった。自由曲でも、サウンドのクリアさは健在だったがいまひとつダイナミックレンジの幅が狭いために、楽曲の持つ場面場面でのコントラストがいまひとつ明確でなかったのが残念。しかし非常に弾けた中学生らしい伸びやかな音楽を楽しませて頂いた。
13: 東北支部 福島県代表 小高町立小高中学校吹奏楽部(指揮 : 北野英樹)3年連続3回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)

自由曲 :
交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(R.シュトラウス/斎藤淳)3年連続の朝一演奏を逃した小高中が残したものは、おそらく午前の部で観客を最も圧倒した名演だった。去年時間オーバーに泣いたからか、課題曲3はやや走りすぎの感もあるくらい、後半はテンポアップしていた。しかし、冒頭から最後まで、そうしたテンポ設定の中でもアンサンブルは乱れる事なく、かつ非常に明りょうなサウンドで、強烈な存在感を示していた。自由曲は、冒頭のホルンが鬼門となる曲ではあるが、あっさりとくぐり抜けて、最後まで観客を引きつける演奏を残した。このバンドはひとつひとつの音の発音が明りょうでかつ美しく、音楽が非常に立体的に客席に届いてくるのが心地よい。個々のメンバーの技量の高さ、そして指揮者の音楽的センスの良さが、存分に発揮された演奏だったと行っていいだろう。ブラボー。
14: 四国支部 愛媛県代表 松山市立勝山中学校吹奏楽部(指揮:升岡英子)初出場 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響組曲「シェエラザード」より、第2楽章(N.リムスキー・コルサコフ/M.ハインズレー)課題曲のオープニングから届いてくるのは、非常にエッジの効いた、クリアなサウンドだ。今回、四国を代表して出てきた2団体は、両方とも女性の指揮者による学校で、場所はいずれも愛媛県の松山市。松山市の中学校は四国の中では吹奏楽の激戦地区で、非常にレベルが高い。この学校も松山の中学校らしく、サウンドのバランスが見事で、メリハリのある音楽を展開していた。ただいまひとつ説得力に欠けていたのも事実で、また合奏部分では本領を発揮するものの、個々の演奏技術がいまひとつ統一されていないためか、ところどころで、旋律が途切れてしまうのが残念だった。さて自由曲は、組曲そのものはコンクールでおなじみの曲であるが、第二楽章が演奏されるのは、珍しい事。合奏を得意とするバンドが、ソロが多いこの楽曲を選んだのは、少々選曲ミスと言えるかも知れない。しかし、クラリネットのアンサンブルを中心に、随所で磨きのかかったサウンドが登場し、淀みなく流れるアンサンブルが、心地良かったのもこれまた事実。自由曲の後半は少々ミスも目立ったが、総じてブラスセクションのアンサンブルも秀逸で、また違った選曲でこのバンドの演奏を聞いてみたいと思わせてくれた。それにしても松山の吹奏楽シーンは、今後も目が離せなくなって行きそうだ。
15: 東京支部 東京都代表 小平市立第三中学校吹奏楽部 (指揮 : 中村睦郎)  2年ぶり3回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
青い地平線(F.チェザリーニ)横浜ブラオケの指揮者としてもおなじみの中村氏率いる小平三中。前年は、最近急速に熾烈になった東京の中学の部にあって惜しくも代表を逃したが、今年は玉川学園がお休みという事もあって、余裕で代表をものにした。しかしその演奏は、東京大会から更に飛躍して、全国大会午前の部のトリにふさわしいものとなっていた。課題曲冒頭から、非常にバランスのよいサウンドである事が伺われる。楽曲も細部までよく研究され、指揮者の要求に的確に答える奏者達。自由曲になっても、中学生には難曲と思われるこの楽曲をよく研究して、この楽曲の中学の部初演団体としての責務を見事に果たした。妥協のないアンサンブルやザッツの徹底等、さらりと演奏している姿からは伺い知ることは出来ないが、でき上がった作品がそれを物語っている感じだ。これで来年の東京大会はますます熾烈なものになってしまう予感が・・・・。
1: 東関東支部 千葉県代表 柏市立柏中学校吹奏楽部(指揮 : 田嶋 勉) 初出場 銀賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
「タプカーラ交響曲」より 第1楽章(伊福部昭/松木敏晃)課題曲が作曲者の指揮による演奏という事で注目を集めていた柏中学校。たしかに課題曲が始まるや、なるほどそういうフレーズもあったんだとか、ああ、こういう部分が他の団体の演奏では隠れてしまっていたんだと思わされたわけだが、こうしてサービス精神旺盛にいろんなフレーズが全面に出てきたために、肝心の主旋律が埋もれがちになってしまっていたのは非常に残念だった。作曲者の楽曲に対する思い入れの強さが、逆に音楽として重要なものを見落としてしまう・・・・そんなブラックボックスに陥ってしまった感じではあった。しかし聴衆としては、この楽曲の細部を知ることが出来て、非常にラッキーだったわけだが。また、このバンドは、ピッチもサウンドも非常に安定したものを持っていて、聴感的な手触りが非常に心地よいバンドだ。そういう意味で、今後の成長が非常に楽しみなバンドであると言っていいだろう。
2: 九州支部 福岡県代表  須恵町立須恵中学校吹奏楽部 (指揮 : 南 光俊) 3休明け4回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
トッカータとフーガ ニ短調(J.S.バッハ)以前に須恵中を見たときよりもずいぶん人数が少なくなったような気がしたけれど、何があったのだろう。まあそれはいいとして、まず課題曲。全体的にピッチが不安定で、ハーモニーが安定しないのが、この課題曲においては致命傷だった。また、らしからぬリードミスもあったりして、コンディションを崩していたのではないかと思われる。後半、ブラスセクションが加わってくると、重厚味は増すものの、バランスがいまひとつで、音楽としての輪郭がはっきりしなかったのが残念だった。さて自由曲は、かなり懐かしさの漂う楽曲だが、こういう曲も積極的にいろんな団体に取り上げて欲しいと願うのは、聞く側の我がままだろうか。さて演奏の方は、少人数であるにもかかわらず、アンサンブルやザッツが揃わない部分が見受けられたりと、いまひとつ詰めが甘いまま全国大会の日を迎えてしまったという感じがした。指導者の卓越した音楽センスと指導センスで、かつての輝きを再び取り戻してもらいたいものだ。
3: 東海支部 三重県代表 鈴鹿市立千代崎中学校吹奏楽部 (指揮 : 中山かほり) 初出場 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
「ミス・サイゴン」より 序曲、我が心の夢、サイゴン陥落、今がこのとき(C.M.シェーンベルグ/宍倉晃)非常に絞まりのいいサウンドという印象で、またクリアさも充分に持っているという印象を受けた。ただ、冒頭の部分では、音の後処理がいまひとつ丁寧さを欠いていたのが残念だった。中盤以降は非常に堂々とかつ朗々としたブラスファンファーレをはじめとして、バンドのサウンドの安定ぶりをしっかりと提示していた。後半に向けてのパーカッションを中心とした盛り上げも、オーソドックスで耳心地の良い音楽に仕上がっていた。さて自由曲は、少々アプローチが他の団体という違う感じを受けたが、そのためか、いまひとつシーンが浮かんでこない、平面的な音楽になってしまっていたのが残念。演奏能力そのものが高いだけに悔やまれる。しかしここでも、サウンドは非常に芯が通っていて、そういう意味での安心感はあった。そしてラストの演出と盛り上げも、自然な音楽の流れを醸し出している感じで、フィナーレを鮮やかに締めくくった。
4: 北陸支部 福井県代表  鯖江市立鯖江中学校吹奏楽部 (指揮 : 佐々木和史) 2年連続4回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
楽劇「サロメ」より、七つのヴェールの踊り(R.シュトラウス/M.ハインズレー)課題曲の冒頭から、特に金管系のピッチが不揃いで、和声が安定しないのが気になった。木管系のサウンドも、しっかり息を吹き込んで、重厚なサウンドを作り上げた方が、より音楽に幅が出るだろう。楽曲の解釈は良くなされており、丁寧に音符を積み重ねていった努力はしっかりと表れていたが、アンサンブルの乱れが残念。自由曲では、課題曲よりもサウンドもアンサンブルも安定して来たが、楽曲の持つ妖艶さや、オーケストレーションの妙までは表現するには至らなかった。とりあえずまずは、ピッチをしっかりと安定させる事で、かなりバンドのサウンドは変わっていくと思うが、地道な基本的な部分に、もっと神経と労力を費やすべきだろう。楽器そのものの演奏能力は高いだけに、勿体ないと思う。
5: 東関東支部 神奈川県代表 横浜市立万騎が原中学校吹奏楽部 (指揮 : 原口正一) 2年ぶり3回目 金賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
ハリソンの夢(P.グラハム)非常にサウンドのボリュームとスケールの大きいバンドという印象だった。課題曲では、そのスケールの大きさがオーバフローになってしまい、いまひとつちぐはぐな音楽になってしまっていたが、ハーモニーの美しさ群を抜いた存在感があった。そして自由曲では、このバンドのサウンドの特性が完全に音楽に乗り移っていた感じだった。リズムセクションの強弱の使い分けも完璧で、細かく速く駆け抜けていく管楽器のパッセージをかき消すことなく、かつスピード感を維持し続けるという離れ技をやってのけていた。そして何よりそんなスピード感を演出する中でもサウンドの重厚さを維持しているのが凄かった。この楽曲も去年から今年にかけての流行り曲だが、中学生でここまで的確にこの楽曲を再現していたのは、賞賛に値する。東関東地区の中学校は、代表校がころころ変わるが、こうして必ずどこかの団体が好成績を残して行くというのは、かなり層が厚いという事なのだろう。
6: 東北支部 秋田県代表  秋田市立山王中学校吹奏楽部 (指揮 : 細谷 直) 2年連続25回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
