『古代氏族系譜集成』の当時の説明文と現在使用する場合の留意点
(以下は当時の新聞記事の一部です) |
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『古代氏族系譜集成』ご利用の際の留意点
本HPで引用・参照として『古代氏族系譜集成』(以下「集成」という)をあげますが、現時点で利用に際しての注意点をあげておきます。 1 同書は昭和61年(1986)4月に刊行されており、当時、編著者の管見に入り編纂に利用できた資料をもとに作成にベストを尽くしたと聞いています。しかし、刊行の後二、三〇年超経ったところで、その後に分かってきた事情・資料や研究の進展がありますので、当然のことながら、現時点での知識などをもとに所載の系図を見直す必要も出てきています。一般論として、系図はいつでも多面的な検討を必要とするものです。
刊行後に分かってきた系譜関係資料としては、薩隅日の南九州地域の系図(五味克夫氏の研究論考や『宮崎県史』『鹿児島県史料』などもあります)、豊前豊後の宇佐神宮祠官関係の系図(『大分県史料』などの刊行物もあります)、賀陽臣など吉備一族の系図(『岡山県通史』に記載)、及び鈴木真年・中田憲信関係の著作でも当時編著者が認識しなかったもの(三輪君の系図など)などの日本の史料に加え、中国・朝鮮半島の系譜史料(東洋文化研究所所蔵史料の閲覧が可能です)もあります。 2 集成では編纂時点までに様々な検討を加えてほぼ信頼できそうな系図を本文や「間話休題」(「間」の字はよく誤記と指摘されたが、誤記ではない。「間」に挟んだ話しという意味です)で記述し、記事などに信頼性が欠ける可能性もあるものも含めて一応の参考になると思われる系図は、「参考系図」で掲載したものです。偽造と判断した国宝「海部系図」などや信頼性が欠けるとみられる系図は掲載しない方針でした。
ところが、集成刊行後にも検討を加えた結果、現時点で見直すと、本文や「間話休題」のなかにも僅かであるが信頼性が多少とも欠けそうな系図の存在(例えば、1446頁所載の秦忌寸(三))も分かってきています。
3 系図の編纂過程においては、原典通りの記載をそのまま転載して行うものではないことに留意されます。多くの関係史料・同種史料を突合させて、問題の個所では、最も妥当だと考えられる原型・史実を探る作業が必要となるわけです。系図における文字や系線なども十分注意する必要があります。集成の編纂に当たっては、こうした留意をしたものと聞いていますが、それでも編纂者の当時の認識・知識などの事情で、原典の単純な誤解や誤記もまったくないとはいえません。これらは、系図の転写過程にあっても、まま生じることでもあります。
こうした事情がありますから、集成の利用者はできるだけ原典にあたって確認され、そのうえでご自身の判断力で問題となる系譜を総合的具体的に検討されるよう望まれるところです。もちろん、系図等の原典自体も、数種類あることがあり、総合的に考えることが必要ですし、しかも、現伝・現存する史料のそれらがいつも正しいものとは限らないものに留意することが必要ですが。多くの人々の叡智と努力とを結集して、すこしでも系図の原態に近づけるようにつとめたいものです。 (06.7.16 掲上。その後に若干追捕)
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