中国洛陽付近出土の「三角縁神獣鏡」の奇怪
                         


 今年(2015)の春三月になって、またしても洛陽付近から出土したという由緒不明で怪しげな「三角縁神獣鏡」が話題になっている。これを日本で報じたのが朝日新聞(2015年3月2日)で、例の言い方、すなわち、「卑弥呼の鏡」三角縁神獣鏡、「同型を中国で発見」と題する記事が掲載された。研究誌に掲載の論文を書いたのは河南省在住の銅鏡コレクターの王趁意氏で、当該鏡(「伝14鏡と仮にいう)について「2009年ごろに、当時、洛陽最大の骨董市で、市郊外の白馬寺付近の農民から譲り受けた」と説明しており、正確な出土地点はわからないという。
 
 「王趁意」なる人物には、注意しなければならない前歴がある。彼は、「研究者」と紹介されることもあり、中国銅鏡研究会の理事の一人でもあり、『中国東漢竜虎交媾鏡』(2002年刊。副題が「一个青銅鏡收蔵愛好者的発現」〔一人の青銅鏡收蔵愛好者の発見〕)、『中原蔵鏡聚英』(2011年刊)という著書もあるが、本職を別にもつ古鏡愛好者・マニアといったほうが実態に正確そうである。本格的な学究と受けとめるには、問題があろう。
 
 実は、2006年末ごろに王趁意氏が絡む洛陽付近出土という「三角縁神獣鏡」が問題になったことがある。このときの鏡(「伝06鏡と仮にいう)についての状況報告は、安本美典氏により『季刊邪馬台国』第95号(2007年6月刊)に詳細に記述されており、安本氏も岡村秀典氏(京大教授)も、これが日本出土の三角縁神獣鏡とは異なるものと評価されている。このときも、中国では陜西師範大学の張ボウ鎔氏が『中国文物報』(2006年12月22日刊。国家文物局が週2回、出版する雑誌)の「試論洛陽発現的三角縁神獣鏡」という論考(日本語訳が『博古研究』第33号や『季刊邪馬台国』第95号に掲載)で、日本で出土した三角縁神獣鏡の形態に最も近いと判断された。この『中国文物報』の同年11月15日刊では、当の王趁意氏による「同向式三角縁神獣鏡」という記事が先行しており(このときも朝日新聞が2007年1月24日付けで、同じ塚本和人記者が報じたが、「疑問も」という標題がついてあった)、この鏡が王趁意氏所有とされる。これも、出土や入手の経緯は明確にされない。その3年後に異なる大きさ(伝06鏡は直径が21.5センチで、今回の伝14鏡は18.3センチ)で、異なる銘文(伝06鏡は「吾作明竟幽三商……」、伝14鏡は「吾作明竟真大好……」)をもつ、今回の鏡を入手し、それが王趁意氏によって、なぜか入手6年後も経ってから論考(『中原文物』2014年6期〔12月号〕に「洛陽三角縁神獣鏡笠松紋神獣鏡初探」という標題)が発表されたということになる。
 中国では、まだ発見されていないとされる三角縁神獣鏡らしき鏡が、なぜか特定の古鏡愛好者のもとで2枚も見つかり、それが発表されては大騒ぎをする。これは、はたして偶然なのか、古鏡愛好者の熱意(5年の歳月をかけて中国の大半を歩き回ったという)のなせる業なのか。伝14鏡も伝06鏡も、ともに実際の発掘調査で見つかった鏡ではなく、入手経緯などはまるで曖昧にされたままである。だから、洛陽付近で出土したというのも、王趁意氏の言い分にすぎず、まったくの証拠がないから、この言い分を鵜呑みすることには学問的に大きな疑問がある。
 
 伝06鏡について既に、安本美典氏は、中国では偽造の技術が進んでいることから、銅に含まれる鉛の同位体比の分析の必要性を言ったが、これは今回の伝14鏡にも同様に当てはまる。
 ちなみに、伝06鏡についての問題点は、「巻雲文」の周帯をもつ三角縁神獣鏡がないこと、「斜縁」であることがあげられており(安本氏など)、伝14鏡については、西川寿勝氏は、銘帯が太く、銘文の一字一字が大きいことを違和感としてあげる。ともに、銘文や図像の線刻が鋭利で鮮明とされるから、後世の擬古品あるいは模造品という可能性も窺わせる。この辺は伝06鏡について安本氏も言うところであり、1994年に『華夏考古』に掲載された「洛陽30号墓出土の三角縁画像鏡」が、はじめは隋ないし唐初のものとされていたが、その後、北宋(960〜1127)の時期にあたるとされている例も安本氏があげる。
 三角縁神獣鏡によく似ていても後世に造られた模造品(踏み返し鏡も含む)ないし捏造品なら当然ありうることなので、鉛同位体比の分析など科学的な調査も踏まえて、適切な判断が求められるところである。考古遺物なら、得体の知れないものを信用してはならないというのが、これまでの大きな経験則だということでもある。

 (15.5.1掲上)


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  1 邪馬台国の会のHP
                講演会第295回  中国で発見されつづける「三角縁神獣鏡?」

                講演会第337回 「三角縁神獣鏡」がまたまた中国で新発見された


  2 Don Panchoのホームページ  中国で発見された一枚の三角縁神獣鏡

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