交響詩「ドン・ファン」より(R.シュトラウス/森田一浩)前年は苦杯をなめた古豪山王中。今年の自由曲は、なんと1973年、まさかの東北代表落ちとなった因縁かつ伝説のドンファン。古くからのファンにとっては、非常に楽しみなプログラムとなった。課題曲では、サウンドも音楽も安定していたものの、細かいミスも見受けられたが、指揮者の卓越した演出ぶりが、それを凌駕していた。そして後半に行くにしたがって、完全に山王サウンドの世界を作り上げていたのはさすが、ご立派。さて因縁の自由曲。課題曲後半に作られた山王ワールドはまったくびくともせずに、極上のドンファン的世界を作り上げていた。コンクールであることをしばし忘れて、シュトラウスの世界にどっぷりと浸からせていただいた。
7: 四国支部 愛媛県代表  松山市立南中学校吹奏楽部(指揮 : 柿並陽子) 3年ぶり4回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
喜びの島(C.ドビュッシー/真島俊夫)女性の指揮者ながら、非常に硬質できらびやかなサウンドを持ったバンドだ。課題曲は、ややアナリーゼ不足の感がしないでも無かったが、明瞭なサウンドと、音楽のスケールの大きさで押し切った、という感じだろうか。その大きな理由は、音の前処理はうまいんだけど、後処理がやや雑な点にあると言っていいだろう。勿論中学の部の中では、突出したサウンドを持っているのは確かだが、そこに丁寧さや神経のこまやかな部分が加われば、鬼に金棒となるはずである。そうすれば、サウンドも成績も、より安定したものになるだろうと思う。自由曲では、ドビュッシーの繊細なハーモニーを再現するまでにはいたってなかったが、非常に明瞭なサウンドが、独自の世界観を作り上げていたのは立派。四国・・・・というか松山の中学の部は、吹奏楽の激戦区。代表バンドがこうしていい成績を残して行けば、ますますレベルがあがり、頼もしさが増すというものだ。
8: 北海道支部 札幌地区代表  札幌市立厚別北中学校吹奏楽部(指揮 : 木田恵介) 3年連続3回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響詩「英雄の生涯」より(R.シュトラウス)まず、各楽器ひとつひとつのサウンドが定まってないという印象を持った課題曲だった。また音楽的には、どのフレーズを出して、どのフレーズをサポートに回すかという整理がされていないために、伝えたいものが最後までわからないまま終わってしまった感じだった。また、意図的な極端な抑揚の付け方は、あまり好ましくないと思う。自由曲になってからはサウンドは安定したが、やはり、常に全ての音楽の要素が、みな同じ音量で鳴り渡っている感じで、そのあたりの整理整頓をしっかりやる事から、スタートすべきでは、と思われた。全体的にアンサンブルそのものには大きな問題はみられないので、音楽として聞かせるためのバランスを取れば、格段にいいバンドになるはずだ。
9: 九州支部 福岡県代表  志摩町立志摩中学校吹奏楽部(指揮 : 水島麻恵) 初出場 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
朝鮮民謡の主題による変奏曲(J.B.チャンス)まず課題曲のテンポ感や演奏技術は確かなものがあるが、やや打楽器が強めで、全体のサウンドのバランスを崩していたのが残念。もっと入念なバランス取りに挑戦して欲しかった。そのためか、輪郭のはっきりしない音楽になってしまっていた。どう主旋律を聞く者に伝えるか、そういったアプローチは必須である。また内声部の音の処理にいまひとつ丁寧さが足りず、サウンドが濁ってしまう場面もいくつかみられた。自由曲の冒頭はユニゾンは、もっと表情を持ってもいいかなとおも思ったが、しかし、骨太なサウンドで堂々としていた。リズムが登場してからも、やや打楽器が強めなのは相変わらずだったが、テンポ感やリズム感のしっかりとした堂々たる演奏だった。
10: 東海支部 三重県代表  四日市市立内部中学校吹奏楽部(指揮 : 西田 徹) 初出場 銅賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
写楽(高橋伸哉)全体的にサウンドのバランスが悪い。課題曲は、終始テンポ設定も淡々としていて、音楽としてのヤマを迎える事もなく進んで行ったのが残念。また、主旋律がいまひとつはっきりと浮かんでこず、後半はピッチの不安定さも露呈した感じで、消化不良のまま終了してしまった感じだった。一方の自由曲は、非常にのびのびと音楽している感じが好感が持てた。やや、打楽器群が出過ぎの感じはあったが、サウンドの表情も、和の世界を的確に表現するに足りるものだった。こうしたアプローチが課題曲にも欲しかった気がする。個々のソロ楽器の存在感もあり、独自の世界を楽しませて頂いた。
11: 東京支部 東京都代表 羽村市立羽村第一中学校吹奏楽部 (指揮 : 玉井長武)  2年連続3回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
翠風の光(長生淳)この課題曲のオープニングは、こうした緊張感のある場では、やはり非常に難しい。金管系に非常に安定感のあるこのバンドでも、全国大会の場では、やや不安定な部分が感じられていた。また中盤の16ビートの部分は、ビート感を演出しきれないまま終わってしまった感じで、やや物足りなさが残った。しかしその後のファンファーレは、さすがに金管を誇るこのバンドらしく堂々たるもので、きらびやかさも中学の部随一のものを感じさせてくれた。ただ終盤、サウンドのバランスを崩してしまったのが残念。自由曲は、細かいニュアンスまでよく研究していたが、やや中学生には表現力的には難易度が高かったかも知れない。圧倒的なメッセージは残せないまま終焉を迎えてしまった感じで、消化不良となってしまったのは否めない。しかし、非常に基本と技術力のしっかりとしたバンドなので、また去年のように、的確な選曲で、オーディエンスを魅了してもらいたい。
12: 関西支部 奈良県代表 生駒市立生駒中学校吹奏楽部(指揮 : 牧野耕也) 3年連続6回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
組曲「道化師」より プロローグ、ギャロップ、リトル・リリカルシーン、エピローグ(D.カバレフスキー/鈴木英史)正確無比な演奏をするので知られるこのバンドだが、課題曲では全体的に不鮮明さ不透明さが否めず、いつものこの学校らしくないなという感じだった。どちらかというと、マーチの年の方が、このバンドの本領は発揮されるのかも知れない。とはいえ、この課題曲の演奏も、中学の部の中にあっては、水準以上のものであるわけだが、どうしても生駒中という事で過剰な期待してしまうわけである。そして自由曲。なんか全く別のバンドの演奏を聞かされているような目の覚めるような名演快演だった。たった12分の中で、どうしてこういう全く違う出来あがりの音楽が共存してしまうのだろう・・・・。選曲は非常に中学生らしいものであるが、こういう曲を完璧に聞かせるというのは、逆に非常に難しいのである。とにかく細部に至るまでひとつひとつの音が鮮明にクリアに発音表現され、ひとつの音楽としての流れも聞いていてアッという間に終わってしまったと感じるほど、自然でかつ極上のものであった。何度もリピートして聞きたい演奏のひとつだ。
13: 西関東支部 埼玉県代表 久喜市立久喜東中学校吹奏楽部 (指揮 : 吉里達哉) 2年連続2回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
バレエ音楽「エスタンシア」より 小麦の踊り、終曲の踊り:マランボ(A.ヒナステラ/仲田守)課題曲の冒頭は、非常に丁寧で美しいサウンドからスタートするが、楽器の数が増えるにしたがって、少しずつ輪郭がぼけていくのが残念。バランス処理をしっかりと施して欲しかった。さえずりの場面では、やや木管のピッチが揃わないのが痛かった。中盤は、低音系がやや強く、ビート感がいまひとつ醸し出せていなかった。しかしサウンドのエッジがしっかりと際だった、心地よいサウンドを持ったバンドであるのは確かだ。重厚なファンファーレも荘厳で、終盤はしっかりと絞まりのある演奏となった。さて自由曲は、この難曲によく挑戦したが、ややサウンドの線が細く、特に後半のフレーズがいまひとつ前面に出てくることなく、全体の勢いで押してしまった感があったのが残念だった。しかし、細かいフレーズのひとつひとつをしっかりと再現していた技術力には、感心させられた。
14: 中国支部 島根県代表 出雲市立第一中学校吹奏楽部(指揮 : 原田 実) 3年連続35回目 3年連続金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
コンサートバンドとジャズアンサンブルの為のラプソディー(P.ウィリアムズ)数々の伝説を生んだ旧普門館における中学の部の大トリを勤めたのは、なんと35回目の全国大会出場となったこのバンド。世の中の巡り合わせというのは不思議なものである。さて、実はこの学校が演奏に入る直前に新潟に大地震がやって来て、その影響で普門館は揺れ、客席はどよめきと悲鳴があふれ、ステージ天井にあるライトは揺れ・・・・という事で、スタンバイしていた生徒達は一時袖に避難し、再び入場して演奏再開という事になった。この再登場の時は、場内からものすごい拍手を浴びて、生徒達は非常に元気とづけられた事だろう。というか、もう今のこの学校の生徒達には、どんなアクシデントも関係ないんだろうけど・・・・。さて課題曲、冒頭は少々とまどい感がありながらも、安定した重厚なサウンドと練りあげられた音楽が崩れる事はあるわけもなかった。部分的に、やや不安定なところも見受けられたが、全体の流れの中では、全く気になることはなかった。そして自由曲では、4ビートのノリの中に、奏者も客席もどっぷりと浸かって、音楽を楽しむ・・・・そんな感じであっと言う間に12分が過ぎた感じだった。またすべての奏者が余裕を持って、音楽しているのにも感心させられた。ただ、若干瞬間的に緊張の糸が途切れたか、暴走してしまったか・・・・という場面もあったが、それはこのレベルではご愛敬としておこう。いずれにしても、最後の最後にまたひとつ伝説が誕生した・・・・そんな思いがしたのは私だけではないはず。今日の聴衆の一人として、メンバー全員に「ありがとう」と言いたい。
