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司法試験:国際関係法(私法系)2025年度



試験の実施〕〔試験問題〕〔司法試験のデジタル化〕〔受験者数の公表


■試験の実施

2025年度の司法試験は、7月16日から20日まで実施され、受験予定者数と試験問題が以下のサイトに掲載されました。
https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00265.html

まず、受験予定者数をみると、今年は僅か4,070人であり、これでは、合格者数は1,500人どころか、1,000人でも多すぎるくらいです。過去を振り返れば、2021年と2022年は3,000人台でしたが、2023年から在学中受験が始まり、4,000人台になり、無理やり合格者を1,500人以上にしたい、という目論見があるようです。

しかし、これでは、司法試験合格者のレベルは下がる一方です。最難関試験の名が泣きます。何よりも司法試験合格者を受け入れる司法研修所や各地の裁判所・弁護士事務所などが困るでしょう。二回試験のことは、よく分かりませんが、仮に二回試験を合格しても、彼らを雇う弁護士事務所や企業の法務部が困るのではないでしょうか。

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■試験問題

昨年と同様に、第1問が財産法、第2問が家族法であり、前者が1頁強、後者が1頁半です。以前のように長文を読ませるのは、もはや無理です。内容的にも、とくに第1問は、レベルを下げすぎではないかと心配になってきます。

第1問は、設問1が民訴法3条の4第2項および通則法12条、設問2が通則法17条および20条を丁寧に解釈することを求めています。その意味では、基本を確認するものです。受験者が通則法20条に飛びついて、安易に日本法適用の結論を導きたがるのではないか、という点だけが心配です。

第2問の設問1は、通則法6条を丁寧に解釈することを求めています。ただし、民法の失踪宣告に関する規定の理解も求めており、それは、国際私法ではなく、国際関係法(私法系)であることを意識しているのかもしれません。

設問2の小問1の(1)は、家事事件手続法3条の3を丁寧に解釈することを求めるだけですが、小問1の(2)および小問2は、おそらくハンディな国際私法の教科書では扱われておらず、拙著『国際家族法〔第2版〕』でも、489頁~491頁に関連の記述があるだけです。とくに小問2は、受験者が戸籍実務に関するものと思って、お手上げになる可能性があり、あるいは時間不足のため、白紙になる可能性もあります。しかし、内容的には、それほどの難問ではなく、基本をきちんと勉強している受験者であれば、容易に答案を書けるはずです。

いずれにせよ、採点実感では、受験者がどのような答案を書いたのかを詳らかにして頂くことを期待しています。

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■司法試験のデジタル化

2025年7月30日に司法試験のデジタル化のページが更新されました。
 https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00238.html

注目すべき点は、「問題文の紙媒体での配布は行いません。 試験用法文については、画面上で閲覧できる機能に加えて、紙媒体の配布について検討しています」という箇所です。

司法試験六法が紙媒体も必要とする理由については、2024年度のページの「司法試験のデジタル化」をご参照ください。
 http://wwr2.ucom.ne.jp/myokuda/memorandum/bar_examination2.html

そこでは、ゼミにおいて、書き込み用の六法を用意するよう、学生に求めていたことを紹介しています。私も、退職後は、出版社からの六法の無料配布がないので、毎年自分で購入しています。

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受験者数の公表 新着

2025年8月7日の法務省プレスリリースにおいて、短答式試験の結果などが公表されましたが、注目すべきであるのは、司法試験の受験状況です。
 https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00274.html
 https://www.moj.go.jp/content/001444432.pdf

それによれば、実際の受験者数は、3,837人であり、うち途中欠席が22人います。90%以上が受験していますが、これで合格者を1,500人以上出すのは、無理があります。法科大学院の入学試験でさえも、競争率が2倍を切ったら、試験にならないというので、あえて定員割れを起こしても、合格者数を抑えているのが実情です。ましてや司法試験自体の競争率が4倍を切るのは、かつての旧司法試験を考えれば、地に落ちたも同然です。

それでは、学生の努力が報われないと思うかもしれませんが、もともと司法試験には、リスクがあります。リスクを負いたくなければ、他の職業を選ぶしかありません。弁護士事務所は、普通の会社と異なり、人事部や人事課があるわけではありません。ビッグローファームでも、弁護士が自分の仕事を犠牲にして、面接などを行います。企業法務では、給与が一般の社員と同じといって、不平を言う人がいますが、コスパを考えたら、弁護士資格があるというだけで高い給与を払うわけにいきません。雇う側もリスクを負っているのに、肝心の司法試験のレベルが低すぎて、合格者でも使い物になるのかどうか、分からないのでは困ります。司法試験委員は、その責任を負うべきです。

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