戻る

 
 『古代氏族系譜集成』の当時の説明文と現在使用する場合の留意点

 



  (当時のパンフレット)


                           宝賀寿男編著
                      造  本・B5判,上製布クロス装凾入
                      上巻・720頁,中巻・720頁,下巻・360頁
                      発  行・昭和61年4月下旬頃予定
                      頒布価格・全3冊セット30,000円(送料込み)

 著者の十数年の日本古代史研究の中で収集した約400の氏族系譜の集大成であり,四年余
をかけて著作した氏族研究の一大労作。古代及び中世の系図研究に必須の書。

<本書の特色>
1 明治の偉大な系図学者鈴木眞年の研究の足跡を追いながら,明治中期以降埋もれた貴
 重な系譜を発掘し,多数の古代氏族(表題の姓氏数で約400)及びその後裔の系譜を検討
 して,系図の原型を探究した成果を平安初期の新撰姓氏録をふまえて体系的に整理する
 とともに,一般に流布するいわゆる偽系図(系図の仮冒)の批判的分析を行っている。

2 所収系譜は基本的に源平藤を除く古代の雄族であるが,姓氏とそれから派生した苗字
 についても流れが理解できるよう記載している。姓氏は源平藤橘だけではなく,古代氏
 族も脈々と生きていることがよくわかる。

3 原則として,氏姓時代及び奈良,平安時代を対象期間とし,この時代の雄族の系譜の
 集成をはかっているが,鎌倉,室町,戦国時代の公家,社家及び豪族も併せ収め,更に
 は江戸時代の大名家についても考察を加えている。

4 系図学の大家太田亮博士をはじめ系図研究者が認識していないほどの広い範囲で系譜
 を収集しており,その地域分布は近畿に限らず,全国に及んでおり,中国及び朝鮮半島
 からの渡来氏族についても多数掲載している。

5 本書所載の著名な歴史上の人物では,小野妹子,秦河勝,柿本人麿,吉備真備,玄妨,
 阿倍仲麿,坂上田村麿,在原業平,大友黒主,滋野貞主,大江音人,清少納言,赤染衛
 門等々,これまでその系譜が不明確であった入物についての明確な系譜上の位置づけを
 与えて出自を明らかにするとともに,その後裔についても記述している。
  また,中世以降の著名人でも三善康信,日蓮,竹崎季長,織田信長,浅井長政,徳川
 家康,豊臣秀長,前田利家等の関係系譜を記載している。

6 掲載の系譜には,その出典を明示するとともに,詳しい註をつけて異説や原型につい
 ての著者の考え方を示している。なお,系図部分は手書きの写真複製により,出版に伴
 う誤植を回避している。

 本書についての照会は下記まで
 
    古代氏族研究会

 ※当時は下記に連絡先がありましたが、現在はここにはありませんので、ご注意下さい
 ( 当時の住所:〒543 大阪市天王寺区上本町6丁目9−10 青山ビル本館501−A号)
 ( 当時の電話 TEL 06−773−6946 )
 

   (以下は当時の新聞記事の一部です)


              『古代氏族系譜集成』ご利用の際の留意点

      


 本HPで引用・参照として『古代氏族系譜集成』(以下「集成」という)をあげますが、現時点で利用に際しての注意点をあげておきます。

 同書は昭和61年(1986)4月に刊行されており、当時、編著者の管見に入り編纂に利用できた資料をもとに作成にベストを尽くしたと聞いています。しかし、刊行の後二、三〇年超経ったところで、その後に分かってきた事情・資料や研究の進展がありますので、当然のことながら、現時点での知識などをもとに所載の系図を見直す必要も出てきています。一般論として、系図はいつでも多面的な検討を必要とするものです。

 刊行後に分かってきた系譜関係資料としては、薩隅日の南九州地域の系図(五味克夫氏の研究論考や『宮崎県史』『鹿児島県史料』などもあります)、豊前豊後の宇佐神宮祠官関係の系図(『大分県史料』などの刊行物もあります)、賀陽臣など吉備一族の系図(『岡山県通史』に記載)、及び鈴木真年・中田憲信関係の著作でも当時編著者が認識しなかったもの(三輪君の系図など)などの日本の史料に加え、中国・朝鮮半島の系譜史料(東洋文化研究所所蔵史料の閲覧が可能です)もあります。

 集成では編纂時点までに様々な検討を加えてほぼ信頼できそうな系図を本文や「話休題」(「間」の字はよく誤記と指摘されたが、誤記ではない。「間」に挟んだ話しという意味です)で記述し、記事などに信頼性が欠ける可能性もあるものも含めて一応の参考になると思われる系図は、「参考系図」で掲載したものです。偽造と判断した国宝「海部系図」などや信頼性が欠けるとみられる系図は掲載しない方針でした。
 ところが、集成刊行後にも検討を加えた結果、現時点で見直すと、本文や「間話休題」のなかにも僅かであるが信頼性が多少とも欠けそうな系図の存在(例えば、1446頁所載の秦忌寸(三))も分かってきています。
 
 系図の編纂過程においては、原典通りの記載をそのまま転載して行うものではないことに留意されます。多くの関係史料・同種史料を突合させて、問題の個所では、最も妥当だと考えられる原型・史実を探る作業が必要となるわけです。系図における文字や系線なども十分注意する必要があります。集成の編纂に当たっては、こうした留意をしたものと聞いていますが、それでも編纂者の当時の認識・知識などの事情で、原典の単純な誤解や誤記もまったくないとはいえません。これらは、系図の転写過程にあっても、まま生じることでもあります。

 こうした事情がありますから、集成の利用者はできるだけ原典にあたって確認され、そのうえでご自身の判断力で問題となる系譜を総合的具体的に検討されるよう望まれるところです。もちろん、系図等の原典自体も、数種類あることがあり、総合的に考えることが必要ですし、しかも、現伝・現存する史料のそれらがいつも正しいものとは限らないものに留意することが必要ですが。多くの人々の叡智と努力とを結集して、すこしでも系図の原態に近づけるようにつとめたいものです。
                                                                                    
   (06.7.16 掲上。その後に若干追捕)





               系譜部トップへ