相も変わらないレベルの高さを誇る、高校の部の常勝団体。少し前までは、コンクール用とも言える均一的なサウンドで、トップグループを形成していた感じもしていたが、今年は、それぞれの学校が明確な個性を発揮し、完成させていたのが嬉しい収穫だった。埼玉県与野高校は、指揮者が交代した後、いわゆる埼玉的サウンドから脱皮して、よりダイナミックレンジの広い、硬質ながらも憂いのあるサウンドとなり、常総学院高校は、個々の楽器の分離が非常に美しいシンフォニックなサウンドに、天理高校は、非常に硬質で全体のサウンドのブレンドの妙を追及し、習志野高校は究極なまでに美しくも芯の通ったサウンドに、伊奈学園は、指揮者の音楽性と奏者が一体となって流麗な音楽の流れを魅力度満載のサウンドで表現し、柏高校は粒立ちの良いサウンドで独自の音楽解釈を追及しつつも奇をてらわずに新たなスタンダードとなるべく提案し、淀川工業高校は美しくも躍動感のある音楽を耳当たりの非常に柔らかなサウンドで追及するだけでなく、どんな細かなフレーズをも見落とさずにその役割をまっとうさせるという感じで、いずれの学校も、そのバリエーションと完成度の高さを充分にオーディエンスに提供していた。そんな中で、福島の湯本高校は前へ前へと突き進んで行く音楽を、駒澤大学高校は、ボリューム感と艶のあるサウンドで華やかな音楽を、鹿児島の松陽高校は堅実に積み重ねられた密度の濃い音楽とサウンドで、それぞれ見事に金賞を射止めた。今後はそれぞれの個性を更に追及して行くことで、常連組へと入っていく事を期待したい。また、銀賞団体の中では、明誠学院高校の演奏が印象に残った。課題曲にしても自由曲にしても、内声部が非常に鮮やかに美しく舞い踊るかのような演出は、大会を通しても特筆すべきものであり、こまやかな神経をもって音楽作りをして来たという証しでもある。迫力感を追及するのではなく、いかに美しく音楽を演じるかというものを追及し、演奏している姿に感動させて頂いた。
1: 北海道支部 札幌地区代表 東海大学付属第四高等学校吹奏楽部 (指揮 :井田重芳) 3休明け24回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響詩「ドン・ファン」より(R.シュトラウス)お休み明けの朝一は、コンディションが整えにくいのではと思いきや、課題曲のでだしから、そんな不安は吹っ飛んでしまった。特に、細部までアナリーゼし尽くした表現力はお見事だった。この課題曲1は、曲が進むにつれて場面転換が激しい楽曲だが、その場面に併せてテンポ設定にこだわり過ぎたためか、ひとつの楽曲としての音楽の流れがやや停滞気味になり、表現がオーバー気味になってしまう場面があったのが惜しかった。あと、締太鼓は、やや部分的に出過ぎの感はあったかも知れない。しかし、非常にクリアなサウンドは健在だった。さて自由曲は、コンクールでは評価のされにくい楽曲だが、休み明けでこの曲に挑戦した事に拍手を送りたい。演奏については、音楽の表現力はかなりのレベルに達していたが、やはり朝早い時間で楽器が暖まりきってなかったのか、主題の部分等、細かいパッセージがやや不揃いになったり明瞭さを欠いてしまったのが残念。サウンドそのものは非常に安定感のある秀逸なものだっただけに、朝一というプログラム順が悔やまれる。
2: 東北支部 福島県代表 福島県立湯本高等学校吹奏楽部 (指揮 : 藤林二三夫) 2年連続2回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲:
バレエ音楽「中国の不思議な役人」より(B.バルトーク/仲田守)課題曲の冒頭から、非常にひとつひとつの音の発音がクリアな世界が広がる。音楽としての流れも、サウンドのバランスも絶妙な課題曲の展開だった。ただ、全体を通して、細かいミスがいくつかみられたのは、少々残念と言えば残念な気はした。自由曲は、ひとりひとりのテクニックはもちろん、バンド全体としての勢いみたいなものも感じとることが出来る内容で、出場2回目にしての金賞を受賞した。特に、バルトークのような楽曲は、サウンドに艶をもたせつつも、ある程度の乾燥感を持っていないと、音楽をクリアに表現できないという性質がある。その加減ぶりも見事で、このバンドは、もしかすると午前中早い時間の出演というのが、追い風にもなったのかも知れない。勿論、それ以前に、バンドとしてし確立したものを持っていたから・・・・ではあるが。いずれにしても、聞く側からすれば、午前中からバルトークを聞きたいか・・・・と聞かれれば、そうではないわけであるが、そんな思いを吹き飛ばしてくれるような快演だった。
3: 九州支部 鹿児島県代表 神村学園高等部吹奏楽部(指揮:久木田恵理子) 初出場 銅賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
アルプスの詩(F.チェザリーニ)かつては、福岡と沖縄、そしてここ数年は福岡勢の独壇場だった九州代表であるが、今年は九州代表中2校が鹿児島勢という事で、中学の部と共に、鹿児島の団体の成長ぶりが目立ってきた。さて課題曲の冒頭は、女性指揮者らしく、情緒溢れるスタートとなったが、テンポ設定のせいなのか、全体的に重い足取りの課題曲となってしまっていた。また同じフレーズが出てきた時に、どう違いを付けるか、色づけをするか、そういう部分にまで踏み込んで行かないと、現在の高校の部の全国レベルには、追いつけない。中盤はビート感は出ていたが、どちらかというと一本調子なのは否めず、表情不足という感じではあった。しかし、初出場にしてここまで無難に課題曲をまとめていたのは、九州大会以降の努力の賜物だろう。自由曲では、冒頭のホルンにもう一歩存在感を出して欲しかったが、しかし、場面場面をよく演出した仕上がりになっていたと言っていいだろう。ただ、もう一歩アナリーゼ不足だったのも事実で、技術的な部分だけでなく音楽の部分でのより突っ込んだ研究が、このバンドの飛躍には不可欠となるだろう。
4: 東海支部 静岡県代表 静岡県立浜松商業高等学校吹奏楽部 (指揮 : 田澤晴夫) 12年ぶり10回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲:
楓葉の舞(長生淳)課題曲冒頭は、少々ビブラートをかけすぎではという感じもしたが、そんな事よりも、少々テンポ設定が焦り気味だったかも知れない。「祈り」というタイトルからは少々かけ離れたものになってしまっていた。それと、フレーズの頭から中盤にかけては丁寧に音を再現しているのだが、終盤、やや音の処理が乱雑になってしまう傾向がこのバンドにはあるようだ。最後までしっかりと丁寧に音符を再現して欲しいという感じがした。また、木管と金管のブレンド具合もいまひとつで、サウンドとしてもひとつにまとまり切らなかった。自由曲は、冒頭の木管の重厚な響きからスタートして、楽曲の持つ世界観をうまく再現していたが、細かいミスも見受けられ、画竜点睛がなされる前に全国大会を迎えてしまったような感じもした。が、新たな東海サウンドのひとつとして、今後の可能性を充分に感じとることの出来る自由曲だった。
5: 関西支部 京都府代表 洛南高等学校吹奏楽部 (指揮 : 宮本輝紀) 2年連続13回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲:
ウィンド・ブリッツ(D.ブージョア)少人数ながらも、非常に存在感のあるサウンドと、独自性を持った音楽作りは相変わらずのようだ。課題曲では、非常に重厚で美しい木管が活躍する内容だったが、ところどころでフレーズが途切れてしまう場面があったのが残念だった。終盤のテンポ設定については好みが分かれると思うが、総じてよくまとまった演奏だった。自由曲では、お得意の楽器持ち変えパフォーマンスと共に、楽しませてもらったが、金管、特にトロンボーンがサウンドのバランスを崩してしまったようで、いつものような完璧な演出を施すまでには至らなかったのが残念。またひとつの曲の中でも、シーンごとに、いろんな顔や色を見せて欲しい気もした。しかし、この学校はいろんな意味で貴重な存在なだけに、毎年目が離せないし、これからの更なる頑張りにも期待したい。そして挑戦的な選曲姿勢にも、拍手を送りたい。
6: 東京支部 東京都代表 駒澤大学高等学校吹奏楽部 (指揮 : 吉野信行)  2年連続9回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
交響詩「ローマの祭」より、チルチェンセス、主顕祭(O. レスピーギ/仲田守)この団体は、予選から地区本選、そして全国大会とず~っとウォッチングして来た数少ない団体のひとつ。回を重ねるごとに、サウンドも音楽も進歩して行く姿は頼もしかった。課題曲は冒頭から、ボリューム感充分の木管サウンドに艶やかさが加わっていた。音楽的にも非常にオーソドックスな解釈で、かつ場面場面をしっかりと自分達なりの個性で演出しているという感じで、あっという間の課題曲タイムだった。さてさて自由曲は、回数を重ねてかなりこなれて来た感がある出だしで、バンダの部分もばっちりとこなし曲は進んで行くが、予選や地区本選では無かったようなミスがあったのも事実。しかし、ここまで積み重ねてきたサウンドと音楽の流れと、この楽曲を最後までクリアに吹きこなすという圧倒的なパワーの中では、そねうしたミスも全く気にはならなかった。12分間、会場を完全に自分達のものにしか演奏が金賞を獲得するのは、間違いないと演奏終了直後に確信した名演だった。久々にアドレナリン全開状態になってしまった。
7: 九州支部 鹿児島県代表 鹿児島県立松陽高等学校吹奏楽部 (指揮:立石純也) 2年ぶり3回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
交響詩「ローマの祭」より、チルチェンセス、主顕祭(O.レスピーギ/磯崎敦博)さて、こちらも、地区予選、そして本選、全国大会とウォッチングさせていただいた学校だが、その2校が奇しくも,同じ自由曲で続き順で登場して来た。派手できらびやかな都会派のローマの祭りといった感じの駒澤に対して、松陽高校の祭りは、非常に清楚で気品のあるローマという感じか。まああわてずに、まずは課題曲から。ここの課題曲は解釈が非常にオーソドックスで、しかしオーソドックスな解釈のものを印象的に演奏するというのは、奏者の非常に高度な技術力が求められる。ステージ上の奏者達は笑顔で演奏しているが、この域に達するまでには相当な苦労があった事だろう。というわけで、主旋律と対旋律、そしてそれを支えるハーモニーがクリアに再現され、見事に一体となった課題曲の仕上がりぶりだった。そして自由曲。ここのバンダは、駒澤より更に完璧で、終始目だったミスもなく、それぞれの場面場面を鮮やかに演出していた。打楽器の音量処理も完璧。ただ、他の金賞団体と比べると、ややサウンドがこもり気味で、サウンドでの説得力にがやや欠けていたのは事実。些細な問題ではあるが、来年に向けての課題のひとつになるだろう。これで、松陽高校は、鹿児島県の高校、というかすべての部門を通じて、グループ表彰方式になってから、史上初の全国大会金賞を鹿児島県にもたらした事になる。同県人としてこれほど嬉しい事はない。素敵な時間をありがとう。
