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     国際財産法〔第2版〕

           奥田安弘〔著〕


出版社:明石書店
ISBN:978-4-7503-5719-5
判型・ページ数:A5・456ページ
出版年月日:2024年3月25日

筆者による解題


法律研究の二面性〕〔海事国際私法への想い〕〔本書の執筆経緯


■法律研究の二面性

本書の執筆を終えて、つくづく思うのは、法律研究には、二つの側面があることです。どの分野でも同じだと思いますが、一人で調べ執筆する時間を確保する必要がある一方で、他の人の意見も必要不可欠だということです。

時間の確保という面では、定年より1年早く退職して良かったと思います。朝は、6時に起床しても、朝食・洗面・室内トレーニング・洗濯・掃除(早朝のため箒を使用)などで、あっという間に8時ないし9時になってしまいます。その隙間時間を使ったりしながら、PCに向かいますが、10時になったら、毎日のように食料などの買い出しに出かけ、11時頃に帰宅したら、妻を散歩に連れて出たり、早めの昼食を済ませたりして、またPCに向かいます。

午後は、風呂掃除や早めの入浴、夕食の下拵え、アイロンかけ、トイレ掃除などもありますが、比較的まとまった時間がとれます。ただし、4時になったら、料理をしながら、早めの夕食を取ります。3週間に1回程度、別々の店から届けてもらう日本酒やワインなどを飲みながらですから、2時間近くかかります。6時以降は、食事の片づけをしながら、妻の相手をします。合間にPCに向かうこともありますが、あまり仕事をすると、寝つきが悪いので、程々にして、10時までに就寝します。また夜中に原稿の修正などが気になって、目覚めてしまうことも頻繁にありますが、基本的には、翌朝までベッドから出ないようにしています。

我ながら、夕食(の準備)に時間をかけすぎていると思いますが、主夫業をしているうちに、自分の納得できる食事をしたいという願望が芽生え、今の形になりました。こういう生活ですから、週1回であっても、片道1時間かけて都心まで出かけ、授業などをするのは難しいため、退職せざるを得ませんでした。以前は、まとまった時間(3時間以上)が必要でしたが、今は、あまり長い時間仕事をしたら、左手首の古傷が痛むので、隙間時間(2時間以下)をなるべく多く取るようにしています。

他の人の意見という面では、「はしがき」に書いたとおり、佐藤鉄男教授および山口修司弁護士、さらに明石書店編集部の遠藤隆郎さんとの主にメールでのやり取りがあります。私の原稿や校正ゲラに意見を寄せてもらい、多角的な視点から、改めてそれらを読み直して、考え直す機会が与えられました。一人で本を書くことにこだわる人もいますが、他の人の意見は、それを取り入れるかどうかにかかわらず、必要不可欠だと思います。

ただし、その前提としては、あらかじめ一人の作業(研究・執筆)をいかに丁寧に行うのかにかかっており、それなくして他の人の意見で助けてもらおうという料簡では、他の人も意見を述べる気がなくなるでしょう。私が学会や研究会に出席しなくなったのは、事前に報告原稿を用意していなかったり、報告原稿があっても、単に思いつくまま書いただけで、丁寧な推敲の跡が窺われないものが目に余ったりしたからです。


■海事国際私法への想い

第2版でも、海事法の分野を詳しく書きました。これは、神戸大学で窪田宏先生の指導を受けて、海商法を専攻したこと、香川大学に就職が決まった頃に、当時は神戸の事務所にいた山口修司弁護士と知り合い、東京で事務所を開設された後も、互いに仕事を依頼することがあり、40年近くの付き合いになったことなどが関係しています。

1980年頃ハンブルクにいた当時は、船荷証券条約と国際私法の関係を研究し、国際私法学会では、そのテーマで報告しましたが、第2弾のテーマで苦しみました。ちょうど便宜置籍船や船員の労働問題などに関する論文がドイツで多数公表されていましたが、これらについては、山内惟介教授がすでに精緻な論文を公表されていたので、私は、ハンブルクで知り合ったプットファルケン研究員(弁護士)の本のテーマである船主責任責任制限の準拠法に取り組みました。結果的に良かったと思います(ちなみに、プットファルケン研究員は、ツバイゲルト教授と一緒に比較法の著書を出版するなど、将来を嘱望されていましたが、若くして亡くなられたと聞いております)。

