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法例改正要綱試案(婚姻の部)

昭和36年法制審議会国際私法部会


    一般的前提

一 小委員会は、法例改正の審議を行なうに当り、立法形式の面においては、法例中の国際私法に関する規定を同法から分離して独立の法律とすることを考えた。その法律の題名は、一応「国際私法」とする。

二 渉外事件の裁判管轄権について規定する場合、それらの規定は右の法律におくこととする。

三 この試案は本国法主義を前提として起草されているが、属人法の決定基準として国籍をとるか住所あるいはその他のものをとるかは小委員会において未決定の問題である。

    一 婚約及び内縁

第一 婚約及び内縁については規定を設けないこと。

    二 婚姻の方式

第二 挙行地に従い挙行された婚姻は、方式上有効とすること。

第三 本国法の方式による婚姻については、次の両案があり、なお検討する。
 甲案 当事者双方の本国法に従って挙行された婚姻は、方式上有効とすること。
 乙案 当事者双方の本国法に従って外国で挙行された婚姻は、方式上有効とすること。
 *引用者注:「外国で」に傍点あり

第四 外交婚・領事婚については、次の両案があり、なお検討する。
 甲案 当事者のいずれか一方の本国法に従い、本国の大使、公使又は領事のもとで挙行された婚姻は、方式上有効とすること。
 乙案 右の甲案に、「ただし、日本で婚姻する場合において当事者の他の一方が日本人であるときはこの限りでないものとすること。」を加える。

    三 婚姻の要件

第五 婚姻の要件は各当事者につきその本国法によって定めるものとすること。

第六 失踪宣告を受けた外国人の妻の婚姻要件に関し特別の抵触規定を設けることはしないが、外国人の失踪に関しては法例第六条の改正を考慮すること。
 (注) たとえば、失踪者の妻が日本人である場合においても失踪宣告をすることができるものとすること。

第七 外国人が日本で婚姻する場合における婚姻要件具備の証明に関し、別に(たとえば戸籍法中に)規定を設けること。

    四 婚姻の無効及び取消

第八 婚姻の無効及び取消の裁判管轄権については、離婚の裁判管轄権に準ずるものとすること。

    五 婚姻の効力

第九 婚姻の効力の準拠法については、両性平等の原則にそうよう法例第十四条の規定を改めること。この場合、夫婦の共通本国法を準拠法とするが、それがない場合における解決方法については、なお検討する。
 (注) 次のような諸案が考えられる。
 甲案 夫婦の最後の共通本国法による。
  (ただし、夫婦のいずれか一方が最後の共通本国に属する場合に限る。)
 乙案 夫婦がそのいずれか一方の本国に住所を有するときは、その本国法による。
 丙案 夫婦の共通住所地法による。

第十 婚姻による成年擬制に関し特別の規定を設けるか否かについては、なお検討する。

第十一 夫婦の一方が日常の家事に関し日本において法律行為をした場合における他の一方の責任については、日本法(民法第七百六十一条)によるものとすること。

    六 夫婦財産制

第十二 夫婦財産制の準拠法に関し不変更主義を維持するか、変更主義ないし折衷主義に改めるかについては、なお検討する。
 (注) 例えば、国籍変更後に取得した財産についてのみ新本国法によるものとすること。

第十三 夫婦財産契約の締結能力に関しては、各当事者の本国法によるものとすること。

第十四 外国法による夫婦財産制は、夫婦の一方が日本に住所を有し、又は日本で営業をなすときは、その登記をしなければ、日本においてはこれを第三者に対抗することができないものとすること。
 (注) 法定財産制の登記に関しては、なお検討する。

    七 離婚の裁判管轄権

第十五 離婚の裁判管轄権について次のような趣旨の規定を設けること。その内容については次の両案があり、なお検討する。
 甲案
  (1) 被告が日本に住所を有するときは、日本の裁判所に管轄権がある。
  (2) 次の場合には、被告の住所が日本になくても、原告が日本に住所を有するときは、
   日本の裁判所に管轄権がある
  (イ) 原告が遺棄された場合、被告が国外に追放された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合
  (ロ) 被告が応訴した場合
 乙案 当事者のいずれか一方が、日本人であるとき又は日本に住所を有するときは、 日本の裁判所に管轄権があるものとする。

第十六 国際的離婚事件の場合を考慮して、国内的裁判管轄に関する現行人事訴訟手続法の規定を整備すること。
 (注) 氏を基準として裁判管轄を定めている点、専属管轄としている点等について再検討する。

    八 離婚の準拠法

第十七 離婚の準拠法は、夫婦の共通本国法によるものとすること。
 (注) 共通本国法がない場合の解決については、第九の(注)を参照。

第十八 法例第十六条ただし書の規定は削ること。

第十九 離婚の準拠法が、協議離婚、調停離婚又は審判離婚の制度を持たない場合に、家庭裁判所で調停離婚又は審判離婚をすることができるか否かの問題に関する立法措置については、なお検討する。

第二十 別居については、離婚の規定を準用するものとすること。
 (注) この場合、人事訴訟手続法に所要の改正を加える。

    九 外国離婚判決の承認

第二十一 外国離婚判決の承認について、特別の規定を設けること。この場合における承認の要件は、次のとおりとする。
 (イ) 管轄権を有する国の裁判所のした判決であること。
 (ロ) わが国の国際私法の定める準拠法に従ってなされたものであることを要件とするか否かについては、留保。
 (ハ) 民事訴訟法第二百条第二号及び第三号に掲げる要件を備えていること。


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