8: 北陸支部 富山県代表  富山県立富山商業高等学校吹奏楽部(指揮 : 鍛冶伸也) 3年連続28回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
楓葉の舞(長生淳)課題曲はややテンポ設定が速いかなと思ったが、そんな設定の中でも、アンサンブルは崩れることなく、テンポ感よく音楽を進行させていた。ただ、その分、時折フレーズが不鮮明になったり、細かいミスがあったりしたのは残念だが、バンドの底力を印象付けた課題曲だった。自由曲は、中学高校の部で、今年はよく耳にした楽曲だ。その中では、自由曲も無謀なほどにテンポ設定が速く、独自の世界を展開してはいた。重厚なサラウンドも、北陸独特のきらびやかな金管サウンドも健在だったが、やはりこのテンポ設定の中で、楽曲の持つメッセージをくまなくオーディエンスに届ける事は無理だろうと思われる。模範演奏的なものばかりがいいとは勿論思わないが、トップクラスの技術力と演奏力のあるバンドなのだから、音楽として聞かせるラインでのテンポ設定で、そのサウンドの素晴らしさと音楽性をアピールしてもらいたいものだ。
9: 中国支部 岡山県代表  就実高等学校吹奏楽部(指揮 : 熱田昭夫) 4年ぶり14回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
組曲「マ・メール・ロア」より(M.ラヴェル/森田一浩)
10: 西関東支部 埼玉県代表 埼玉県立与野高等学校吹奏楽部 (指揮 :坂田雅弘) 2年連続7回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
三つの交響的素描「海」より、3. 風と海との対話(C.ドビュッシー/八田泰一)今回から指揮者が交代した与野高校であるが、この指揮者は、以前にコンクールの課題曲でおなじみのお方。さて、まずは課題曲。冒頭から、リズム、テンポ、サウンドがいまひとつ一体化せずにおやっと思わされたが、すぐに立て直しが図られたのは、指揮者の技量の高さか。後半の大河ドラマを見せられているかのような壮大な音楽の展開は、さすが埼玉県を代表するバンドの面目躍如と言ったところだろう。終盤は、サウンドのバランスも素晴らしく、高度なレベルでの一体感を持って課題曲は終了した。さて自由曲は、コンクールの永遠のスタンダードナンバーとも言うべき、ドビュッシーの「海」。楽曲をアレンジャー感覚で、いじって個性を出していく指揮者というのは全国クラスになるとよく見られるが、コンポーザー感覚で楽曲に手を加えられるという強味は、この指揮者ならではのものか。ともすれば、楽曲のパワーに支配されてしまいがちな選曲であるにも関わらず、独自のスタイルを随所に織り込んで、スタンダードらしくない新たな息吹を聴衆に感じさせた指揮者の手腕と、それを見事に再現した奏者の技量に脱帽させられた。
11: 東北支部 福島県代表 福島県立平商業高等学校吹奏楽部 (指揮 : 橋本葉司) 2年連続2回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)

自由曲:
地の精のバラード(O.レスピーギ/高木登古)課題曲の出だしは、ややピッチが不安定でどきりとしたが、すぐに立て直されていくのは、東北代表バンドという自信か。福島のバンドの特徴であるエッジの利いたサウンドは、非常に心地よい。特に、普門館のような、ややもするとサウンドが曖昧なものに陥ってしまいそうな会場でも、こうしたバンドのサウンドは、音楽の輪郭をくっきりと浮きたたせてくれる。近年、東北で福島勢の勢いがあるのは、そうしたサウンドの特徴ゆえかも知れない。ただ、こうしたサウンドは、ややもすると、バランスの悪い部分をも露呈してしまうというマイナス部分もあったりする。課題曲の終盤はそういう悪い部分が出てしまったようだ。自由曲は、実に鮮やかで色彩感溢れる演奏だったが、丁寧な部分と粗い部分のどちらもが目立ち、楽曲としての安定感を欠いてしまっていたのが残念。非常に躍動感のある音楽を演じていただけに惜しかったと思う。
12: 東海支部 愛知県代表 安城学園高等学校吹奏楽部 (指揮 : 吉見光三) 3年ぶり7回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)

自由曲:
バレエ音楽「ベルリン陥落」より(D.ショスタコーヴィチ/木村吉宏)実によく合ったアンサンブルや、音楽的な構築法は、優れたキャリアを持つ学校ならではのものであった。課題曲から自由曲まで、一貫してよく訓練された感じが手にとるようにわかった。ただ、発音する楽器が多くなればなるほど、旋律が埋もれがちになってしまうのと、特に課題曲でティンパニーの音量が大きすぎるなど、全体的な音量バランスがいまひとつ整理されていなかったのが残念。高校の部になると、本の微量のアンバランスも致命傷になってしまうという、きわめて高いレベルでの争いになるのだという事を、改めて実感させられた。しかし、前年の不本意な結果から、ここまで辿り着いた努力は立派。バランスという部分を除けば、非常に痛快な音楽を楽しませていただいた。
13: 東関東支部 茨城県代表 常総学院高等学校吹奏楽部 (指揮:本図智夫) 3休明け12回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
「交響三章」より 第3楽章(三善晃/本図智夫)東関東おなじみの常連校の登場。なんともまあ、粒立ちのよいサウンドなんだろう。どんな楽曲が課題曲に来ても、揺るぎないサウンドと音楽スタイルを持っているバンドだというのが、課題曲のイントロ部分で、早くもわかってしまうのが凄い。各楽器のバランスといい、音楽的な流れといい、奇をてらわず非常にオーソドックスではあるが、音の波に包まれるかのような感覚に襲われる演奏だった。また更に進化したという感じか。自由曲もこの普通には難解な曲を、わかりやすく伝えようとする努力と、まるでひとりの人間が演奏しているかのように、恐ろしいほどにすべてが揃い尽くした演奏には、完全に脱帽状態。ただこのバンドには、演奏者からにじみ出てきて言いはずの情緒というものが少々足りないような気がする。それが醸し出されるようになると、鬼に金棒状態になると思うのだが・・・・。
14: 四国支部 愛媛県代表 愛媛県立伊予高等学校吹奏楽部 (指揮 : 高橋貞道) 2年ぶり14回目 銅賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
「ミス・サイゴン」(交響的描写)より(C.M.シェーンベルク/J.デ・メイ)
15: 関西支部 奈良県代表 天理高等学校吹奏楽部 (指揮:新子菊雄) 3年連続32回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
バレエ音楽「中国の不思議な役人」より(B.バルトーク/小澤俊朗)高校の部の中では、最も出場回数が多いこのバンド。ここ最近の天理高校の音楽は、主旋律と隊旋律、そしてそれを支えるハーモニー、和声などが、それぞれにクリアに描き出され、それらを絶妙なバランスで構築するという、オーソドックスな音楽スタイルだと言っていいだろう。課題曲を、そうした要素がはっきりしている1にしたのは、ごく自然な事だといえるだろう。がしかし、冒頭部分では、天理らしからぬ不安定さが感じられたのも事実。ただ、この音楽スタイルを取っていれば、瞬間的な立て直しが効くというメリットがあり、さすがに百戦錬磨の指揮者だけに、後半の立て直しは見事だった。自由曲は今日二度目の「役人」と相成ったが、しっかりと吹きこなされているのに、いまひとつ伝わってくるものが無かったのが残念。しかし後半の和声の組み立てやサウンドのバランスの絶妙さ加減はやはり圧巻であった。
1: 中国支部 岡山県代表 明誠学院高等学校吹奏楽部 (指揮:佐藤堯史) 2年ぶり2回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
喜歌劇「小鳥売り」セレクション(C.ツェラー/鈴木英史)模範演奏を聞いているかのような、課題曲の滑り出しは、非常に安心感のあるものだったが、若干走りすぎというイメージがあったのも事実。楽曲の中のさまざまな要素を受け持つ人間が、同じリズムを感じていないというのが、露呈されてしまっていたのが残念。しかし、午後の部の一番という気負いは全く見られず、いい意味で淡々と音楽を自分達のペースで組み立てていったのは非常に心地よいものを感じた。模範的である事を個性にしてしまった、という感じか。金管系のサウンドの艶もお見事。自由曲は今年も、中学生がよく取り上げる曲を、高校生なりの解釈とサウンドで楽しませてくれた。個々のプレイヤーのサウンドがよくでき上がっているからなのか、輪郭のはっきりとした音楽とサウンドは、午後の高校の部の中でも、秀逸の感があった。中盤では、手品を見ているかのようにサウンドが飛び交う感じで、色彩感と映像感を持った立体的な音楽の演出は、大会を通じてもこのバンドだけが持つハイレベルな個性だったと言っていい。終盤の余裕を持った音楽の展開も非常に心地良いものだった。
2: 西関東支部 埼玉県代表 春日部共栄高等学校吹奏楽部 (指揮:都賀城太郎) 4年ぶり2回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
森の贈り物(酒井格)課題曲は、埼玉のバンドらしく、つぼを心得た快演だった。必要不可欠な要素が全て前面に出てきて、テンポ設定や全体としてのリズム感も素晴らしく、非常に安定した課題曲を提示していた。もうひとつ何かピリッとしたものが欲しいかなという部分もあるのは事実だったが、コンクールの場でそこまで求めるのは、酷なのだろう。ひとつ気になったのは、付点音符の後の音処理で、そこまでは配慮が行き届かなかったのが残念だった。さて、自由曲は、よく音符を追っかけてはいたが、こうした楽曲が持つビート感や、ニュアンスの表現までには行き届いてはいなかった。課題曲ではしっかりととられていたバランスでも自由曲では、随所で崩れていたのが残念。しかし、個々の技量も、アンサンブル力も、ハイレベルなものを持っているわけで、いかに自分達のサウンドと音楽性に合った曲を選択するかというのも、結果の大きな分かれ目になって来るのである。
3: 東関東支部 千葉県代表  習志野市立習志野高等学校吹奏楽部 (指揮:石津谷治法) 3休明け20回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