その後、海運同盟からイギリスの通商利益保護法への発展の経緯を研究し、それがきっかけとなって、大きく研究の幅を広げることができました。海事法の分野の研究者が少ないこともあり、その後も、原稿の依頼などを頂くことがありましたが、やがて国籍法研究から国際家族法にシフトして、長らく海事法の分野には、深く関わらなくなりました。しかし、山口弁護士のお蔭で、私の古い海事法の知識はアップデイトされ、『国際財産法〔第2版〕』に取り込めることができたのは、ラッキーであったと思います(もちろん『国際家族法〔第2版〕』に続き、私の原稿をすべて読んでくれた佐藤鉄男教授にも、大いに感謝しています)。

知らない人からみれば、なぜこのように一般に馴染みのない海事法の分野を詳しく取り上げるのか、不思議に思われるかもしれません。しかし、私にとっては、自分の研究のルーツのようなものであり、また実質的にも、国際財産法に必要不可欠な分野ですから、新たに若い人が参入して頂くことを願っています。


■本書の執筆経緯

本書の出版を思い立ったのは、2022年10月に『国際私法と隣接法分野の研究・続編』を出版した直後です。このように1冊本を出したら、直ちに次の本に取りかかるのは、いつものことですが、今回は、いろいろ不測の事態が生じてしまいました。

何よりも『国際財産法』の初版があまり売れず、在庫が多数残っていることもあり、久しぶりに印税を返上して出版することを編集部にお願いしました。『国際家族法』の初版を2015年に出版し、その後なるべく早く『国際財産法』を出版したいと思いましたが、散々苦しんで、2019年2月にやっと初版を出版した次第です。

もちろん第2版も、初版をベースにしていますが、全面的に構成や文章を見直す必要に迫られ、半年ほどは、なかなかアイデアが浮かばず、地獄の苦しみを味わいました。本格的に作業を開始できたのは、2023年3月末に中央大学を退職し、様々な事務手続が一段落した同年5月頃であったと思います。

前述の佐藤鉄男教授にメールで1章ずつ原稿を送り、丁寧なコメントをもらって、同年10月19日に本書の最終原稿を編集者にメールしました。もちろん山口修司弁護士にも、関連の原稿を送り、最終段階では、事務所に伺って、2時間ほど激論を闘わしました。また、出版原稿を遠藤さんにメールした後、いつも通り明石書店に出向いて、打合せを行いました。その際に、目次について遠藤さんの意見を伺いながら、見出しの一部を大きく変えたことが思い出されます。

1か月後の初校までの間、条文引用などをチェックしながら、文章の見直し作業をし、同時に翌2024年5月末締切りの次の本のために、ドイツ人のドイツ語原稿を日本語に翻訳する作業も開始していました。2023年11月末に初校のゲラが届き、従来は、3週間で戻していましたが、年末になるので、翌2024年1月の第2週まで延ばしてもらいました。ところが、以前より丁寧にゲラを読んでいるためか、結局のところ、ゲラの戻しは、締切りの直前になってしまいました。1か月以上かかったことになります。

その後、1月下旬に再校ゲラが届きましたが、再校も丁寧に読むため、戻しは、3週間後にしてもらいました。その間には、仕事のストレスなどもあり、初めてメニエル病の発作(耳石の移動)を経験し、1日だけですが、眩暈と嘔吐に苦しみました。

通常は、再校を終えたら、著者は校了となり、あとは編集部と(社外の)校閲に任せるのですが、これまでの経験上、校閲担当者がミスを見つけた例はなく、時間と費用の節約のため、最近は、私が念校(三校)もチェックするようにしています。もちろん編集者の遠藤隆郎さんは、経験を積んだベテランであり、私も全幅の信頼を寄せていますが、やはりダブルチェックは必要だと思ったからです。

その念校(三校)は、2月19日夜にメール(PDF添付)で届きましたが、翌20日から21日にかけての寒暖差のため、右肩に激痛がはしり、仕事どころか、ベッドで横になることもできず、リビングの椅子で眠る羽目になりました。それでも、21日に何とか念校を終えましたが、メールを書くのさえ大変でしたので、まず修正ファイル(ワード)だけを送り、遠藤さんに電話をして、口頭で趣旨を説明するという有様でした。

明石書店では、他の多くの出版社と異なり、校正ゲラは、編集者が特殊なPCを使って作成し、印刷所に回すのは、最終の製本のみです。昨日(3月14日)に納品された見本刷りは、その日のうちに私の自宅あてに発送し、今日(3月15日)にそれを受け取って、感無量です。校正作業と並行して、次の本の仕事(ドイツ人のドイツ語原稿の日本語訳)も進めていましたが、私自身の書下ろし原稿も含め、5月末の締切りを目指して、ペースを上げる必要があります。このあと、身体が持ち堪えてくれることを願っています。



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