歌劇「トゥーランドット」より(G.プッチーニ/石津谷治法)東関東のご三家の一つ、習志野。課題曲がスタートすると同時に、これまでに高校の部では体験した事のない異質なサウンドに驚かされた。勿論いい意味である。粒立ちのいいサウンドというのは、このクラスになるとよく見られるわけだが、今日のこのバンドのサウンドは、ひとつひとつの音が、球体になっているかのような、耳辺りの良い、でいてエッジが効いているという、なんとも不可思議なものだった。クリスタルのようなサウンドとでもいうべきか。指揮者が交代した直後は、いまひとつサウンド的にも音楽的にも安定していない感が強かったが、今回の三出休暇を経て、見事に返信したと言っていいだろう。こうしたサウンドで繰り広げられる課題曲は、なんの心配も不安もなく、ゆったりと身をゆだねる事が出来た。さてこうした新たなスタイルのサウンドで望むプッチーニも、オペラのシーンが鮮やかに浮かんでくるかのような説得力を持った好演となった。非常に色彩豊かなサウンドが生み出す色彩豊かな音楽の世界、また高校の部の魅力がひとつ増えたという感じか。
4: 西関東支部 埼玉県代表  埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部(指揮 : 宇畑知樹) 2年連続8回目 金賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)

自由曲 :
「管弦楽のための協奏曲」より、終曲(B.バルトーク/森田一浩)この課題曲は、前日に柏中学校の指揮者が自作自演という事になったわけだが、その演奏よりも更に進化し完成したものを、伊奈学園は聞かせてくれたような気がする。これまでこの課題曲を取りあがけ来たどのバンドもなし得なかった表現と音楽的な解釈は秀逸のものであった。練習曲のような可愛さを持った旋律とハーモニーの部分、そして勇壮な凱旋行進曲のような部分が対比しながら進んで行くこの楽曲であるが、その対比が見事で、非常に気品に溢れた逸品にまでこの楽曲を高めたのは、このバンドならではの手腕だろう。課題曲の時点で、金賞を受賞するのは堅いと思われたが、続く自由曲も豊かでゴージャスなサウンドと、無理のない解釈の音楽が一体となって、独自の世界で終始聴取を圧倒していた。もちろん、個々の奏者の技術の確かさと、指揮者の要求に確実に答える反応の見事さがあってのものだという事は、忘れてはならない。ただ、バルトークをやるには少々サウンドまろやか過ぎたかも知れない。さすが現代の吹奏楽王国埼玉県の高校を代表するバンドのひとつである。
5: 北陸支部 石川県代表 金沢市立工業高等学校吹奏楽部(指揮:幸正勤也)3年ぶり7回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
歌劇「蝶々夫人」より(G.プッチーニ/後藤洋)冒頭から伸びやかな金管サウンドでスタートするが、伴奏と旋律、対旋律のバランスが悪く、全体的に主旋律が埋もれてしまっていたのが残念。この課題曲の冒頭は旋律の線が細いので、入念なバランス作りがその完成度を左右してしまうのである。中盤以降も、しっかりと音符をさらってはいるが、音楽的なバランスを全体として欠いていたのは残念。また、ホルンを中心とした中音域の楽器の充実もこれからの課題となるだろう。さて自由曲は、非常によく考えられたオーケストレションによるアレンジにも助けられたのか、バランスの良い、輪郭のくっきりとしたサウンドと音楽を作り上げていた。北陸バンドの特徴のひとつである伸びやかな金管サウンドも健在で、オペラの持つ世界観も非常に良く表現していたと思う。課題曲と自由曲の仕上がりの差が、惜しまれる。
6: 九州支部 福岡県代表 精華女子高等学校吹奏楽部 (指揮:藤重佳久) 2年連続11回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲:
交響曲第3番より 1, 3, 4(J.バーンズ)時代を経ても、毎年同じサウンドを聞かせるというのは、指導者の生徒への音楽の伝達が非常にうまいのか、そして頑なにそうしたサウンドを守り続ける姿勢に、ある意味で敬意を表したい。しかし、もうひとつの意味では、もっとサウンド的に生徒の自主性を持たしてもいいのでは・・・・という気もする。そういう意味で、非常にしっかりと作り上げられた課題曲なのであるが、その完成度が音楽にあるのでなく、演奏力にあるのが、このバンドの長所でもあり短所でもあるわけだ。自由曲は、そうしたこのバンドに非常によく合った楽曲だと言っていいだろう。後半はスタンディングとなったが、そのせいで木管のフレーズは消されてしまった格好になり、効果的にはいまひとつだったような気もする。さて、いつもこのバンドは、金賞に近い銀賞を取るわけだが、それは内から湧き出てくる音楽性というものが欠けているからではないかと個人的には思う。壮快感と痛快感は感じられても情緒感が感じられない・・・・その一線を越えれば、もう一皮むけたバンドに変身することだろう。
7: 東北支部 秋田県代表  秋田県立秋田南高等学校吹奏楽部 (指揮:阿部智博) 3年ぶり22回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
歌劇「ルル」より 5つの交響的小品(A.ベルク/天野正道)課題曲3のような楽曲の場合、比較的薄い和声で推移する前半は、楽器のブレンド感によって、拡がり感が出るかが勝負どころとなる。しかし、この学校の場合、そのブレンド感がいまひとつで、前半が非常に線の細いものになっていたのが残念だった。またこの前半において、舞台袖でシンバルが一度ならず、二度までも落下し、舞台上のサウンドをかき消すことになってしまったのは、非常に残念。さすがに二度目のアクシデントの後は、動揺もあったのではと、同情してしまう。課題曲のちゅうばんの緊張感の途切れは、そうしたアクシデントを少なからず影響したのだろう。後半はエッジの鋭いアンサンブルを展開していたが、やはりバランスに少々難有りだった。自由曲は、積極的な選曲に取り組んだが、音楽的にいまひとつ魅力的に欠ける楽曲で、後半は破綻状態になってしまっていて、オーディエンスに迫るものが感じられなかったのが残念。バンドの特質を生かす楽曲で、生徒が音楽を掌握出来るものを選択してはいかがかと思われる。個々の技量の高さはレベル以上のものがあるのだから。
8: 中国支部 広島県代表 鈴峯女子高等学校吹奏楽部 (指揮:宇根岡俊二) 2年連続6回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
エルサレム賛歌(A.リード)やや艶は欠けるものの、総じてダイナミックレンジの広いサウンドを持っているバンドである。が、奏者個々が感じているリズムが、それぞれにバラバラになってしまっているからなのか、アンサンブルがちぐはぐで、そのためにサウンドにもまとまりが無くなってしまっているのが残念。またバランスもいい部分と悪い部分の差が激しく、課題曲終盤のクライマックス部分では、それぞれがやりたい放題という感じで、いまひとつ突っ込んだ整理が欲しかった。自由曲は、艶に欠けるバンドには向かない選曲で、冒頭のファンファーレなども悲鳴のように聞こえてきてしまう。サウンドの艶は、音楽に表情をもたらすだけでなく、少々のピッチの狂いも見事にブレンドしてくれるパワーがあるわけで、このバンドもそれを修得すれば、見違えるような音楽を演奏するバンドになると思うのだが・・・・。基本的な演奏技術は持っているので、更なるグレードアップに励んでもらいたいものだ。
9: 東京支部 東京都代表 都立杉並高等学校吹奏楽部 (指揮 : 五十嵐清)  初出場 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
「おほなゐ」~1995.1.17 阪神淡路大震災へのオマージュ(天野正道) 課題曲の冒頭は、ほどよいブレンド感があって、非常に厚味のあるサウンドが再現されていた。が、初出場の緊張からなのか、その後のアンサンブルがちぐはぐで、音楽としてのまとまりに欠けてしまっていたのが残念。中盤以降も、サウンドのバランスを崩してしまい、実力通りのものを発揮することが出来なかったようである。しかし、木管楽器群のボリューム感のあるサウンドは、非常に心地よく、高校の部の中でも、特筆すべきものを持っていると思う。あとは全体としてのバランスをどう取るか、そして本番でもアンサンブルを崩す事なく適度に緊張ある音楽を持続するにはどうしたらいいのか、を追及してもらいたいと思う。さて自由曲は、「天災」扱う楽曲という事で、サウンドで天変地異を表現するために「音楽」というものから逸脱してしまう部分がある・・・・という事を認識しなければならない。
10: 四国支部 高知県代表  高知県立高知西高等学校吹奏楽部 (指揮:中山直之) 初出場 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
歌劇「はかなき人生」より、間奏曲とスペイン舞曲(M.ファリャ/仲田守)これは、四国の高校バンドに共通して言える事だが、音楽を演奏する時に、まず大切な「旋律をオーディエンスに聞かせる」という事が出来ていない高校バンドが毎年非常に多いような気がする。旋律がありハーモニーがあり、リズムがあり・・・・そういう基本的な事に、更に多くの時間をかけて取り組む事が先決だと思う。さてこのバンドのサウンドは個人的には好感が持てる類のものである。ユニゾンも非常に美しいが、縦の線がたまに揃わなくなるのが、難点か。この自由曲は、収録不可という事で、会場で生で聞けたのはラッキーだった。このバンドは強奏の時は、いい表情を見せるが、メゾフォルテより弱奏になると、音楽的な緊張感が欠けるのが惜しい。サウンドに自分達の感情をどう乗せるか、全国大会レベルになるとそういう事も、考えて音楽作りをして欲しいと思う。また舞曲の部分では、もっとリアルなサウンドで、ワルツの心髄を聞かせて欲しかった。しかし、いいサウンドを持っているのは確かなので、次回に期待しよう。
11: 東関東支部 千葉県代表 柏市立柏高等学校吹奏楽部 (指揮:石田修一) 3休明け17回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
アフリカの儀式と歌、宗教的典礼(R.スミス)コンクールという場を意識しない選曲や音楽で、コンクールである事を忘れさせてくれるような演出のさきがけは、おそらくこのバンドという事になるだろう。また課題曲の独特な解釈でも、このバンドは知られる。今回の課題曲もそういう意味では、非常に流れの重い異質な展開で、「風の舞」というよりは「黄河の流」という感じで、大陸的なまったり感のある演奏だった。このバンドの強さは、それを個性として聞かせてしまうところかも知れない。さて、このバンドにとって選曲は非常に重要な意味を持ってくる。今回の自由曲、選んだ素材といい、施したアレンジといい、そしてそれを解釈して演奏する奏者達の目線といい、他の団体ではなし得ない事を今回もやってくれた。こうした独自性をもって臨むというのも、ひとつのコンクール参加のあり方だと言えるだろう。もちろんその根底には、卓越した奏者の技量と、指導者の高い音楽性が必要不可欠となって来るわけだが。さて今回の自由曲には、どんなフォロワーが現れるのか、このバンドが演奏したあとは、そういう部分での楽しみもあったりする。今回のコンクールは、このバンドにとって、三出休暇明けのものとなったわけだが、まさに王者の凱旋にふさわしい圧倒的な拍手と喚声で迎えられた。
12: 北海道支部 北見地区代表 北海道遠軽高等学校吹奏楽部 (指揮 : 今井成実) 9年ぶり6回目 銅賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
交響曲第2番「キリストの受難」(F.フェルラン)課題曲の冒頭から、バランスが悪く、旋律が浮き出てこないのが残念。中盤は、リズム感はいいものの、サウンドのバランスや音楽的な整理がいまひとつで、なんとなくいろんな音が鳴っているという感じになってしまっていた。バランスも整理をする事で、場面場面に様々な表情を見せて欲しかったような気がする。後半も、打楽器は管楽器のバランスは非常に良かったが、音楽全体を検印する旋律が最後まで際だつことがなかったのが残念だった。さて自由曲になると、打楽器と管楽器のバランスが破綻を来たし、打楽器協奏曲のような感じになってしまっていた。一部の例外を除いて、打楽器はあくまでも、管楽器の旋律を際だたせるためのひとつの素材であり、それが主役以上になって荒だってしまうのは、好ましくないはずだ。常に、音楽を音楽として再現し、音楽を感じてもらうためには・・・・という事を考えて音楽作りに挑んでもらいたいと思う。
13: 東海支部 長野県代表  長野県松本美須々ヶ丘高等学校吹奏楽部 (指揮:山岸 明) 2年連続2回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
3つのジャポニスム(真島俊夫)豊かな響きと艶とブレンド感を持った木管群、という感じの課題曲のスタートだった。音楽的な輪郭もクリアで、非常に好感の持てる演奏だ。ただ、随所に見受けられるザッツの乱れや、アンサンブルの乱れが残念。終盤は緊張感をも持った演出が見事だったが、最後の解釈は少々?という感じだった。さて、自由曲は和の世界を演出したものであったが、サウンドがややまろやかな為に、輪郭やエッジが曖昧なものになってしまっていたのが残念。個々のパートのバランスについても、工夫が欲しかった。通常の西洋音階の楽曲を演奏する時とは、サウンドを異なものにしなければ、楽曲の持っているメッセージを充分にオーディエンスに伝えることは出来ない。しかし、せっかく美しいサウンドを持っているのだからそれを最大限に生かすための選曲というものを行う方が常套だとは思うが・・・・。
14: 関西支部 大阪府代表 大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部 (指揮:丸谷明夫) 2年連続27回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
「スペイン狂詩曲」より(M.ラヴェル/立田浩介)さて、柏高校とは全く正反対なのが、この淀工。オーソドックスなものを究極なまでにオーソドックスに演奏するのが、この学校のスタイル。しかし、それを完璧に実現するためには、かなりハイレベルな技量と、気の遠くなるような訓練が伴うものだ。今回もご多分に漏れず、非常にオーソドックスなスタイルの課題曲を、オーソドックスな解釈で聞かせてくれた。このバンドが凄いのは、そういった場合でも、他の団体が見つけられなかった、あるいは表現し得なかった要素をしっかりと発見して、それをしっかりと再現している事だろう。まさに究極の参考模範演奏と言えるのかもしれない。さて自由曲も、おなじみの楽曲を非常にオーソドックスに演じてくれた。しかしそんな中でも、木管の速いパッセージは、浮かんでは消える泡のように繊細でまろやかな肌触りで、またブラス系のサウンドは、金属の管から出てきたとは思えないような、マイルドな味わいで、フランス楽曲を的確に彩っていた。どんな状況でも、そうした事を再現出来る精神力の強さと、指導者と演奏者の絆の深さを感じさせてくれる名演だった。
1: 東京支部 東京都代表 中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部 (指揮 : 小塚 類) 2年連続29回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響曲第一番ニ短調作品13より第四楽章(S.ラフマニノフ/築地 隆)プログラム一番とはいえ、朝一ではないので、それがハンディキャップになることはないが、1日の審査の基準みたいにされてしまう分ハイレベルな演奏を残さないと、金賞にたどり着くのは難しい。卓越した指揮者のもと、課題曲の冒頭から、アンサンブルは素晴らしいが、サウンドがやや乾燥した艶のない感じで、特に東京文化会館では、そのサウンドが裏目と出たようだ。課題曲の中での、らしからぬミスも、このホールではよく目立つ。自由曲は、音楽の流れや全体的な表現力が素晴らしく、アンサンブルも比類内ものを見せていたが、ここでも、サウンドの肌触りの悪さが、ラフマニノフの情感を邪魔していたのが残念。演奏技術はハイレベルなので、今後のサウンドの立て直しが急務だといえるだろう。それから、パートごとに個々のサウンドの統一感を持たせる事も、全体のサウンドの安定感の演出には、重要だ。音楽的な表現は個人的には好きなバンドのひとつであるだけに、頑張って欲しい。
2: 東海支部 三重県代表 三重大学吹奏楽団 (指揮:沖 公智) 2年連続29回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響組曲「春」より 第2楽章(C.ドビュッシー/沖公智)かつてはまろやかなサウンドでフランスものを取り上げ、流麗な音楽を効かせるという事で定評があったが、ここ数年は、その影は潜めてしまっている。課題曲の冒頭からピッチが不安定で、サウンドのバランスも悪く、音楽的なバランスも悪く、すべてが不明瞭なまま課題曲は終わった。自由曲になっても、サウンドに艶は戻らず、お得意であるはずのドビュッシーの楽曲も、その絶妙なハーモニーを再現するには至らなかった。昔からのファンとしては、かつてのような、派手ではないものの、柔和なサウンドでフランスものを紹介するバンドサウンドに復活してもらいたいものだと思う。
3: 東北支部 宮城県代表 東北福祉大学吹奏楽部 (指揮 : 松崎泰賢) 2年連続3回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
「スイート・エキセントリック」より(天野正道)課題曲の冒頭は、ペットの立ち上がりが悪く、いまひとつ音楽に乗りきれなかったが、中盤のアンサンブル以降は、サウンドも音楽の流れも波に乗り出し、安定さを増していった。しかし、アナリーゼがいまひとつ不足している感じで、音楽的に整理されないまま本番を迎えてしまった感じだった。一方自由曲は、このバンドのサウンドによく合う楽曲で、個々の楽器の利点をよく生かした演奏だった。が、後半は調子が出すぎたのか、木管と金管がバランスを崩し、やや喧しい演奏になってしまったのが残念。サウンドの整理が望まれる。
4: 東関東支部 茨城県代表 流通経済大学吹奏楽部 (指揮 : 喜多原和人) 4年ぶり2回目 銀賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
交響曲第2番「キリストの受難」(F.フェルラン)課題曲は、よくアナリーゼがほどこされていたが、サウンドの整理までは出来なかった感じで、旋律が全体の中に埋もれてしまっていたのが残念。この曲は一見簡単なようで、旋律と対旋律が一緒に動くなど、絶妙なバランス統制が求められる部分のある楽曲なので、ちょっとしてバランスの乱れが致命傷になってしまう。また個々の楽器に大学生ならではの大人の息吹を吹き込んで演奏して欲しかった。自由曲では、技術的部分はよくこなしていたが、その音符を、どういうサウンドで外に出していくかというアプローチには至っていなかったうだ。またひとつひとつの音階をしっかりと安定させて、耳あたりよく全体のサウンドをまとめあげて欲しいなという感じもした。
5: 九州支部 福岡県代表 福岡工業大学吹奏楽団 (指揮 : 柴田裕二) 3年連続7回目 金賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
シンフォニックバンドのためのパッサカリア(兼田 敏)前半の中において、最も耳当たりのよい、流麗なサウンドを持ったバンドだった。課題曲冒頭の発音もきれいで、コンクールで聞いた課題曲4の中でも秀逸のできばえだった。それにしても、この学校のバンドって、前からこんなに人数いたっけかな?というぐらいの大所帯バンドに変わっていたのにびっくり。でも、アンサンブル等のまとまりも見事で、非常に安定感と安心感のある課題曲だった。さて自由曲は、この大学の附属高校の指揮者の十八番的楽曲。指導にきてもらったのかどうかは定かではないが、この自由曲でも、サウンドのクリアさ、そして艶、そして音楽の流れは美しく、天国にいる兼田敏氏も、メガネの奥で瞳を潤ませていたのではないかと思われる。後半のサウンドのコントラストも見事で、立体的に音が飛び交うパッサカリアを久々に聞いた。これで、九州支部の大学の部としては、1971年の福岡大学の受賞以来の金賞を受賞した事になる。う~ん、30年以上も金賞が無かったとは・・・・。
6: 北陸支部 石川県代表 金沢大学吹奏楽団 (指揮 : 新井田悠)3年連続11回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
ジェリコ(B.アッペルモント)ここ数年、安定感のある演奏を聞かせてくれている金沢大学だが、このバンドが一皮むけた存在になるためには、内声部の整理と安定だろう。音楽の輪郭となる低音部と、高音部については、非常に高い技術で表現されているが、内声部にあまり気を使っていないのかどうなのか、音程も不安定で、やや乱暴な処理が目立つ。外装だけでなく、内装や、目や耳には触れにくいそのまた内部をしっかりと整理して安定させてこそ、音楽に立体感が出てくる。指揮者は学生なのかどうかはわからないが、そうした細部へのこだわりが、今後の大きな課題と言えるだろう。演奏技術や、音楽的な解釈表現は、非常に聞きやすいものを持っているので、細かい配慮の徹底でバンドが化けるのを楽しみにしていよう。
7: 西関東支部 埼玉県代表 文教大学吹奏楽部 (指揮 : 佐川聖二)3休明け14回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
交響曲第8番 作品121より (M.アーノルド/瀬尾宗利)お休み明けの演奏となったが、前回の3年連続出場の時よりも一回りも二回りもスケールの大きくなった感じがした。課題曲は冒頭から、音楽の流れもバランスも見事で、非の打ち所のないものだった。重箱の隅をつつけば、多少のアンサンブルの乱れはあるものの、そういう事を論じる事自体が意味のないほど、完成された課題曲だった。以前は、木管の美しすぎるまでのサウンドによる繊細な響きをモットーとしていたような気がするが、この日の演奏は、それにエッジが加わった、ダイナミックレンジの広いサウンドになっていた。自由曲は、一見楽しそうで、簡単そうに聞こえる楽曲ではあるものの、中盤以降の内声部の作りが非常に難しい楽曲で、そうした細部まで神経の行き届いた音楽作りで、かくの違いを見せつけた。個々の演奏技術も何も言うことは無く、クライマックスでの超絶技巧アンサンブルには舌を巻くばかりだった。
8: 関西支部 京都府代表 立命館大学応援団吹奏楽部 (指揮 : 篠原康浩) 初出場 銀賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)
自由曲 :
三つの交響的素描「海」より、風と海との対話(C.ドビュッシー/淀彰)課題曲の冒頭は初出場とは思えない、堂々とした歌いっぷりだったが、細かいアンサンブルのズレや、個々の奏者の技量のアンバランスが、全体的な音楽の統一感を欠いてしまっていた。主旋律をどう聞かせるか、そのための絶妙なバランスを追及する事を心がけて欲しい。しかし艶のあるサウンドには非常に好感が持てた。自由曲は、ペットのソロも伸びやかで、無難に音楽を展開して行くが、もうひとつ主張みたいなものが大学の部なら感じられてもいいのでは・・・・と思うのも事実。今回初出場という事で、これから新たな歴史を作っていくのだろうが、こうした可能性の大きなバンドに出会えるのは、聞く側として幸せな事である。
9: 東京支部 東京都代表 駒澤大学吹奏楽部 (指揮 : 上埜 孝)  3休明け17回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(田嶋 勉)

自由曲:
組曲「惑星」より木星(G.ホルスト/建部知弘)予選を含めて、これで3回目の演奏を聞いたことになる。何度聞いても、このバンドの課題曲の音楽的な流れは素晴らしい。個々の技術も平均してハイレベルなので、まずサウンドがいつも安定して統一感を持っている。またひとつの楽器が長いフレーズを演奏するのは、ある程度にまで達したバンドならそれなりにたやすい事であるが、旋律を次々に受け渡して行く場合に、流れを損なわずにひとりのプレイヤーが演奏しているかのように聞かせるのは、そう簡単な事ではない。このバンドの素晴らしさは、そういう事も完璧にやってのけるところである。こんな完成度の高い課題曲をやられてしまっては、金賞以外にあげるものはないだろう。そして自由曲は、かつてのコンクールの流行り曲。冒頭のクラリネットのタンギングから、重厚にしかしさらりと歌い上げる牧歌的中間部、そしてトゥッティでも微動だにしない安定感は秀逸。そして、エンディングまで、コンクールという場であるのを忘れて、音楽そのものを堪能させて頂いた。個人的にもすべての プレイヤーが素晴らしいが、やはりトランペットの彼は特に木星での存在感が抜群で、楽曲全体の手綱をしっかりと締めていた。予選からファイナルまで全く崩れることのない精神力はお見事。全体的にはブラス系が若干鳴りすぎの感もあったが、それでも決してうるさくならないのは、さすがと言ったところだろう。そして何と言っても、鳴りやむことのない拍手と喚声は、この日最大にして最長のものだった。真打ちの面目躍如である。
10: 関西支部 京都府代表  龍谷大学学友会学術文化局吹奏楽部 (指揮 : 若林義人) 3年連続11回目 金賞
課題曲 5: サード(田渕浩二)
自由曲 :
七五三(酒井 格)ここ数年のこのバンドの安定感は、サウンド音楽、共に頼もしいものがある。課題曲は、今年も5を選択。守りに入らない姿勢も頼もしい。ただ、今年の課題曲5は、去年に比べると、普通の課題曲という感じがしないでもないが、やはり選択して来る団体が少ないので、聞き応えは充分だ。非常に現代風の整理された艶やかなサウンド奏でられる楽曲は、耳当たりが心地よい。アンサンブルも危なげないところはなく、終始安定したサウンドで聴衆をリードした。自由曲は、ここ数年よく取り上げている作曲家の作品。こういう曲調はもう手慣れたもののようだが、毎年演奏を聞く側としては、楽曲にあまり変化がない為か、わくわく感や期待感に欠けてしまうのも事実。私立大学という立場上、金賞を取る事が至上命令であるというのもわからないではないが、このバンドのバリエーションにも接してみたいものである。それにしても、楽曲の内容とそのタイトルがどうしても最後まで結びつかなかったのは、私だけだろうか・・・・。
11: 北海道支部 函館地区代表 北海道教育大学函館校吹奏楽部 (指揮 : 渡部謙一) 2年ぶり20回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
南蛮回路(伊佐治直)金賞常連バンドが続いた後に登場して来ると、どうしても、ピッチの不安定さや、楽曲へのアプローチ不足が目だってしまう。アンサンブルの乱れや、ザッツのズレも必要以上に目だってしまったのはかわいそうだった。自由曲は、オープニングからおやっと思わせるおもしろい楽曲だったが、曲が進むに連れて、この曲をコンクールでやる事の意味がわからなくなって行ったのも事実。後半は、歌が入ったり、ナレーションが入ったりするという、意外性のある展開であったが、なんか聞く側の頭の中が混乱しているうちに、終わってしまった感じだった。構成要素が多い楽曲を主張を持って聞かせる為にはもっとひとつひとつの要素を丁寧に整理する事が必要だろう。ただ、奏者たちが非常に楽しそうに演奏しているのが、救いではあった。
12: 中国支部 岡山県代表 川崎医療福祉大学ハートフルウインズ (指揮 : 岩田俊哉) 4年ぶり3回目 銅賞
課題曲 5: サード(田渕浩二)
自由曲 :
エスカペイド(J.T.スパニョーラ)前年、全国大会金賞を受賞した広島大学を押さえての中国代表として出てきたこのバンド。課題曲は5に挑戦して来たが、龍谷の演奏を聞いたあとだけに、その訴求の不完全さが気になった。特に、内声部が非常に細かくうごめいていく楽曲なだけに、完全な形で表現するには、かなりの技量が要求される楽曲なのである。一方、サウンドの方は、ピッチの不安定さは少々気になったが、総じてダイナミックレンジの広い、クリアなもので、好感が持てた。もっと細かくバランスを取れば、非常にいいサウンドになるのではないかと思う。自由曲は非常にのびのびと演奏している感じが良かった。が、例えばスタンドプレイをするなら、それなりの顔の表情などの演出も大学生ならば必要だろうし、ジャズ的な要素を持つ場面では、ビート感の追及と再現力が必要だとも思われる。しかし、まだまだ伸びていく可能性を感じさせてくれたのも事実で、今後の展開を楽しみにしていたい。
1: 東関東支部 神奈川県代表  NEC玉川吹奏楽団 (指揮 : 稲垣征夫)2年連続26回目 銀賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」より、奇蹟の中の奇蹟、ワルツ、サンライズ・サンセット、人生に乾杯 (J.ボック/杉本幸一)
2: 東京支部 東京都代表 NTT東日本東京吹奏楽団 (指揮 : 山田昌弘) 2年ぶり6回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
交響組曲第2番「GR」より(天野正道)
3: 中国支部 広島県代表 NTT西日本中国吹奏楽クラブ (指揮 : 金田康孝) 3休明け39回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
歌劇「ポギーとベス」より(G.ガーシュイン)
4: 東海支部 静岡県代表 ヤマハ吹奏楽団浜松 (指揮 : 河原哲也) 3年連続31回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
蒼天の滴(抜粋)(長生淳)
5: 九州支部 福岡県代表  ブリヂストン吹奏楽団久留米 (指揮 : 小野照三) 3休明け34回目 金賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲より 夜明け、全員の踊り(M.ラヴェル/真島俊夫)
6: 関西支部 大阪府代表 松下電工吹奏楽団 (指揮 : 小野川英和) 4年ぶり6回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
セント・アンソニー・ヴァリエーション(W.H.ヒル)
7: 東北支部 山形県代表 山形市役所吹奏楽団 (指揮 : 佐藤裕司) 2年連続2回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
組曲「マ・メール・ロワ」より (M.ラヴェル/森田一浩)
8: 北海道支部 日胆地区代表 新日鐵室蘭吹奏楽団 (指揮 : 吉田昌弘) 2年連続21回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
ケルティック・ノッツ(ケルト風な組み紐)(G.リチャーズ)
ここ数年、年を追うごとにレベルが高くなってきた感じのしていた一般の部であるが、今年はそれが一段落して足踏み状態に入った、そんな印象を受けた。まずは課題曲の仕上がりと、当日の演奏能力が、賞毎にはっきりくっきりと差がでていた事だ。この日に金賞を取った団体は、課題曲に穴が無く、ほぼ完璧な形で再現していた団体のみであった。そして不思議と課題曲がサウンド的にも安定している団体は、自由曲のサウンドも非常に心地よく耳に飛び込んでくるのである。それが最もよく出ていたのが、土気シビック創価グロリアだろう。課題曲は自由曲の音楽としてバランスも素晴らしい選曲で、12分間がひとつの空間であるかのように、演出されていた。また名取交響吹奏楽団は、荒々しい音楽を荒々しいサウンドで強奏して行く団体も多い名かで、会場のキャパシティに最もマッチしたサウンドと絶妙な抑揚で、人々を引きつけた。そんな中で、今回最も気になったのは、一般の部では新曲を取り上げるバンドも多いわけだが、音楽としての吟味がなされたのかどうかという点だ。もちろん1曲の中に非音楽的な部分があるというのは、意図的であれば問題ないわけだが、曲全体の印象がそれだけで終わってしまうようなものを、果たして、奏者達は毎週のように演奏して来て、音楽の楽しさを味わっていたのだろうか・・・・・という事である。もちろん、そうなのであれば、老婆心に過ぎないわけだが、もしそうでないとすれば、こさは吹奏楽がミュージックシーンからますます孤立して行ってしまう要素のひとつになりはしないだろうかという、一抹の不安を覚えてしまうのである。
1: 四国支部 愛媛県代表 松山市民吹奏楽団 (指揮 : 山橋史仁) 16年ぶり9回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
「ミス・サイゴン」より、序曲、我が心の夢、サイゴン陥落、今がこのとき (C.M.シェーンベルク/宍倉晃)
2: 東北支部 秋田県代表 秋田吹奏楽団 (指揮 : 佐藤正人) 2年ぶり6回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
イントゥ・ジ・エアー(T.マー)課題曲の冒頭の音程のズレはこのバンドらしからぬものであったが、久々の全国の舞台という緊張感がなせたものだったのだろうか。その部分を除いては、課題曲も自由曲も、非常に硬質ながら、重量感と艶を持った本来のサウンドで、これぞ一般の部という音楽を展開してくれた。非常に精度も純度も高い音楽だっただけに、課題曲の不振が悔やまれる。また自由曲においては、まるで3D映画のように、サウンドが飛び交う様が、非常に楽しかった。作曲家のオーケストレーションによる処も大きいのだろうが、それを実際にあそこまで再現してしまうこのバンドの底力は、やはり並大抵のものではない。久々の秋田サウンドに私自身は酔わせていただいた。
3: 北海道支部 札幌地区代表 ウインドアンサンブル・ドゥ・ノール (指揮 : 仲田 守) 3年連続3回目 銀賞
課題曲 5: サード(田渕浩二)
自由曲 :
グラゴール・ミサ曲より(L.ヤナーチェク/仲田 守)
4: 西関東支部 埼玉県代表  伊奈学園OB吹奏楽団(指揮 : 宇畑知樹) 8年ぶり2回目 銀賞
課題曲 2: エアーズ(田嶋 勉)

自由曲 :
「スペイン狂詩曲」より 4. 祭り(M.ラヴェル/森田一浩)
5: 東関東支部 千葉県県代表 土気シビックウインドオーケストラ (指揮 : 加養浩幸) 3休明け7回目 金賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
ラザロの復活(樽屋雅徳)非常に重厚でダイナミックレンジの広いサウンドで課題曲はスタートした。冒頭こそ、若干のアンサンブルの不安定さが見られたが、アナリーゼの行き届いた解釈と、個性溢れる表現力の前では、全く問題にならなかった。自由曲でも、重量感のあるサウンドは崩れることなく、聴衆を魅了する音楽を繰り広げた。常連バンドが、調子を崩して行く中で、微動だにしない存在感は立派だ。それから、この日の一般の部は、多くの邦人作品が演奏されたが、中には音楽的に疑問符のある楽曲も多い中、土気シビックが選択した作品は、情景が眼前に浮かんでくるような魅力を持った作品だった。コンクールにおいては、こういう選曲のセンスもこれからは重要な要素となって行くのだろう。一般の部を代表するバンドにふさわしく、重厚な中にも、終始、流麗さと輝きを失うことのない音楽の持続感は、今大会随一のものだったと思う。
6: 中国支部 岡山県代表 倉敷市民吹奏楽団グリーンハーモニー (指揮 : 佐藤道郎) 3年連続8回目 銀賞
課題曲 5: サード(田渕浩二)
自由曲 :
楽劇「サロメ」より 七つのヴェールの踊り(R.シュトラウス/M.ハインズレー)
7: 九州支部 福岡県代表 大牟田奏友会 (指揮 : 小塚 類) 2年連続10回目 銀賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
シンフォニア・ハンガリカ(J.V.デル・ロースト)
8: 北陸支部 福井県代表 ソノーレ・ウインドアンサンブル (指揮 : 広比知徳) 7年ぶり5回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
「放射と瞑想」より、パート1、パート2(天野正道)
9: 東京支部 東京都代表 創価グロリア吹奏楽団 (指揮 : 佐川聖二) 3年連続5回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
カントゥス・ソナーレ(鈴木英史)東京都の予選~本選、そして全国大会と聞かせてもらってきたが、ごくまれに小さな傷はあっても、その音楽性とサウンドは微動だにしないのが、このバンドの持ち味だろう。課題曲1においては、締太鼓のサウンドの管楽器とのブレンド感が絶妙で、大会随一のものであったと言って良い。また、メンバーが男性のみという事で、腰骨のしっかりとしたサウンドも安心感と安定感が頭抜けている。それに情緒が備わっているのだから、全く死角ないと言っても過言ではないだろう。積み重ねて行くこと、続けていく事の大切さをも、このバンドはそのサウンドと音楽で私たちに教えてくれる。ところで来年は、このバンドのお休みの年。代わって東京を代表してくるのはどこなのか、その辺の興味も早くも沸いてきてしまうのである。
10: 関西支部 大阪府代表  創価学会関西吹奏楽団 (指揮 : 伊勢敏之) 2年ぶり10回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)

自由曲 :
四つの交響的印象「教会のステンドグラス」より、大天使ミカエル(O.レスピーギ/藤田玄播)
11: 東北支部 宮城県代表  名取交響吹奏楽団 (指揮 : 近藤久敦) 2年ぶり12回目 金賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
「3つのジャポニスム」より(真島俊夫)このバンドが演奏した課題曲4は、今回のコンクールを通じて、最高の出来栄えだった。いろんな楽団が究極の精神状態の中、ミスを乱発して行った冒頭のシーンもさりげなく美しく描かれ、さまざまな鳥たちがさえずり合うシーンでは、いく種類もの鳥の様子を彷彿とさせ、中盤の16ビートを完璧に展開したのは、おそらくこのバンドだけで、その後のファンファーレも、居ずまいを正したくなるかのような荘厳さをたたえていた。ここ数年、東北大会や全国大会でこのバンドのサウンドと演奏を耳にして来たが、指揮者と奏者が一体となった極上の域に達したと言ってもいい課題曲だった。自由曲も、和の世界を、非常にはっきりとした輪郭持ったサウンドと、完璧なまでに統一感を持った内声部が、美しくブレンドされ、「鳴らす」事に重点を置いたバンドが多くみられる中で、この会場に相応しい音量と、トゥッティでも微動だにしない安定感のあるサウンドで、数少ない「音楽」を感じさせてくれる演奏を残した。効果音の演出も、ボリューム感も完璧で、自然と映像が浮かんでくる、数少ない演奏だったと思う。ブラボー!!
12: 関西支部 滋賀県代表 大津シンフォニックバンド (指揮 : 森島洋一) 3年連続7回目 金賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
「鳳凰」~仁愛鳥譜(鈴木英史)このところ、やや精彩を欠いているこのバンドであるが、今回も、かつてのような華やぎと輝きを感じることは出来なかった。課題曲は、お得意とする曲調ではあるが、音符をしっかりと再現はしているものの、情景描写に乏しく、脂が乗り切っていない、乾燥したサウンドと音楽になってしまっていた。しかし、安定したアンサンブル力は、さすがである。自由曲も、和の世界を演出した作品を取り上げたが、全体的にオーケストレーションが分厚いサウンドをスケッチしているせいか、終始、何を言いたいのか何を伝えたいのかがはっきりとしない演奏ではあった。アナリーゼ不足なのか、楽曲がバンドの色に合っていないのか・・・・演奏能力と合奏能力は非常に高いのだが、音楽的には、終始ちぐはぐなまま、終焉を迎えた感じになってしまっていたのが残念だった。
13: 九州支部 佐賀県代表 佐賀市民吹奏楽団 (指揮 :南里隆弘) 2年ぶり9回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
歌劇「トスカ」より、第三幕(G.プッチーニ/飯島俊成)
14: 東海支部 静岡県代表 浜松交響吹奏楽団 (指揮 :浅田 享) 3休明け7回目 銅賞
課題曲 3: 祈りの旅(北爪道夫)
自由曲 :
ライフ・ヴァリエーションズ ~生命と愛の歌~(鈴木英史)課題曲の冒頭から、そのサウンドが非常に薄めであるのにまず驚いた。こんなサウンドのバンドではなかったはずだ。こうしたサウンドのままフォルテシモを演奏されると、思わず耳をふさぎたくなってしまうのは、明白だろう。特に自由曲では、何を表現しようとしているのか、何を伝えようとしているのか、全くわからないものだった。そして迎えたクライマックスの許容範囲を超える強奏によって、音楽という二文字がこなごなにくだけてしまった。技術力も表現力も持っているはずなのに、何がこのバンドの方向性を変えてしまったのだろうか・・・・。奮起と巻き返しに期待したい。
15: 東関東支部 神奈川県代表  横浜ブラスオルケスター (指揮 : 中村睦郎) 3年連続4回目 銀賞
課題曲 4: 鳥たちの神話(藤井 修)
自由曲 :
コリアン・ダンス(高昌帥)課題曲の冒頭からのミスでびっくりさせられ、その後も音程が狂うなどのミスが続いたのに聞く側も演奏する側も動揺したのではないかと思われる。およそこのバンドからは想像出来ない展開で、いつになく緊張感が走った。終盤は盛り返すが、自由曲では課題曲の不振を挽回しようと思ったのかどうか、とにかく音楽を聞かせるというよりは、強引にねじ伏せるという感じの演奏になってしまっていた気がした。演奏力も非常に高いし、指揮者の能力も非常にハイレベルであるこのバンドが追及すべきは、音楽を音楽として聴衆を楽しませる事ではないかと思うのだが、それを今回は感じることが出来なかったのが残念だった。しかし、このバンドに対する人々の期待感が代わることはない事も、その技術の高さが証明してはいたが。
16: 西関東支部 山梨県代表 創価山梨リード吹奏楽団 (指揮 : 吉田孝司) 4年ぶり2回目 銅賞
課題曲 1: 吹奏楽のための「風之舞」(福田洋介)
自由曲 :
ディオニソスの祭(F.シュミット)